体と頭を同時に使う運動が高齢者の身体・認知能力を向上 「ゲーム感覚」がポイント

2022.07.05
 平均年齢89.9歳の超高齢者を対象に、体と頭を同時に使う運動である「二重課題運動」(運動課題と認知課題の2つの課題を同時に行う運動)に取り組んでもらった結果、身体機能と認知機能の両方が著しく維持・改善されたことが、筑波大学の研究で明らかになった。

 ルネサンスが開発した、脳に刺激を与え、認知機能の低下を予防することを⽬指して、「2つのことを同時に⾏う」「左右で違う動きをする」などの、ふだん慣れない動きを⾏う運動プログラムである「シナプソロジー」を利用した。

体と頭を同時に使う運動である「二重課題運動」に注目

 厚生労働省は、日本では2025年には高齢者の5人に1人が認知症患者になると推定している。加齢にともない、身体や認知機能は衰えていくが、運動を実施することで、身体機能や認知機能を維持・向上できる可能性がある。

 実験室レベルでのヒト研究や疫学調査研究などでは、運動や身体活動に、身体機能や認知機能の低下を抑制する効果があることは数多く示されているが、その多くは身体機能向上に特化した運動であり、認知機能に対する効果はあまり検証されていない。

 そこで研究グループはこれまで、体と頭を同時に使う運動である「二重課題運動」に注目してきた。運動課題と認知課題の2つの課題を同時に行うことが、高齢者の身体機能や認知機能の向上のための新たな方策になる可能性がある。2020年には、身体機能や認知機能の共役関係による、シナジー効果(相乗効果)についても報告している。

85歳以上の「超高齢者」を対象とした「二重課題運動」プログラム

 そこで今回の研究では、高齢者よりも身体機能や認知機能の向上が困難とされる「超高齢者」(85歳以上)を対象に、低強度の運動で構成され、超高齢者でも無理なく楽しめるゲーム感覚の「シナプソロジー」と呼ばれる運動プログラムを用いて、高度の二重課題運動の有効性の定量的評価を試みた。

 「シナプソロジー」は、脳に刺激を与え、認知機能の低下を予防することを⽬指して、「2つのことを同時に⾏う」「左右で違う動きをする」などの、ふだん慣れない動きを⾏う運動プログラムで、ルネサンスが開発した。

 研究グループは、老人ホームに入居する平均年齢89.9歳(85~97歳)の超高齢者24人を対象に、二重課題運動を実施する群(二重課題運動群、12人)と、実施しない群(対照群、12人)に無作為に分けて、2つのグループのあいだの身体機能と認知機能の変化を比較した。

 二重課題運動群は、運動プログラムを、週2回(60分/回)、24週間にわたって実施した。具体的には、二重課題運動として、日本の伝統的遊びである「じゃんけん」や「ボール回し」の身体動作と、数字の計算や言葉を使う脳活性課題を組み合わせて、同時に行ってもらった。週を重ねるにつれて二重課題の難易度を増すようにプログラムを設計した。

二重課題運動群が狙う効果

出典:筑波大学、2022年

「二重課題運動」を実施すると身体機能と認知機能が向上

 今回の研究では、▼握⼒、▼開眼⽚⾜⽴ちテスト、▼TUG(椅子に腰かけた状態から立ち上がり、数メートルを早歩きし、折り返してからふたたび着座する)、▼6m通常歩⾏テスト、▼5回椅⼦⽴ち上がりテスト、▼ペグ移動テスト(ゲーム盤上のペグ棒を指で持ち移動する)の5つの項⽬を、認知機能と関連がある⾝体機能とした。

 その結果、二重課題運動を実施した群では、6種の身体機能の評価項目のなかでも、「ペグ移動テスト」と「開眼⽚⾜⽴ちテスト」の成績が、実施しなかった群に比べて有意に高く、身体機能が向上していることが明らかになった。

 また、認知機能の評価項目である「ミニメンタルステート検査」(MMSE)の結果も著しく改善された。MMSEは、時間の⾒当識、場所の⾒当識、3単語の即時再⽣と遅延再⽣、計算、図形模写などの11項⽬から構成される、30点満点の認知機能検査。

 一方、運動を実施していなかった対照群は、すべての項目で負の結果を示し、身体や認知機能が時間とともに低下していることが明らかになった。

二重課題運動実施群では対照群に比べ認知機能と身体機能が向上

出典:筑波大学、2022年

「ゲーム感覚で、集団で楽しめる」ことがポイント

 今回実施した二重課題運動プログラムには、車いすや杖を使用する超高齢者も参加したが、ゲーム感覚で、集団で楽しめるように構成されているため、参加率は極めて高かった。このプログラムが、社会的交流の機会が減っている超高齢者のメンタルヘルスにも有効な影響をもたらす可能性が示された。

 「研究で用いたような、二重課題運動を楽しく継続的に実施すれば、身体や認知機能が維持・改善され、認知症を発症せずに健康寿命を伸ばすことができると考えられます。今後、身体と認知機能を同時に活性化させるための、より高度なプログラムの開発に取り組みます」と、研究グループでは述べている。

 研究は、筑波大学テーラーメイドQOLプログラム開発研究センターの尹之恩研究員、ルネサンス 健康経営ソリューション部ソリューション開発チームの上田哲也氏らによるもの。研究成果は、「Alzheimer’s & Dementia:Translational Research & Clinical Interventions」に掲載された。

筑波大学 開発研究センター
脳がよろこぶ!笑顔がうまれる! シナプソロジー研究所 (ルネサンス)
Cognitive and physical benefits of a game-like dual-task exercise among the oldest nursing home residents in Japan (Alzheimer's & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions 2022年4⽉15⽇)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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