糖尿病・高血圧だけでなく肥満・内臓脂肪蓄積・脂質異常症も腎臓病のリスクに 低HDL-Cも腎機能低下と関連 30万人超を調査

2025.04.17

 BMIが25以上であり、ウェスト径、HDLコレステロール、中性脂肪値がメタボリックシンドロームの基準から外れている肥満者は、将来尿タンパクが発生するリスクが高いことを、東京大学が30万人超の健診データの解析により明らかにした。HDLコレステロール値が低い場合も、その後の腎機能低下と関連していることも示された。

 「血糖・血圧だけでなく、肥満・脂質異常症・内臓脂肪蓄積も独立して慢性腎臓病の発症・進行と関連している可能性がある。メタボリックシンドローム基準値を外れた肥満・内臓脂肪蓄積・脂質異常症を有する対象者は、将来の慢性腎臓病発症・進行のリスクが高い可能性があり、腎機能の検査とフォローアップが重要と考えられる」と、研究者は述べている。

HDLコレステロール低値がその後のeGFR低下と関連
ウェスト径、HDLコレステロール、中性脂肪値がメタボリックシンドロームの基準から外れていると尿タンパクが発生するリスクは上昇

 研究は、東京大学大学院医学系研究科の吉田唯助教、松山裕教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Internal Medicine」に掲載された。

 研究グループは今回、国内大規模の職域健康診断の実施団体であるパブリックヘルスリサーチセンターの30万8,174人の約3年分のデータを解析し、ベースラインのウェスト径、HDLコレステロール、中性脂肪値がメタボリックシンドロームの基準から外れている場合、およびBMIが25以上の場合に、将来尿タンパクが発生するリスクが高いことを明らかにした。また、HDLコレステロール値が低いと、その後の腎機能低下と関連していることも分かった。

 これまで、高血圧・高血糖と慢性腎臓病との関連は多く報告されてきたが、肥満・内臓脂肪蓄積・脂質異常症と慢性腎臓病の関連については見解の一致がみられていなかった。その原因のひとつは、国や地域でこれらの検査値であるBMI・ウェスト径・HDLコレステロール値・中性脂肪値の基準値が異なるためと考えられる。

 そこで研究グループは、日本のメタボリックシンドロームの基準値(ウェスト径:男性 85cm以上、女性 90cm以上、中性脂肪 150mg/d以上、HDLコレステロール 40mg/dL未満)、およびBMI 25以上を基準にして、肥満・内臓脂肪蓄積・脂質異常症と慢性腎臓病発症・進行の関連を調べた。

 2回以上血清Cr(クレアチニン)値が測定された30万8,174人の約3年分の健診データを解析。データ全体の、ベースラインの年齢の中央値は46歳で、男性が60%を占めた。

 まず、ベースラインのBMI(またはウェスト径)・HDLコレステロール、中性脂肪値と年間eGFR低下率5%以上の関連を、ロジスティック回帰分析により解析したところ、年齢・性別・合併症(高血圧・高血糖等)・生活習慣で調整した後も、HDLコレステロール低値がその後の比較的急速なeGFR低下と関連していた[オッズ比 0.98、95%信頼区間 0.97~0.99]

 また、ベースラインで腎機能低下および尿タンパクのない28万1,526人を対象に、経時的な尿タンパク出現率の比をポアソン回帰分析により求めたところ、多変量で調整した後も、ウェスト径、HDLコレステロール、中性脂肪値がメタボリックシンドロームの基準から外れている場合に、経時的に尿タンパクが発生するリスクは、それぞれオッズ比は1.36[95%信頼区間 1.28~1.45]、1.21[同 1.08~1.36]、1.09[同 1.02~1.17]となり、メタボリックシンドローム基準内の対象者と比して有意に高い結果になった。

 ウェスト径をBMIに変更して解析しても、BMIが25以上で尿タンパクの発生率比が有意に高く[オッズ比 1.40]、BMI 30以上[同 1.64]、BMI 35[同 1.82]と上昇するほど発生率比も上昇した。

 ウェスト径を説明変数とした際のオッズ比はBMI 25を説明変数として用いた際のオッズ比と近く、ウェスト径の頻回の測定が困難であっても、BMIにより腎障害発症のリスクを評価できる可能性も示された。

 「メタボリックシンドローム基準値を外れた肥満・内臓脂肪蓄積・脂質異常症を有する対象者は、将来の慢性腎臓病発症・進行のリスクが高い可能性があり、該当者には腎機能の検査とフォローアップが重要と考えられる」と、研究者は述べている。

(1) ベースライン変数とeGFR年間低下率(5%/年以上)との関連
HDLコレステロール低値がその後の比較的急速なeGFR低下と関連していた
(2) メタボリックシンドローム基準によるベースライン変数と尿タンパクの新規発症率比
ウェスト径、HDLコレステロール、中性脂肪値がメタボリックシンドロームの基準から外れている場合に、経時的に尿タンパクが発生するリスクは上昇した。
  1 ウェスト径(男性 85cm未満、女性 90cm未満)と比較(OR=1)
  2 HDLコレステロール 40mg/dL未満と比較 (OR=1)
  3 中性脂肪肪 150mg/dL未満と比較 (OR=1)
(3) ベースラインBMIの値による尿タンパクの新規発症率比
(2)のベースライン変数のウェスト径をBMIに変更し、BMI 25、30、35をそれぞれ当てはめて解析
OR:オッズ比、95%CI:95%信頼区間
出典:東京大学、2025年

東京大学大学院医学系研究科
Association of Obesity, Visceral Fat Accumulation, and Dyslipidemia with the Risk of Chronic Kidney Disease (Internal Medicine 2025年4月12日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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