糖尿病・肥満症治療薬のGLP-1受容体作動薬は脂肪性肝疾患(MASLD)の治療でも効果 MASLDに2つの異なるタイプが
MASLD治療の利用可能なオプションは不足 GLP-1受容体作動薬に期待
2型糖尿病と肥満症の治療薬として利用が増えているGLP-1受容体作動薬は、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の管理と治療でも大きな利益をもたらす可能性があるという研究が発表された。
研究は、中国の上海交通大学医学部および上海総合病院の消化器科のMing-Wang Wang氏らによるもの。研究成果は、「Journal of Clinical and Translational Hepatology」に掲載された。
米国肝臓病学会(AASLD)や欧州肝臓学会(EASL)などは2023年に、脂肪性肝疾患の病名と分類法を変更した。脂肪性肝疾患は代謝機能障害との密接な関連が知られるようになり、「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」(MASLD)という疾患名が採用された。
MASLDは、肥満、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症などを1つ以上併発し、心血管代謝リスク因子(CMRF)のある状況にある肪性肝疾患で、世界的な有病率は30~32%と推定されており、肝線維症などの関連疾患の発症率は今後数年間で大きく増加すると予想されている。
MASLDの利用可能な薬理学的管理オプションは不足しているが、GLP-1受容体作動薬は、多面的で潜在的な作用をもち、MASLDの代謝機能障害を改善する治療薬として有望な候補となっている。
MASLDの治療は現状では、主にライフスタイル介入に焦点があてられており、治療の選択肢は限られている。それだけでは長期的な解決策を提供できないことが多いため、薬物療法によるより効果的な介入が求められている。
MASLDの治療選択肢としてのGLP-1受容体作動薬の可能性
「GLP-1受容体作動薬は、MASLDの2つの重要な要因である血糖と脂質の代謝異常に有益な効果をもたらす。インスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制し、胃内容排出を遅らせることで、血糖値を下げ、インスリン感受性を改善し、減量にも役立つ。これらの代謝効果は、インスリン抵抗性と肥満により肝臓の脂肪蓄積が進展するMASLD患者にとっても重要だ」と、研究者は述べている。
さらに、「GLP-1受容体作動薬は、内臓脂肪の減少や脂質プロファイルの改善など、脂質代謝の有益な変化も促す。これらは肝臓の健康に影響を及ぼし、MASLDの進行を抑制すると考えられる」としている。
神経調節については、肝臓での代謝、炎症、再生の調節における中枢神経系(CNS)の役割が知られるようになり、GLP-1受容体作動薬の視床下部と脳幹に作用し食欲と満腹感に影響を与える作用は注目されている。
「GLP-1受容体はCNSのさまざまな部分で発現しており、GLP-1受容体作動薬が脳肝軸を通じて、肝臓の代謝にも影響を与える可能性がある。正確なメカニズムは不明だが、神経経路でのGLP-1受容体の活性化は、肝臓の脂質代謝を調節し、炎症を軽減し、MASLDの改善に寄与すると考えられる」としている。
肝臓への直接的な影響については、GLP-1受容体は肝細胞でも発現していることが一部の研究で示唆されているが、これには異論があり、こうした影響は神経調節や全身の代謝変化などの肝外メカニズムによって媒介されている可能性が指摘されており、現在も議論が続いている。
しかし、「GLP-1受容体は前臨床研究では、酸化ストレス、小胞体ストレス、マクロファージ活性化に関与する細胞経路に影響を与えることで、肝臓の炎症、線維症、脂質代謝を調整する可能性が示唆されている。肝臓での正確なターゲットは不明だが、これらの知見は、MASLDの肝関連合併症の治療選択肢としてのGLP-1受容体作動薬の可能性を浮き彫りにしている」としている。
MASLD治療でのGLP-1受容体作動薬の使用の最適化では課題も
GLP-1受容体作動薬のMASLDに対する効果を検証する臨床試験はいくつか行われおり、リラグルチド、セマグルチド、チルゼパチドについては、肝臓の組織学的所見の改善、肝臓脂肪の減少、代謝パラメータの改善などの有望な結果が報告されている。
LEAN試験では、リラグルチド1.8mgを投与すると、代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)の改善や肝線維症の進行の抑制など、肝臓の組織学的所見が改善することが示されている。代謝上の利点に加えて、肝臓の脂肪量を減らし、肝酵素を改善することも示され、MASLDを管理するための治療薬の候補になっているとしている。
セマグルチドについても、臨床試験で肝線維症および脂肪肝を改善し、とくに進行した線維症(F2/F3)の患者で効果が高いことが示されている。体重減少、代謝制御、肝臓関連のアウトカムに明らかな利点があり、現在も肝線維症および肝硬変に対する効果を検証する研究が進められているという。
GIP/GLP-1受容体作動薬であるチルゼパチドについても、MASLD患者の肝臓脂肪量を減らし、代謝アウトカムを改善する効果が示されている。初期の臨床試験では、チルゼパチドは血糖管理を改善するだけでなく、肝線維症やMASH悪化を抑制し、GLP-1受容体作動薬のみよりも治療効果は高い可能性が示されている。
「いくつかの臨床試験で有望な結果が示されているにもかかわらず、MASLD治療でのGLP-1受容体作動薬の使用を最適化するために、いくつかの課題が残っている。その1つは、肝臓への長期的なメリットを評価するための信頼できる臨床エンドポイントがないことだ」と、Wang氏は指摘している。
肝臓移植、肝硬変の進行、肝臓関連死亡などの従来のエンドポイントは、広範囲かつ長期的な臨床試験を必要とするため、短期的に使用するのは困難だ。MASHや肝線維症の改善などの組織学的エンドポイントは、現在もっとも受け入れられやすい指標だが、病理学的な測定値の変動やプラセボ反応がその使用を複雑にしている。
さらに、「GLP-1受容体作動薬の代謝上のベネフィットは明らかだが、肝線維症に対する直接的な影響は不明だ。進行中の研究がそれらの側面を明らかにし、進行した肝疾患に対するより広範な治療計画にGLP-1受容体作動薬を組み込めるかどうかを判断するのに役立つことを期待している」としている。
「GLP-1受容体作動薬の長期的な有効性、安全性、肝線維症への影響をさらに調査する必要があるが、臨床研究が進むにつれて、GLP-1受容体作動薬がMASLD治療で重要な役割を果たし、代謝管理の新しいパラダイムを提供できるようになる可能性がある。このことは、とくに2型糖尿病や肥満症などの併存疾患をもつ患者でのMASLD治療は重要だ」と指摘している。
肝臓特異タイプと全身タイプ
Current Status of Glucagon-like Peptide-1 Receptor Agonists in Metabolic Dysfunction-associated Steatotic Liver Disease: A Clinical Perspective (Journal of Clinical and Translational Hepatology 2024年12月)
Current status of glucagon-like peptide-1 receptor agonists in metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease: A clinical perspective (Journal of Clinical and Translational Hepatology 2024年12月10日)
New research reveals two types of fatty liver disease (カロリンスカ研究所 2024年12月9日)
Partitioned polygenic risk scores identify distinct types of metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease (Nature Medicine 2024年12月9日)