日本の高血圧の受療者数は2,700万人 高血圧治療者数は2,400万人 未受診の患者も多い 高血圧学会などがNDBを分析

2022.06.14
 日本高血圧学会などは、全国レセプトデータベースであるNDBの分析により、日本の医療機関での高血圧患者数と治療薬処方数をはじめて明らかにした。

 高血圧受療者数は約2,700万人で、高血圧治療者数は約2,400万人だという。

 約2,700万人という受療者数は、国民健康・栄養調査での測定血圧値による推計有病者数約4,300万人よりも少ないが、この約1,600万人の差異は、実際には高血圧性疾患に罹患しているものの、未受診の患者が多いことを示唆している。

 また、約2,700万人の受療者の59%は病床数が20未満の医療機関、52%が病床数ゼロの医療機関を受診しており、高血圧のコントロールには、小規模な医療機関でのかかりつけ医の診療が重要であることが示された。

日本の高血圧性疾患受療者数は約2,700万人

 日本高血圧学会・医療経済研究機構・東京大学の共同研究グループは、国が保有するNDBから、2014年の高血圧性疾患患者の受療者数および高血圧治療薬の処方患者数の算出を行った。

 これは、「超高速・超学際レセプト情報等ビッグデータ解析プラットフォームシステム(SFINCS)」を用いて行ったもの。SFINCSは、医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構と東京大学 生産技術研究所の研究グループが開発した次世代NDBデータ研究基盤。

 その結果、次のことが明らかになった――。

    • 日本の高血圧性疾患受療者数は約2,700万人であり、受療者のうちの95%の診断名が「高血圧」だった。

    • 高血圧治療薬が処方されていた患者数は受療者の89.6%にあたる約2,400万人だった。

    • 年齢調整した日本の高血圧性疾患患者の受療率は、女性では10万人あたり2万1,414人で、男性では10万人あたり2万1,084人だった。

    • 年齢調整した日本の高血圧治療薬の処方率は、女性では10万人あたり1万9,118人で、男性では10万人あたり1万8,974人だった。

    • 年齢階級別に比較すると年齢が高いほど受療率は高く、80歳以上では人口の65.6%が受療していた。

    • 高血圧性疾患受療者の59%は病床数20未満の小規模な医療機関を受診していた。

 研究は、日本高血圧学会の三浦克之理事(滋賀医科大学NCD疫学研究センター センター長・教授)らによるもの。研究成果は、「Hypertension Research」に掲載された。

NDB分析で明らかになった高血圧性疾患受療者数および高血圧治療薬が処方された患者数

医療機関の病床数別の高血圧性疾患患者受療割合

出典:日本高血圧学会、2022年

レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)のビッグデータを分析

 2010年国民健康・栄養調査データによる試算では、人口の35%に当たる4,300万人が血圧値140/90mmHg以上の高血圧であると推計されているが、そのすべてが医療機関で高血圧と診断されているわけではない。

 高血圧性疾患は社会経済的な負荷が大きな疾患であることから、医療機関での高血圧性疾患患者の受療者数や受療率ならびに高血圧治療薬の処方患者数や処方率の実態を明らかにすることは重要となる。

 そこで研究グループは、日本高血圧学会・医療経済研究機構・東京大学による共同研究として、日本での高血圧性疾患患者の受療数・受療率および高血圧治療薬の処方患者数・処方率を明らかにすることを目的に、今回の研究を実施した。

 研究は、厚生労働科学研究費補助金による「ナショナルデータベース(NDB)データ分析での病名決定ロジック作成のための研究(H30-政策-指定-007)」(研究代表者:満武巨裕)として行われた。

 「レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)」は、医療費適正化計画の作成、実施および評価のための調査や分析などに用いるデータベースとして、国がレセプト情報および特定健診・保健指導の情報を収集している、国内最大のデータベースだ。

東北地方や北関東で高血圧受療率が高い 未発見・未受療も多い?

 研究グループは、NDBのうち、2014年の外来医科レセプトおよび調剤レセプトデータについて、SFINCSを用いて分析した。

 対象とする高血圧性疾患は、国際疾病分類第10版2013年版を用いて31病名を特定し、この病名によるレセプト発生をもって高血圧性疾患による受療者とした。高血圧治療薬は、解剖治療化学分類を用いて特定し、レセプトでの治療薬処方をもって処方ありとした。

 これらの情報を用いて、高血圧性疾患患者の受療者数・受療率(年齢調整)および高血圧治療薬の処方患者数・処方率(年齢調整)を性別および都道府県別に算出した。

 都道府県別に年齢調整受療率を比較すると、人口10万人あたり、男性では最小が神奈川県の1万9,833人で、最大が福島県の2万4,504人で、女性では最小が京都府の2万254人、最大が栃木県の2万4,625人だった。

 最大の府県は最小の府県の約1.2倍だった。都道府県別に年齢調整処方率を比較すると、男性では、最小が1万7,221人(神奈川県)、最大が2万2,598人(福島県)だった。女性では、最小が1万7,860人(京都府)、最大が2万2,557人(栃木県)だった。

 都道府県別比較では、東北地方や北関東の都道府県で高血圧受療率が高い傾向がみられ、これらの地方での高い脳卒中死亡率とも関連しているものと考えられる。

 一方で、高血圧受療率の低い都道府県でも、未発見・未受療が多い可能性もあるので注意が必要としている。

 「本研究で明らかにしたような高血圧性疾患の受療率・処方率を継続的に観察し、地域の特性に応じた高血圧医療の改善を進めていくことが、国民の循環器病予防と健康寿命延伸のために必要です」と、研究グループでは述べている。

都道府県別の高血圧性疾患患者の受療率
上:男性 下:女性

都道府県別の高血圧治療薬の処方率
上:男性 下:女性
出典:日本高血圧学会、2022年

Prevalence of Hypertensive Diseases and Treated Hypertensive Patients in Japan: A Nationwide Administrative Claims Database Study (Hypertension Research 2022年6月10日)
Epidemiology of hypertension in Japan: where are we now? (Circulation Journal 2013年8月23日)

特定非営利活動法人 日本高血圧学会
NDBオープンデータ (厚生労働省)
NDBオープンデータ 分析サイト (厚生労働省)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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