糖尿病ではリポタンパク粒子(a)が高いほどプラークが不安定 動脈硬化を惹起する作用が

2022.04.26
 糖尿病患者の心筋梗塞発症に関与するプラーク不安定化に、動脈硬化を惹起するリポタンパク(a)粒子が関与していることが、国立循環器病研究センターと熊本大学の研究で明らかになった。

 炎症・酸化ストレスや血栓形成を促進する作用のあるリポタンパク粒子(a)は、心筋梗塞などの心血管疾患リスクを高めることが報告されている。

 リポタンパク(a)粒子は、スタチンを用いたLDLコレステロール管理療法下で、糖尿病症例のプラーク不安定化に寄与する重要な脂質粒子である可能性が示された。

 「今後、糖尿病症例でリポタンパク粒子(a)濃度の低下によるプラークへの効果の解明も目指し、研究を進めていく予定です」と、研究グループでは述べている。

糖尿病患者はスタチン投与下でも心筋梗塞を発症 リポタンパク(a)粒子に着目

 2型糖尿病は心筋梗塞などの心血管疾患発症リスクが高い疾患であり、その発症に寄与する因子を同定し、有効な治療対策を確立することが求められている。心筋梗塞は、冠動脈のプラークが不安定化し破綻・血栓形成を引き起こすことにより発症する病態だ。

 研究グループはこれまで、不安定プラークが心筋梗塞発症に関与し、脂質低下治療薬であるスタチンを用いたLDLコレステロール管理療法が、不安定プラークの改善に有効であることを報告している。

 しかし、スタチン投与下でも心筋梗塞は依然として発症することから、不安定プラークを引き起こす詳細な機序を解明し、有効な治療法の開発につなげることが求められている。

 近年、炎症・酸化ストレスや血栓形成促進作用を有するリポタンパク粒子(a)は、心筋梗塞などの心血管疾患リスクを高めることが報告されており、とくに糖尿病症例でその関与は顕著であることが確認されている。

 リポタンパク粒子(a)は、アポタンパクBとアポタンパク(a)が結合したリポタンパクであり、プラスミノゲン活性低下やマクロファージの泡沫化により、動脈硬化形成・進展・不安定化や血栓形成を引き起こす。

 研究グループは今回の研究で、糖尿病症例でのプラーク不安定化に、リポタンパク粒子(a)が関与する可能性を考え、冠動脈疾患をすでに発症した非糖尿病・糖尿病患者で、リポタンパク粒子(a)と不安定プラーク形成の関係を検証した。

 研究は、国立循環器病研究センター心臓血管内科の中村隼人派遣研修生、片岡有医長、野口暉夫副院長、熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学の辻田賢一教授らによるもの。研究結果は、欧州動脈硬化学会誌「Atherosclerosis」にオンライン掲載された。

リポタンパク粒子(a)が高値の糖尿病症例はプラークの不安定化が顕著

 研究グループは、国立循環器病研究センターに入院し、すでにスタチンによるLDLコレステロール低下療法を施行されていた冠動脈疾患患者312例(非糖尿病症例151例、糖尿病症例161例)を解析した。

 冠動脈プラーク内の組織成分を描出し、プラーク不安定に関与する脂質成分同定に有効な近赤外線スペクトロスコピーを用いて、リポタンパク粒子(a)と不安定プラーク形成の関係を解析した。非糖尿病症例では、厳格なLDLコレステロール管理下でのプラークの特徴を解析した。

 その結果、リポタンパク粒子(a)濃度は、糖尿病症例で有意に高値だった(リポタンパク粒子(a)濃度>30mg/dLの頻度:34.2% vs. 21.8%、p=0.01)。

 さらに、スタチンによるLDLコレステロール低下療法下でも、約45%以上の糖尿病ならびに非糖尿病症例は、不安定プラークを有していた(47.7% vs. 46.6%、p=0.85)。

 非糖尿病症例では、LDLコレステロール値は不安定プラーク指標と正の相関(p=0.03)を示したが、リポタンパク粒子(a)値と不安定プラーク指標では、有意な相関は認められなかった(p=0.96)。

 一方、糖尿病症例では、LDLコレステロール値(p=0.03)ならびにリポタンパク粒子(a)値(p=0.01)が、不安定プラーク指標と正の相関にあることが認められた。

 とくに、リポタンパク粒子(a)が高値(>50mg/dL)を示す糖尿病症例は、プラークの不安定化が顕著に観察された。

 また、スタチンにより日本循環器学会が推奨するLDLコレステロール管理目標値(70mg/dL未満)を達成しえた症例でも、糖尿病症例のプラーク安定化で、LDLコレステロール値とともにリポタンパク粒子(a)が関与していることが分かった。

糖尿病症例ではリポタンパク粒子(a)が高いほどプラークが不安定だった

出典:国立循環器病研究センター、2022年

リポタンパク粒子(a)をターゲットとする治療法の開発へ

 研究グループはこれまで、糖尿病症例のプラーク不安定化の改善でのLDLコレステロール管理療法の有効性と課題、ならびに動脈硬化症に関与する他の因子の重要性を報告している。

 糖尿病症例のプラーク不安定化に寄与する新たな治療標的の同定を目指しており、今回の研究で、スタチンを用いたLDLコレステロール管理療法下で、リポタンパク(a)粒子は糖尿病症例のプラーク不安定化に寄与する重要な脂質粒子である可能性を明らかにした。

 糖尿病症例は動脈硬化症が非糖尿病症例に比して重度であり、スタチンによるLDLコレステロール管理療法や血糖管理下でも、心筋梗塞などの心血管疾患発症リスクは低くなく、心筋梗塞発症を予防しうる新たな治療アプローチが必要とされている。

 リポタンパク粒子(a)をターゲットとする治療法は、糖尿病症例でとくに有効である可能性がある。リポタンパク粒子(a)を標的とした抗体医薬が開発されており、海外では治験が実施されている。

 国立循環器病研究センター心臓血管内科と糖尿病内科も、血糖管理下でのリポタンパク粒子(a)の経時的な推移・プラーク不安定化予防効果を検証する介入研究を、2019年3月より行っている(jRCT1052180152)。

 「今後、糖尿病症例でリポタンパク粒子(a)濃度の低下によるプラークへの効果の解明も目指し、研究を進めていく予定です」としている。

国立循環器病研究センター心臓血管内科
熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学
Elevated Lipoprotein (a) as a Potential Residual Risk Factor Associated with Lipid-rich Coronary Atheroma in Patients with Type 2 Diabetes and Coronary Artery Disease on Statin Treatment: Insights from the REASSURE-NIRS Registry (Atherosclerosis 2022年4月9日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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