GLP-1受容体作動薬を1型糖尿病患者に投与 インスリン注射の必要が大幅に減少 インスリン離脱例も
新規に1型糖尿病と診断された患者でGLP-1受容体作動薬は有用である可能性
1型糖尿病と新規に診断された患者にGLP-1受容体作動薬を投与すると、インスリン注射の必要性が大幅に減少するという12ヵ月間の試験結果を、米ニューヨーク州立大学が発表した。
GLP-1受容体作動薬の投与により血糖管理が改善し、一部の1型糖尿病患者ではインスリン投与が中止された。研究成果は、「New England Journal of Medicine」にオンライン掲載された。
研究は、同大学臨床研究センター内分泌科で2020年~2022年に、計10人の患者を対象に行われた。全員が過去3~6ヵ月以内に1型糖尿病と診断されており、診断時の平均HbA1c値は11.7%で、米国糖尿病学会(ADA)の推奨値である7.0%未満をはるかに上回っていた。
研究グループは、対象者にまず低用量のセマグルチドを投与し、同時に基礎インスリンと、食事時の追加インスリンを投与した。その結果、低血糖を避けるために、食事時の追加インスリンの量を減らした一方で、セマグルチドの投与量は増やすことになった。
試験には12ヵ月間の追跡期間が設けられた。開始後3ヵ月以内に、すべての患者は追加インスリンの投与が中止された。6ヵ月以内には、10人中の7人の患者が、基礎インスリンの投与も中止された。その間の患者の平均HbA1c値は、6ヵ月後に5.9%、12ヵ月後に5.7%に改善した。
「新規に1型糖尿病と診断された患者では、GLP-1受容体作動薬の投与は有用である可能性がある。今回の小規模な研究でえられた知見は、1型糖尿病患者にとって非常に有望と考えられる。現在、より大規模な長期間研究を計画している」と、同大学生物医科学大学院特別教授のParesh Dandona氏は言う。
「1型糖尿病を発症したばかりの患者では、インスリンをある程度分泌できる膵β細胞がかなりの割合で残っている可能性がある」と、Dandona氏は指摘する。
「1型糖尿病患者の多くは、発症時にはβ細胞の能力の50%がまだ残存しており予備力がある。これにGLP-1受容体作動薬によるインスリン分泌刺激を加えると、食事時の追加インスリン投与に代えられる可能性が考えられる」としている。
Dandona氏は10年以上にわたり、2型糖尿病の治療薬として開発された薬を、1型糖尿病の治療にも利用できる可能性について検討していたという。
Dandona氏らが2011年に発表した研究では、1型糖尿病患者14人に、別のGLP-1受容体作動薬であるリラグルチドをインスリンに追加して投与した。
その結果、全員で空腹時血糖値および週間血糖値のそれぞれの平均が低下し、血糖変動も1週間で大幅に改善され、インスリン投与量が減った。この研究成果は、「European Journal of Endocrinology」に掲載された。
セマグルチドは米国では「オゼンピック」「ウゴービ」「リベルサス」の商品名で販売されている。リラグルチドも2型糖尿病の治療薬として承認されている。
今回の研究の目標は当初から、セマグルチドによる治療を食事時の追加インスリン投与の代替として使用できるかを検討することだったという。それによりインスリン投与量を減らし、血糖コントロールを改善し、HbA1cを低下させ、高血糖の低血糖の危険な変動を潜在的に減らせる可能性が考えられた。
GLP-1受容体作動薬には、血糖降下作用に加え、吐き気と嘔吐などの副作用や、食欲抑制の作用もあり、多くの患者は体重減少を経験する。
「米国の1型糖尿病患者の50%で過体重や肥満がみられるため、この点でもGLP-1受容体作動薬には利点がある」と、Dandona氏は指摘している。
「今回の発見が、今後の長期の追跡による大規模な研究で裏付けられれば、1921年のインスリンの発見以来の、1型糖尿病の治療での劇的な変化となる可能性がある」としている。
After treatment with semaglutide, newly diagnosed Type 1 diabetes patients needed little or no insulin (ニューヨーク州立大学バッファロー校 2023年9月6日)
Semaglutide in Early Type 1 Diabetes (New England Journal of Medicine 2023年9月7日)
Liraglutide as additional treatment for type 1 diabetes Get access Arrow (European Journal of Endocrinology 2011年7月1日)