膵臓がんを早期発見できる血液中バイオマーカーの開発へ 糖尿病の治療標的のDPP-4を含む酵素活性異常を発見 東大・理研など

2024.02.27
 膵臓がんは早期診断が困難であり、膵臓がんを早期発見できる血液中バイオマーカーの開発が求められている。膵臓がんの状態変化を反映するバイオマーカー候補として、血液中の酵素活性異常を発見したと、東京大学や理化学研究所などが発表した。

 早期の膵臓がんの患者の血漿中に、「エラスターゼ」や「CD13」、2型糖尿病の治療標的にもなっている「DPP-4」などの酵素の活性異常が起きていることを明らかにした。

 血液などの容易に入手可能な体液サンプル中の生体分子の解析にもとづき、膵臓がんなどを早期発見する、リキッドバイオプシー技術の確立へとつながる研究成果としている。

早期の膵臓がんで血液中の酵素活性の異常を発見

 膵臓がんは早期診断が困難であり、膵臓がんを早期発見できる血液中バイオマーカーの開発が求められている。膵臓がんの状態変化を反映するバイオマーカー候補として、血液中の酵素活性異常を発見したと、東京大学・理化学研究所・日本医科大学・科学技術振興機構(JST)が発表した。

 研究グループは、血液中のさまざまなタンパク質加水分解酵素の活性異常を1分子のレベルで網羅的に解析する方法を開発し、早期の膵臓がんの患者の血液中での酵素活性異常を解析し、早期から観察される特異な酵素活性異常を見出した。

 この酵素活性異常には、膵臓や好中球によって産生されるエラスターゼ、がんの血管新生を促進するCD13に加えて、2型糖尿病の治療標的にもなっているDPP-4が含まれる。

 日本糖尿病学会と日本癌学会による合同委員会の報告によると、糖尿病(主に2型糖尿病)は、がんリスクの20%の上昇と関連しており、膵臓がんのリスクは1.8倍に上昇する。

 糖尿病患者は、性別・年齢に応じて適切にがんのスクリーニングを受診することが推奨されており、膵臓がんの検査としては造影CT検査、腹部MRI検査、超音波内視鏡検査(EUS)などがあるが、検査で早期発見するのが難しいという課題がある。

 血液を採取して実施するリキッドバイオプシー検査により、酵素の活性異常を調べることで、膵臓がんの早期発見を可能することが期待されるとしている。

 研究は、東京大学大学院薬学系研究科の小松徹助教、坂本眞伍特任研究員(研究当時)、水野忠快助教、浦野泰照教授、理化学研究所開拓研究本部の渡邉力也主任研究員、日本医科大学大学院医学研究科の本田一文大学院教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports Methods」に掲載された。

固相抽出を用いた化合物合成の手法により、さまざまなタンパク質加水分解酵素を対象とした、1分子酵素活性検出用の蛍光プローブ開発をおこなう方法論を確立
 これにより、調整された新たな蛍光プローブのライブラリを用いて、血液中に存在するさまざまな酵素活性の発見が可能になった。

出典:東京大学、2024年

安価で繰り返し検査が可能な「リキッドバイオプシー」の開発に期待

 酵素は、生体の恒常性を維持する重要な役割を有するタンパク質群で、セントラルドグマの下流に位置するその機能の異常は、多くの疾患と密接に関わっており、これらを検出することは、疾患の理解や診断の基盤となる。

 現在のタンパク質の機能解析では、解析対象のタンパク質分子を集団として扱う分光学的手法が広く用いられているが、より重要性の高い微量タンパク質の検出や翻訳後修飾、タンパク質間相互作用によって異なる性質を有するプロテオフォームレベルのタンパク質機能の変化を理解する方法は十分に開発されていない。

 そこで研究グループは今回、半自動合成を用いた蛍光プローブの網羅的合成技術の開発をおこない、マイクロデバイスを用いた1分子酵素活性計測技術により、血液中のさまざまなタンパク質加水分解酵素の活性を、1分子レベルで解析する方法を開発した。

 これは、これまでの「多」を対象としたタンパク質機能解析とは異なる、1分子レベルの「個」のタンパク質機能解析にもとづき血液中の酵素の活性を評価する手法だ。

 これを用いて、早期の膵臓がんの患者の血漿中に、「エラスターゼ」「CD13」「DPP-4」などの酵素の活性異常が起きていることを明らかにした。

 エラスターゼは、細胞外のエラスチンを加水分解するなどの生理学的役割を有する酵素で、膵臓や好中球によって産生される。CD13は、タンパク質のN末端アミノ酸を加水分解する酵素で、がんの血管新生を促進する機能が報告されている。さらにDPP-4は、2型糖尿病の治療標的にもなっているジペプチジルペプチダーゼと呼ばれる酵素。

 「これは、106-109分子の集団として酵素活性を解析する、従来のタンパク質機能解析技術では見出すことができなかった、1分子ごとの個性を反映した解析によって、はじめて可能になった成果だ」と、研究グループでは述べている。

 「膵臓がんは早期診断の困難さから、その早期発見に資する血液中のバイオマーカー開発には多大な需要がある。今回の研究で確立された手法を用いて、疾患の状態変化を反映し得るバイオマーカー候補の発見につながったことは非常に意義がある」としている。

 血液・尿・唾液などの容易に入手可能な体液サンプル中の生体分子の解析にもとづき病気を診断する手法である「リキッドバイオプシー」は、安価で繰り返し検査が可能という利点があり、疾患の早期発見や層別化、治療効果のモニタリング、予後予測などに有用と期待されている。

 「今回の発見は、血液中の1分子レベルの酵素活性異常を検出し、疾患の早期発見に資するリキッドバイオプシー技術の確立へとつながる研究成果として、社会実装が期待される」としている。

 なお、今回の研究に関わるプローブ合成技術に関する特許は、東京大学/理化学研究所から出願され、科学技術振興機構(JST)大学発新産業創出プログラム(START)プロジェクト支援型の支援を受けて設立された大学発ベンチャー企業であるコウソミルに導出がされている。研究成果活用による社会実装の取り組みとして、膵臓がん早期診断手法の実用化を進めているとしている。

膵臓がんと健常者の血液サンプルでの血中DPP-4活性の変化を比較
膵臓がん患者血液サンプル中で活性の強いDPP-4分子の割合が増えている様子が観察された。

出典:東京大学、2024年

東京大学 大学院薬学系研究科
Identification of activity-based biomarkers for early-stage pancreatic tumors in blood using single-molecule enzyme activity screening (Cell Reports Methods 2024年1月12日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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