妊娠糖尿病の発症リスクは血中の水銀濃度が高いと1.3倍に増加 エコチル調査
妊娠中の水銀ばく露が妊娠糖尿病の発症に関連?
妊娠糖尿病は、妊婦自身にも出生児にも悪影響を及ぼすことが分かっており、発症を予防することが求められる疾患だ。そのため、妊娠糖尿病に関連する要因を調べる研究は多く進められており、これまでに喫煙・肥満・高年齢での出産など多様な要因が報告されている。
最近になり海外の先行研究で、妊娠中の水銀ばく露が妊娠糖尿病の発症に関連することが報告された。そこで、今回の研究では、エコチル調査に登録された妊婦などを対象に解析した。
血液中の水銀濃度(妊娠中期・末期)と、妊娠糖尿病の関連について解析した結果、妊婦の血液中の水銀濃度が高い場合に、妊娠糖尿病の発症頻度が高まり、その発症リスクを示すオッズ比は1.3程度に増加することが示された。
「妊娠糖尿病の発症要因は多様であり、水銀ばく露の寄与は小さいと考えられますが、研究結果を関連学会に情報提供し、引き続きメカニズムなどの検証が必要と考えられます」と、研究グループでは述べている。
研究は、東北大学大学院医学系研究科の龍田希准教授、仲井邦彦名誉教授らの研究グループが、国立環境研究所と共同で行ったもの。研究成果は、学術誌「Environmental Research」に掲載された。
子供の健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が、子供の健康に与える影響を明らかにするために、2010年度から全国で、約10万組の親子を対象に環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査。
同調査は、臍帯血、血液、尿、母乳、乳歯などの生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子供の健康と化学物質等の環境要因との関連を明らかにすることを目的としている。
その結果、妊婦の血液中の水銀濃度が4.99ng/g以上の場合に妊娠糖尿病への影響がもたらされ、水銀に起因する妊娠糖尿病の発症リスクはオッズ比で1.3程度に増加する。
これらの関連は、母親の採血時年齢、妊娠前のBMI、妊娠糖尿病の既往歴などを考慮した解析を行なった結果、示された。
妊娠糖尿病の発症要因は多様であり、水銀ばく露の寄与は小さい?
研究では、エコチル調査に参加した10万4,602人の妊婦などのうち、データの揃っている7万8,964人を解析対象とした。全対象者のうち妊娠糖尿病の妊婦の割合は2.1%だった。
妊婦の血液中の金属の中央値は、水銀が3.6ng/gだった。解析した結果、妊婦の血液中の水銀濃度が高くなることと、妊娠糖尿病の発症頻度が高くなることは関連していることが示された。
影響が観察される濃度を調べる解析結果によると、妊婦の血液中の水銀濃度が4.99ng/g以上の場合に、妊娠糖尿病へ影響を与えることが示唆され、エコチル調査に登録された女性の27.1%が超過していることが示された。
ただし、「水銀に起因する妊娠糖尿病の発症リスクは、オッズ比で1.3程度と大きくはない影響であると判断されます。妊娠糖尿病の発症要因は水銀以外にも、喫煙・肥満・高年齢での出産など多くの要因が関与しますので、水銀のばく露を控えることだけで発症リスクを回避できるものではありません。また、妊娠糖尿病の発症メカニズムは未解明であることから、さらなる検討が求められます」と、研究グループでは述べている。
水銀は、食物連鎖で上位の魚に多く含まれている。そのため、厚生労働省はメチル水銀含有量の高い特定の魚の摂取を控えるよう注意喚起を行なっている。一方で、魚は胎児の成長を促す栄養素が豊富に含まれているため、妊娠中に積極的に摂取すべき食材でもある。
「今回の研究結果により認められた影響は軽微であり、厚生労働省が推奨する魚の食べ方を見直す必要は現時点ではないと考えます」と指摘している。
エコチル調査は、研究の中心機関として国立環境研究所にコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また公募で選定された15の大学などに日本各地の調査拠点となるユニットセンターを設置し、環境省とともに各関係機関が協働して実施されている。
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査) (国立環境研究所)
東北大学大学院医学系研究科 発達環境医学
Association between whole blood metallic elements concentrations and gestational diabetes mellitus in Japanese women: the Japan Environment and Children’s Study (Environmental Research 2022年4月15日)