野菜のフラボノイドが糖尿病で生じる心筋弛緩機能障害を改善 筋小胞体カルシウムポンプ活性化により心筋弛緩を促進
ケルセチンは心筋弛緩で重要な役割を果たす筋小胞体カルシウムポンプに作用
心筋弛緩機能障害は、高血圧や冠動脈疾患、糖尿病などにともなう心不全の原因となる主要な心臓疾患。しかし、心筋弛緩機能障害をターゲットとした治療薬はいまだ存在しない。
東邦大学の研究グループは、ブロッコリーなどの野菜や果物に含まれるフラボノイドである「ケルセチン」の、心筋弛緩機能障害に対する改善作用を、糖尿病マウスを用いて明らかにした。
ケルセチンには、心筋弛緩で重要な役割を果たす筋小胞体カルシウムポンプに作用することで、心筋弛緩機能を促進する働きがあるとしている。ケルセチンはこれまで、抗酸化作用や抗ウイルス作用、抗癌作用などが報告されている。
研究グループは今回、糖尿病マウスから摘出した心筋組織で、ケルセチンが心筋弛緩を促進すること、これが筋小胞体カルシウムポンプの活性化によるものであることを明らかにした。
ます、インスリン放出をになう膵臓β細胞を特異的に障害するストレプトゾトシンを用いて糖尿病マウスを作製し、マウスから摘出した心筋組織の弛緩機能に対するケルセチンの影響を検討した。
正常群と糖尿病群の弛緩時間を比較すると、糖尿病群で弛緩時間が延長しており、弛緩機能障害が引き起こされていることが確認された。このような心筋組織に対してケルセチン(10µM、30µM)を処置すると、正常群、糖尿病群ともに弛緩時間が濃度依存的に短縮した。
さらに、ケルセチンが弛緩時間の短縮をもたらす細胞内機序を明らかにする目的で、心筋弛緩に重要な役割を果たすトランスポーターであるナトリウムカルシウム交換機構と筋小胞体カルシウムポンプに着目し、それぞれの阻害薬を用いて検討した。
その結果、このケルセチンの弛緩時間短縮作用はナトリウムカルシウム交換機構の阻害薬であるSEA0400(10µM)の前処置では抑制されず、筋小胞体カルシウムポンプの阻害薬であるcyclopiazonic acid(3µM)の前処置によって抑制された。
以上の結果から、ケルセチンは、筋小胞体カルシウムポンプの活性化を介して心筋弛緩を促進すること、糖尿病による心筋弛緩機能障害を改善しうることが明らかとなった。
研究は、東邦大学薬学部薬物学教室の田中光教授、濵口正悟講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Biological and Pharmaceutical Bulletin」にてFeatured Articleとして推薦され掲載された。
「今回得られた知見は、ケルセチンを含めた天然物由来の新しい治療薬の開発につながることが期待されます」と、研究グループでは述べている。
東邦大学薬学部薬物学教室
Positive Lusitropic Effect of Quercetin on Isolated Ventricular Myocardia from Normal and Streptozotocin-Induced Diabetic Mice(Biological and Pharmaceutical Bulletin 2021年12月1日)