【新型コロナ】コロナ禍のメンタルヘルス問題 感染の恐怖、不安やうつに加えて、偏見・差別なども 国内1,000施設を調査
相談内容の多くは、不安、うつ、不眠、アルコール問題といった精神医学的問題に加え、対人関係や偏見・差別の悩みなど、社会的要素を含んでいた。
「対人関係の問題(家族、友人、同僚など)」が65%、「精神症状(抑うつ症状)」が55%、「偏見と差別」が55%、「感染に対する不安と恐れ」が50%、「家族や同僚の感染に対する不安と恐れ」が50%という結果になった。
全国の精神保健福祉センター69施設と精神科医療機関931施設、計1,000施設を対象に郵送によるアンケート調査を実施。
コロナ禍でのメンタルヘルス問題の実態を明らかに
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界的に感染者数が増加しており、感染や重症化、死の恐怖に加え、ソーシャルディスタンシングがもたらす孤独や経済的な不安の高まりが懸念されている。
うつ病や不安症の発症増加や、それにともなう自殺リスクの増加も予想されている。実際、国内の自殺者数はこの15年で年間約3万人から約2万人まで減少していたが、コロナ禍の2020年後半から若年女性を中心に増加傾向へと転じている。
そこで、九州大学と国立精神・神経医療研究センター(NCNP)などの研究グループは、厚生労働所特別研究事業として、日本でのCOVID-19に起因したメンタルヘルス問題の実態について調査を行った。
調査では、全国の精神保健福祉(精保)センター69施設と精神科医療機関931施設、計1,000施設を対象に郵送によるアンケート調査を、2020年11月1日~12月31日に実施。
精神医学的な悩みに加え、対人関係や偏見・差別などの社会的要素も
その結果、2020年1月~10月の施設あたりの電話相談件数の平均は236件。相談の大半は精保センターに電話で行われ、相談の多くはCOVID-19に感染した患者、その家族、地域住民などから寄せられ、数は少ないものの一般病院や大学病院のスタッフからも相談があったという。
相談内容は不安、うつ、不眠、アルコール問題といった精神医学的問題に加え、対人関係や偏見・差別の悩みなど、社会的要素も含んでいた。
精神保健福祉センターに寄せられたリモート相談の内容は、「対人関係の問題(家族、友人、同僚など)」(65%)、「精神症状(抑うつ症状)」(55%)、「偏見と差別」(55%)、「感染に対する不安と恐れ」(50%)、「家族や同僚の感染に対する不安と恐れ」(50%)などが多かった。
また、自殺の危険など緊急を要する相談も寄せられていた。相談の28%が緊急ケアを必要とするケースとみられ、9%に対し精神保健福祉センターが心理的介入として応急処置を提供したという。
新型コロナのメンタルヘルス問題は多元化 サポートが必要
研究は、九州大学大学院医学研究院精神病態医学分野の中尾智博教授、村山桂太郎助教講師、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)・認知行動療法センターの久我弘典センター長らの研究グループによるもの。研究成果は、国際医学誌「International Journal of Environmental Research and Public Health」に掲載された。
代表者の中尾教授は、不安症の認知行動療法を専門とし、東日本大震災での支援では災害精神医学にも携わってきた。今回の調査は、九州大学やNCNPのほか、筑波大学、聖路加大学、東京大学などのメンタルヘルスの専門家が協力している。
「COVID-19に関連したメンタルヘルス問題は広がりをみせており、精保センターや精神科医療機関での適切な対応と介入のシステム構築が急務です」と、研究者は述べている。
九州大学大学院医学研究院精神病態医学
国立精神・神経医療研究センター
Mental Health Difficulties and Countermeasures during the Coronavirus Disease Pandemic in Japan: A Nationwide Questionnaire Survey of Mental Health and Psychiatric Institutions(International Journal of Environmental Research and Public Health 2021年7月8日)