絶食で肝臓では脂肪蓄積とケトン体産生が促進 絶食と老化に共通の機構が 脂肪細胞のオートファジーが活性化
脂肪組織では老化と絶食とで共通するメカニズムが働く
大阪大学は、脂肪細胞で絶食にともないオートファジーが活性化し、肝臓では脂肪蓄積とケトン体産生が促される背景にあるメカニズムを明らかにしたと発表した。
研究グループはこれまで、脂肪組織で老化にともないオートファジーが過剰となり、脂肪肝が引き起こされることを明らかにしていた。今回の研究で、絶食時でも、脂肪組織のオートファジーは活性化することを見出した。さらに、オートファジーが活性化することで脂肪組織が減少し、その分の脂肪が肝臓に移行し、ケトン体産生に利用されていることも明らかにした。
このメカニズムは老化時にも働き、生活習慣病の原因となりうることが以前の研究で明らかになっており、脂肪組織では老化と絶食とで共通するメカニズムが働くことが視された。これにより、老化にともなう生活習慣病の病態理解がさらに進むことが期待されるとしている。
研究は、大阪大学大学院医学系研究科の山室禎研究生(研究当時:同研究科遺伝学、現ハーバード大学博士研究員)、高等共創研究院の中村修平准教授(大学院医学系研究科遺伝学/大学院生命機能研究科細胞内膜動態研究室)、大学院生命機能研究科の吉森保教授(細胞内膜動態研究室/大学院医学系研究科遺伝学)、大学院医学系研究科の下村伊一郎教授(内分泌・代謝内科学)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Autophagy」に掲載された。
老化にともない脂肪細胞のオートファジーは過剰に 脂肪肝や糖尿病の原因に
ふだん、脂肪細胞は余剰な栄養を取り込み、中性脂肪として自らに貯蔵している。個体が飢餓に晒されると、脂肪細胞は中性脂肪を外に放出して、サイズが小さくなる(脂肪萎縮)。
放出された中性脂肪は、肝臓に取り込まれ、蓄積される(肝脂肪症)。さらに、肝臓は中性脂肪を用いて、緊急時の栄養として重要なケトン体を産生する。この過程で、脂肪細胞が中性脂肪の行き先を自らから外へと変化させるステップが重要であると考えられていたが、そのメカニズムはよく分かっていなかった。
オートファジーは細胞内の分解機構であり、不要なタンパク質や細胞内小器官を分解することで細胞の健康を維持している。そのため、2型糖尿病、がんや神経変性疾患など、さまざまな疾患に対してオートファジーは抑制的に働くことが示されている。
一方で、研究グループは2009年に、オートファジー抑制因子となるタンパク質「Rubicon」を同定した。Rubiconは、オートファゴソームとリソソームの融合に必須な働きをする複合体に結合し、その働きを抑えることで、オートファジーを負に制御している。
老化にともない、脂肪細胞のRubiconは減少し、オートファジーが過剰となり、脂肪肝や2型糖尿病の原因となりうることが示されている。脂肪細胞のRubiconは、絶食時にも減少することが分かっているが、そのメカニズムも不明だった。
絶食時にもオートファジーが促進され、肝臓での脂肪蓄積・ケトン体産生が進む
研究グループはまず、Rubiconが絶食にともない顕著に減少することを確認。同時に、もうひとつのオートファジー抑制因子である「mTORC1」が不活性化していることも見出した。そのため、絶食時に脂肪細胞のオートファジーが活性化すると考えられる。
次に、脂肪細胞でRubiconを欠損し、オートファジーが上昇したマウスの脂肪組織量を調べた。その結果、野生型マウスでは絶食時に顕著な脂肪組織量の減少を示すが、オートファジーが上昇したマウスは絶食させなくても、同程度の脂肪組織量の減少を示した。
逆に、脂肪細胞でオートファジーを抑制したマウスは、絶食させても脂肪組織量が減少しにくいことが分かった。さらに、このマウスでは絶食時で、肝臓での脂肪蓄積と血中ケトン体の増加が顕著に抑制されていた。
これらから、脂肪細胞でのオートファジー活性化は、絶食時の肝臓での脂肪蓄積とケトン体産生に重要であることが明らかになった。
さらに、絶食した個体の脂肪組織では、脂肪の蓄積に重要な働きをするSRC-1、TIF2が、活性化したオートファジーによって分解されていることが判明。つまり、絶食時にオートファジーが活性化すると、脂肪細胞は脂肪を蓄積できなくなり、その結果として肝臓での脂肪蓄積が進むと考えられる。
続いて、絶食時にはRubiconもオートファジーによって分解されることも明らかになった。つまり、絶食時にオートファジーが誘導されると、抑制因子であるRubiconが分解されて、さらにオートファジーが促進されるという仕組みがあると考えられる。
これらのことから、絶食時は、Rubiconの分解・減少によりオートファジーが促進され、脂肪細胞が脂肪を蓄積できなくなることで、肝臓での脂肪蓄積・ケトン体産生が進むことが明らかになった。
脂肪組織でオートファジーを抑制すると、絶食に伴う肝臓での脂肪蓄積、ケトン体産生が低下する
脂肪細胞の老化は、絶食時の反応が通常時にも働くことである可能性
研究グループはこれまでの研究で、老化にともなうオートファジー過剰が脂肪細胞での脂肪貯蔵を妨げること、その分の脂肪が肝臓に蓄積されること(脂肪肝)を突き止めていた。
今回の研究では、このメカニズムは本来、絶食時の肝臓での脂肪蓄積・ケトン体産生のためにあると考えられる、つまり、脂肪細胞の老化とは、絶食時の反応が通常時にも働いてしまうことである可能性が示唆された。
「老化した脂肪細胞でオートファジー活性が増加し、脂肪肝の一因となることが分かっていたのですが、このメカニズムは本来、絶食時に必要なケトン体産生のためのものであることが明らかになりました。今後の研究では、どのようにこのメカニズムが老化にともない働いてしまうのかが重要になると考えられます」と、研究者は述べている。
「絶食時には、オートファジーの活性化以外にもさまざまな機構が働くことが知られているため、今回の研究を端緒として、脂肪細胞老化の研究が加速されることが期待されます」としている。
大阪大学大学院医学系研究科
Loss of Rubicon in adipocytes mediates the upregulation of autophagy to promote the fasting response (Autophagy 2022年3月14日)