デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド」の2型糖尿病対象の第3相試験 HbA1cおよび体重減少の優越性を示す 低血糖は認められず
イーライリリー・アンド・カンパニーは、成人2型糖尿病患者を対象にチルゼパチド単剤療法のプラセボに対する有効性および安全性を評価する臨床試験「SURPASS-1試験」で、ベースラインから40週投与後のHbA1c低下および体重減少について、チルゼパチドの優越性が示されたことを公表した。
同試験の詳細は、第81回米国糖尿病学会年次学術集会(ADA)で口述発表され、同時に「Lancet」に掲載された。また、6月29日に開催されるADAスポンサードシンポジウム内でも紹介される。
チルゼパチドの最高用量群で2.07%のHbA1c低下および9.5kg(11.0%)の体重減少
「チルゼパチド」は、2型糖尿病治療のために開発されている新しいクラスの治療薬であり、グルコース依存性インスリン刺激性ポリペプチド(GIP)とGLP-1の両インクレチンの作用を単一分子に統合した新規の週1回投与デュアルGIP/GLP-1受容体作動薬。
GIPは、GLP-1受容体作動薬の効果を補完するホルモンであり、前臨床モデルで食物摂取量を減少させ、エネルギー消費を増加させることが示されているため、体重の減少をもたらすと考えられる。また、GLP-1受容体作動薬と併用することで、グルコースと体重に対してより大きな効果をもたらす可能性がある。
「SURPASS-1試験」の被験者は、54.2%が未治療で、糖尿病の平均罹病期間が比較的短く4.7年、ベースラインのHbA1cが7.9%、ベースラインの体重が85.9kgだった。有効性estimandを用いた評価から、プラセボ群(+0.04のHbA1c変化および-0.7kg[0.9%]の体重変化)に対し、チルゼパチド群はHbA1cが最大2.07%低下し、体重が最大9.5kg(11.0%)減少した。
糖尿病ではない人のレベルであるHbA1c 5.7%未満に到達した被験者は最大52%だった。また、チルゼパチド群では空腹時血糖値がベースラインから有意に改善した。加えて、副次評価項目である食後2時間後の自己血糖測定値がベースラインから有意に改善した。
チルゼパチドの全体的な安全性プロファイルは、確立されたグルカゴン様ペプチド(GLP-1)受容体作動薬と同様であり、消化器系の副作用がもっとも多く報告された有害事象だった。有害事象による治療中止率は、チルゼパチドの各投与群で7%未満だった。
Dallas Diabetes Research CenterのディレクターでSURPASS-1試験の治験責任医師であるJulio Rosenstock氏は次のように述べている。
「2型糖尿病は進行性の疾患であり、多くの方が食事療法や運動療法で目標のHbA1cに達成することが困難な状態にあります。本臨床試験は、血糖値コントロールや体重減少など、いくつかの重要な糖尿病治療目標に対するチルゼパチド単剤の影響を評価するためにデザインされました。SURPASS-1試験の結果から、チルゼパチドは、2型糖尿病の罹病期間が比較的短い被験者で、臨床的に意味のあるHbA1cの低下と堅調な体重減少を示し、全ての主要評価項目および主要な副次評価項目で有意な改善をもたらしました」。
なお、チルゼパチドは、成人2型糖尿病患者の血糖値管理と長期的な体重管理のための第3相試験が進行中で、また非アルコール性脂肪肝炎(NASH)および左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)の追加適応症に対しても臨床試験を実施中。
チルゼパチドの最低用量群でも1.87%のHbA1c低下および7.0kg(7.9%)の体重減少
有効性estimand*および治療方針estimand*を用いた評価では、チルゼパチドの3用量(5mg、10mg、15mg)全群で、ベースラインからのHbA1cと体重減少およびHbA1cが7%未満(米国糖尿病学会が糖尿病患者に推奨する目標)または5.7%未満に達した被験者の割合に統計学的有意差が認められた。
40週時点で、チルゼパチドのプラセボに対する有意な空腹時血糖値(FSG)の減少が示された。また、副次評価項目である食後2時間後の自己血糖測定値の平均値は、3用量全群で140mg/dL以下(糖尿病ではない人の標準的な値)だった。
有効性estimandの具体的な詳細は以下の通り――。
