安易な糖質制限ダイエットや脂質制限ダイエットは勧められない 日本人8万人超を9年調査 J-MICC研究

2023.07.19
 日本人の炭水化物・脂質の摂取量と死亡リスクとの関連を調べた結果、男性の低炭水化物摂取および女性の高炭水化物摂取は、全死亡リスクとがん死亡リスクを高め、さらに女性の高脂質摂取は全死亡リスクを下げる可能性があることが、名古屋大学の研究で示された。

 糖質制限や脂質制限が、体重減少や血糖値の改善などを促し、2型糖尿病や肥満の予防・改善に有用とみられているが、極端な糖質や脂質の制限は、「長期的な生命予後(寿命)」に悪影響をもたらす可能性がある。

 「低炭水化物食の推奨、高脂質食の制限は、かならずしも良いとは言えない可能性がある。将来の死亡リスクを考えるうえで、食事バランスの重要性が示唆される」と、研究者は述べている。

 研究は、計8万1,333人を平均9年追跡したJ-MICC研究の成果。

低炭水化物食と低脂質食の影響を日本人で検証

 名古屋大学による今回の研究は、多施設共同コーホート研究「J-MICC研究」(主任研究者:愛知県がんセンター研究所がん予防研究分野・松尾恵太郎分野長)の追跡データを用いたもの。

 欧米をはじめとする諸外国における近年の疫学研究は、極端な炭水化物と脂質の摂取習慣が死亡リスクを高めることを示唆しており、低炭水化物食と低脂質食がもたらす「短期的な効果」と「長期的な生命予後」のあいだに大きな矛盾があるため、国際的な関心が高まっている。

 しかし、欧米人よりも1日あたりの炭水化物摂取量が多く、脂質摂取量が少ない、日本人を含む東アジア人での知見はほとんどなかった。

 そこで研究グループは、J-MICC研究の参加者約8.1万人の約9年間の追跡調査により、日本人の炭水化物・脂質摂取量と死亡リスクとの関連を評価した。

 研究対象者の1日あたりの炭水化物・脂質摂取量(g)は、食物摂取頻度調査票によって推定し、エネルギー比率(%)として算出した。

全死亡リスクは男性の低炭水化物食では1.59倍 女性の高炭水化物食でも1.71倍

 その結果、男性の炭水化物摂取により、50%から<55%群を1としたとき(基準群)、男性の低炭水化物摂取群(<40%群)の全死亡リスクは1.59倍(傾向性P値0.002)、がん死亡リスクは1.48倍(同0.071)に増加した。

 また、中程度の低炭水化物摂取群(45%から<50%群)では、循環器疾患死亡リスクが2.32倍に増加した(同 0.002)。精製炭水化物摂取(米飯、パン、めん類、和菓子、洋菓子)と非精製炭水化物摂取に分けて分析したところ、炭水化物摂取量全体での分析結果と同様の傾向がみられた。

 女性では、追跡期間が5年以上の場合、50%から<55%群を基準群としたとき、高炭水化物摂取群(≥65%群)の全死亡リスクは1.71倍(同0.005)に増加し、がん死亡リスクも同様の傾向を示した(同0.003)。

 追跡期間が5年未満の場合、循環器疾患死亡リスクは、45%から<50%群(4.04倍)と≥60%群(3.46倍)でそれぞれ増加した。精製炭水化物と非精製炭水化物に分けた分析では、明らかな関連はみられなかった。

 男性の脂質摂取量と死亡リスクとの関連については、20%から<25%群を基準群としたとき、高脂質摂取群(≥35%群)でがん死亡リスクが1.79倍となり、循環器疾患死亡リスクも脂質摂取量とともに増加した(同0.020)。

 一方、女性では、脂質摂取量が増加するほど、全死亡リスク(同 0.054)とがん死亡リスク(同 0.058)が減少する傾向がみられた。

 脂質摂取の質を考慮するため、飽和脂肪酸摂取(肉類、乳製品、加工食品に多く含まれる)と不飽和脂肪酸摂取(魚、植物油、ナッツ類に多く含まれる)に分けて分析したところ、不飽和脂肪酸の摂取量の少なさが全死亡リスクとがん死亡リスクを高めていた。

安易な糖質制限ダイエットや脂質制限ダイエットは勧められない

 「低炭水化物食(いわゆるローカーボ食)や低脂質食は、体重減少や血糖値の改善などを促し、2型糖尿病や肥満の予防・改善にとって有用とみられているが、こうした食習慣がもたらす長期的な生命予後(長生きできるかどうか)は、明らかにされていない」と、研究グループは述べている。

 「今回の研究では、喫煙や飲酒などの交絡要因を統計学的に調整したうえで、日本人の極端な炭水化物摂取および脂質摂取が"長期的な生命予後"に影響を与える可能性が示された」としている。

 「研究結果は、"ローカーボ食またはハイカーボ食が良い""脂質摂取はできるだけ控えたほうがよい"とする食事習慣に安易に飛びつくことを見直した方が良く、食事バランスが重要性であることを示唆している」。

 「J-MICC研究の追跡調査を続けることで、解析可能な症例数が多くなることから、今後はより細かな死因ごとの検討やがん部位別での評価が可能になる。また他研究による日本人一般集団での本関連の再現性、分子生物学的なメカニズムの探索と解明が期待される」としている。

日本ではじめての大規模分子疫学コホート研究

 研究は、名古屋大学大学院医学系研究科予防医学分野の田村高志氏、若井建志教授らの研究グループによるもので、文部科学省科学研究費学術変革領域研究「コホート・生体試料支援プラットフォーム(CoBiA)」による助成を受けて行われた。研究成果は、「Journal of Nutrition」に掲載された。

 J-MICC研究は2005年に開始され、現在は全国13の研究グループによって運営されている。参加者の生活習慣だけでなく、遺伝的な背景も考慮し調査されている、日本ではじめての大規模分子疫学コホート研究となっている。

 対象となったのは、同研究のベースライン調査(第1回目調査)に参加した人のうち、分析に必要なデータがすべて整っており、がん・心血管疾患の既往歴を有しない男性3万4,893人および女性4万6,440人(平均追跡期間はおよそ9年)。

 対象者の1日あたりの炭水化物・脂質摂取量(g)は食物摂取頻度調査票によって推定し、エネルギー比率(%)であらわした(炭水化物1gは4kcal、脂質1gは9kcalのエネルギーを生成する)。

 関連を評価するにあたって、死亡リスクに大きな影響を与える喫煙や飲酒などの交絡要因を分析モデルで考慮している。

J-MICC STUDY 日本多施設共同コーホート研究 (名古屋大学)
名古屋大学大学院医学系研究科予防医学分野
Dietary carbohydrate and fat intakes and risk of mortality in the Japanese population: the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study (Journal of Nutrition 2023 年 6 月 2 日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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