50代から進行する運動機能の低下を予測 メタボとロコモに対策 3万人超のリアルワールドデータを解析
千葉大学は、健診受診者の3万人超のリアルワールドデータを用いて、ロコモティブシンドローム(運動器症候群、ロコモ)とメタボリックシンドローム(メタボ)の有病率とその関連性を解析し、両者が50代から重複してあらわれやすいことを明らかにした。
とくに50代の男女で、ロコモとメタボの重複率は高く、50代のメタボ該当者のうち、男性の32.0%、女性の53.2%がロコモも併発しており、非メタボ該当者の2倍以上に相当することなども示された。
「中年期の段階で早期に発見・介入するためにも、メタボとロコモの同時健診の導入が有効であると考えられます」と、研究者は指摘している。

メタボとロコモの重複は50代からあらわれやすい
千葉大学は、健診受診者の3万人超のリアルワールドデータを用いて、ロコモティブシンドローム(運動器症候群、ロコモ)とメタボリックシンドローム(メタボ)の有病率とその関連性を解析し、両者が50代から重複してあらわれやすいことを明らかにした。ロコモとメタボに対策するために、早期介入が重要であることを示した。
ロコモは、加齢にともない運動機能が低下した状態で、将来にフレイルや要介護になりやすい重要な前兆とされている。とくに勤労者のロコモは、腰痛や転倒と密接な関係があり、健康的な社会生活を維持していくために早期からの予防が重要とされ、積極的な対策が望まれている。
一方、メタボは心血管疾患や糖尿病などのリスクを高める病態であり、日本では特定健診などを通じて積極的な検出と介入が行われている。
研究グループは今回、ロコモとメタボがどの年代から重なって出現するのかを明らかにするため、医療法人大宮シティクリニックの健診データベースを用いて検討した。解析の対象となったのは、2021年度に健診を受けた3万5,059人(平均年齢 50歳、標準偏差 ±9.6歳、男女比 6:4)。
ロコモについては、日本整形外科学会が推奨する「ロコモ度テスト」にとづいて評価した。このスクリーニング手法は、2つの運動試験(立ち上がりテスト、2ステップテスト)と、25項目の質問票(ロコモ25)の3種類で構成され、移動機能の状態を多角的に評価できる。
メタボについては、米国のNational Cholesterol Education ProgramのATP III(Adult Treatment Panel III)が提唱しているガイドラインに準じて判定した。これは、腹部肥満、高トリグリセリド、低HDLコレステロール、高血圧、高空腹時血糖のうち3つ以上を満たすことで定義される。
メタボ該当者ではロコモのリスクが1.87倍に上昇
ロコモとメタボの合併している50代男女は腹囲と血糖値が上昇
その結果、ロコモは全体の約15%、メタボは約7.5%に該当することが示された。さらに、ロコモ該当者の割合は、メタボ該当者の約24%と、非メタボ該当者の約15%に比べて有意に高く、多変量解析でも年齢や性別を調整したうえで、メタボ該当者ではロコモのリスクが1.87倍に上昇することが示された。
メタボの有無に関係なく加齢にともないロコモの割合は増加するとともに、全年齢でメタボのある人はメタボのない人と比べ、ロコモの割合が高いことも示された。
とくに50代の男女で、ロコモとメタボの重複率は高く、50代のメタボ該当者のうち、男性の32.0%、女性の53.2%がロコモも併発しており、これは非メタボ該当者のそれぞれ男性15.2%、女性25.3%の2倍以上に相当する[男性 2.11倍、女性 2.10倍]。
また、ロコモとメタボの合併している50代の男女では、腹囲と血糖値の有意な上昇とともに、高血圧、糖尿病、高脂血症の治療を受けている割合が有意に高いことも示された。
ロコモとメタボの合併は肥満・高血圧・糖尿病・高脂血症を悪化
メタボとロコモの同時健診が効果的
研究は、千葉大学大学院医学研究院の中川良特任准教授を代表者とする、埼玉県立大学、埼玉医科大学、日本保健医療大学、大宮シティクリニック、伊奈病院の研究者らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載された。
「本研究は、日本での健診制度を活用し、ロコモ評価をメタボと併せて行うことの重要性を初めて示した大規模リアルワールド解析です」と、研究者は述べている。
「従来、ロコモは高齢者の足腰の衰えとして捉えられがちですが、本研究により、中高年期におけるメタボがロコモのリスク因子となることが統計的に示されました。ロコモとメタボの合併は、肥満・高血圧・糖尿病・高脂血症といった代謝性疾患を悪化させるとともに、高齢期における要介護リスクをさらに高める可能性があります」。
「そのため、こうしたリスクを中年期の段階で早期に発見・介入するためにも、メタボとロコモの同時健診の導入が有効であると考えられます」としている。
今後は、この知見をもとに、中年期からの包括的な健康評価システムの構築や、生活習慣指導の標準化へとつなげていく予定としている。
千葉大学大学院医学研究院 消化器内科学
千葉大学大学院医学研究院 次世代予防医療創生講座
Prevalence and coexistence of locomotive syndrome with reduced mobility and metabolic syndrome: a cross-sectional study of 35,059 Japanese adults (Scientific Reports 2025年4月19日)