⚫ HbA1cの変化:-1.87%(5mg)、-1.89%(10mg)、-2.07%(15mg)、+0.04%(プラセボ)
⚫ 体重減少:-7.0kg(-7.9%、5mg)、-7.8kg(-9.3%、10mg)、-9.5kg(-11.0%、15mg)、-0.7kg(-0.9%、プラセボ)
⚫ HbA1cが7%未満:87%(5mg)、92%(10mg)、88%(15mg)、20%(プラセボ)
⚫ HbA1cが5.7%未満:34%(5mg)、31%(10mg)、52%(15mg)、1%(プラセボ)
⚫ FSGの変化:-43.6mg/dL(5mg)、-45.9mg/dL(10mg)、-49.3mg/dL(15mg)、+12.9mg/dL(プラセボ)
治療方針estimandの具体的な詳細は以下の通り――。
⚫ HbA1c低下:-1.75%(5mg)、-1.71%(10mg)、-1.69%(15mg)、-0.09%(プラセボ)
⚫ 体重減少:-6.3kg(5mg)、-7.0kg(10mg)、-7.8kg(15mg)、-1.0kg(プラセボ)
⚫ HbA1cが7%未満の割合:82%(5mg)、85%(10mg)、78%(15mg)、23%(プラセボ)
⚫ HbA1cが5.7%未満の割合:31%(5mg)、27%(10mg)、38%(15mg)、1%(プラセボ)
⚫ FSGの変化:-39.6mg/dL(5mg)、-39.8mg/dL(10mg)、-38.6mg/dL(15mg)、+3.7mg/dL(プラセボ)
チルゼパチド投与群に重症低血糖または54mg/dL未満の低血糖の発生は認められなかった。
追加の探索的評価項目では、チルゼパチドの3用量全群でベースラインからの脂質代謝指標(空腹時)の変化が示された。具体的には、チルゼパチドの最高用量(15mg)群で総コレステロールが8.4%減少し、中性脂肪が21.0%減少、低比重リポ蛋白(LDL)コレステロールが12.4%減少し、超低比重リポ蛋白(VLDL)コレステロールが19.8%減少、高比重リポ蛋白(HDL)コレステロールが7.5%増加した。
もっとも多く報告された有害事象は軽度から中等度の消化器関連であり、多くは投与量の増量期間中に認められた。同試験のチルゼパチド投与群(それぞれ5mg、10mg、15mgの順)では、悪心(11.6%、13.2%、18.2%)、下痢(11.6%、14.0%、11.6%)、嘔吐(3.3%、2.5%、5.8%)、便秘(5.8%、5.0%、6.6%)の発生頻度がプラセボ(悪心6.1%、下痢7.8%、嘔吐1.7%、便秘0.9%)に比べて多く認められた。
全体の治療中止率は、5mg群で9.1%、10mg群で9.9%、15mg群で21.5%、プラセボ群で14.8%だった。15mg群とプラセボ群での治療中止理由の大多数は、有害事象以外(コロナウイルスのパンデミックによる懸念、家族や仕事の都合など)によるものだった。
チルゼパチドの第3相国際臨床開発プログラムであるSURPASSプログラムでは、10の臨床試験に1万9,000人以上の2型糖尿病患者が登録されており、そのうち5つは国際的な承認申請のための試験。うちSURPASS-1試験は、2型糖尿病に対するチルゼパチドの承認申請のための試験。5つの試験はすべて完了ており、リリーは2021年の年末までに規制当局へ申請データパッケージを提出する予定としている。
Efficacy and Safety of Once Weekly Tirzepatide、a Dual GIP/GLP-1 Receptor Agonist Versus Placebo as Mono therapy in People with Type 2 Diabetes (SURPASS-1)(American Diabetes Association’s 81st Scientific Sessions 2021年6月)
Efficacy and Safety of Once Weekly Dual GIP/GLP-1 Receptor agonist Tirzepatide Versus Placebo in People with Type 2 Diabetes Inadequately Controlled with Diet and Exercise (SURPASS-1): A Double-blind、Randomised Controlled Trial(Lancet 2021年6月26日)