「ばね指」は1型糖尿病と2型糖尿病で多い合併症 HbA1cが高いほどリスクは上昇

2022.11.08
 指の付け根に炎症が起こり、痛み、腫れ、熱などか生じる「ばね指(弾発指、トリガーフィンガー)」は、1型糖尿病患者、2型糖尿病患者でよくみられ、HbA1cが高いほどそのリスクは上昇すると、スウェーデンのルンド大学が発表した。

 この症状で手術が必要となる人の20%以上は、糖尿病があるか、糖尿病リスクの高い人だとしている。ばね指が2型糖尿病発症の警告信号となる可能性も指摘している。

ばね指は糖尿病症例では10~15%にみられる

 手の指には、指を曲げるための屈筋腱と腱の浮き上がるのを抑え、力を有効に伝える靭帯性腱鞘があるが、その部分の腱や腱鞘が炎症を起こすと腱鞘炎になる。さらに進行すると、引っ掛かりが生じ、痛み、腫れ、熱などか生じる「ばね指(弾発指、トリガーフィンガー)」となる。ばね指の治療は、手術以外の方法では腱鞘内ステロイド注射が一般的だ。

 糖尿病集団では一般集団に比べ、ばね指が多くみられることが、スウェーデンのルンド大学が主導した研究で示された。ばね指は、1型糖尿病患者、2型糖尿病患者で多く、HbA1cが高いほどそのリスクは上昇するという。研究成果は、「Diabetes Care」に掲載された。

 「手外科の分野では、1型と2型の両方のタイプの糖尿病患者で、より頻繁にばね指の影響を受けることに長い間注目してきました。この疾患で手術が必要となる症例の20%以上は、糖尿病であるか、糖尿病の発症リスクの高い患者であることが示されました」と、同大学スコーネ大学病院手外科のMattias Rydberg氏は言う。

 高血糖(血糖調節不全)がばね指のリスクを高めるかを調べるため、研究群は同病院の2件の医療記録を解析した。すべての診断例を含む地域ヘルスケアデータベースと、スウェーデン糖尿病調査のデータを使用し、8万5,755例を対象に調査した。

 その結果、全症例の1~1.5%がばね指の影響を受けるのに対し、糖尿病症例では10~15%で発生し、とくに1型糖尿病の群で多くみられることが判明した。

 ばね指と診断されたのは、1型糖尿病では男性 271例、女性 486例、2型糖尿病では男性 1,009例、女性 1,143例で、オッズ比は、1型糖尿病の男性で1.4(95% CI 1.2~1.7、P=0.001)、女性で1.26(同 1.1~1.4、P=0.001)、2型糖尿病の男性で1.12(同 1.0~1.2、P=0.003)、女性で1.14(同 1.2~1.2、P<0.001)となった。

HbA1cが高いほどばね指のリスクは上昇

 さらに血糖管理が、ばね指の影響を受けるリスクを増加する重要な因子となることが示された。1型糖尿病と2型糖尿病の両群の男女で、血糖値が高いと、ばね指の影響を受けるリスクが上昇した。HbA1c値 6.5%未満の群と8%超の群とでは、ばね指のリスクは最大で5倍の差があることが示された。

 HbA1c値 6.5%未満(管理良好群)と8%超(管理不良群)を比較した結果、ばね指と診断されたオッズ比は、1型糖尿病の男性では、良好群 3.75(95% CI 1.51~9.30)、不良群 6.18(同 2.50~15.24)、女性では、良好群 2.64(同 1.50~4.66)、不良群 3.22(同 1.83~5.60)となった。

 2型糖尿病の男性では、管理良好群 1.59(同 1.36~1.87)、管理不良群 1.93(同 1.59~2.36)、女性では、管理良好群 1.80(同 1.54~2.09)、管理不良群 2.35(同 1.96~2.83)となった。

 「いずれかの群が他の群よりも頻繁に医療機関の受診をしているかは不明ですが、それが結果的に影響を与える因子となっている可能性があります」と、Rydberg氏は指摘している。

ばね指は2型糖尿病の警告信号になる?

 ばね指のリスク増加の背後にあるメカニズムは不明だが、血糖値が高いと指の屈筋腱などの結合部と腱鞘が厚くなり、障害が起こるのが原因のひとつと考えられるという。血糖管理が不良の人は、手や指の神経障害が起きやすいことは、以前から知られている。

 「糖尿病合併症がどのように発生するのかに注意を向けることが、早期発見と迅速な治療開始を可能にし、良い結果を得られると考えられます。血糖管理不良は、神経圧迫とばね指に加えて、手の平の結合組織の肥厚(デュピュイトラン拘縮)、関節の動きの障害、さらには親指の付け根の関節炎のリスクと関連している可能性があります。これらの合併症の背後にあるメカニズムは、糖尿病の場合ではおそらく異なります」と、同大学手外科のLars Dahlin教授は述べている。

 研究グループは、研究の次のステップとして、糖尿病患者でばね指の手術がどれだけ効果的かを明らかにすることを計画している。

 「臨床での経験から、手術は成功しやすく、合併症もほとんどないことが示されていますが、1型および2型糖尿病の患者が完全な指の動きと機能を取り戻すには少し時間がかかります。この仮説をさらに調査したいと思います」と、Dahlin教授は述べている。

 「もう1つの興味深いアイデアは、ばね指が2型糖尿病の警告信号になるかどうかを調べることです。人差し指の影響を受けているすべての人が糖尿病を発症するわけではありませんが、最新の医療記録から、糖尿病発症のリスク域にいる人を早期発見できる可能性があります」としている。

Hands in people with diabetes more often affected by trigger finger (ルンド大学 2022年10月19日)
High HbA1c Levels Are Associated With Development of Trigger Finger in Type 1 and Type 2 Diabetes: An Observational Register-Based Study From Sweden (Diabetes Care 2022年8月25日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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