【SGLT2阻害薬】6種類の薬剤間で循環器疾患での効果が共通する「クラスエフェクト」の可能性 新規処方の糖尿病約2.5万症例を解析

2022.05.26
 東京大学は、約2万5,000人の糖尿病症例のレセプトデータベースから、SGLT2阻害薬の6種類の薬剤間で、心不全や心筋梗塞、脳卒中などの循環器疾患の発症率が同等であることを明らかにした。

 SGLT2阻害薬には、薬剤間で循環器疾患での効果が共通している「クラスエフェクト」がある可能性がある。SGLT2阻害薬は糖尿病治療薬として開発され、心不全や慢性腎臓病に対して保護的に作用することも示されており、臨床現場でのニーズは高まり、処方数は急増している。

SGLT2阻害薬の「クラスエフェクト」を調査

 SGLT2阻害薬は、腎臓にある近位尿細管での糖の再吸収を阻害することで血糖値を下げる糖尿病治療薬として開発され、日本では2014年にはじめて保険適用され、現在では6種類のSGLT2阻害薬が市販されている。

 SGLT2阻害薬は、近年の大規模臨床試験で、糖尿病の有無に関わらず、心不全や慢性腎臓病に対して保護的に作用することが示されたことから、糖尿病のみならず心不全などの循環器疾患や慢性腎臓病などの治療にも用いられるようになっている。SGLT2阻害薬の臨床現場でのニーズは高まり、処方数は急増している。

 一方で、現在、国内で保険適用されている6種類のSGLT2阻害薬について、薬剤間で効果に差があるのか、あるいはその効果はSGLT2阻害薬として共通(クラスエフェクト)のものなのかについては、臨床でのエビデンスは乏しい。

 個々のSGLT2阻害薬の循環器疾患に対する保護効果の大きさは、これまでの大規模臨床試験で必ずしも一貫していない。また、いくつかの研究では、主にSGLT2選択性の違いにより、個々のSGLT2阻害薬間で薬理効果や転帰(治療後の症状の経過)に差が生じる可能性があることが報告されている。

約2万5,000人の糖尿病症例のリアルワールドデータを解析

 そこで東京大学の研究グループは、新たにSGLT2阻害薬を処方された約2万5,000人の糖尿病症例について、大規模なリアルワールドデータを用いて検討し、個々のSGLT2阻害薬の薬剤間で心不全、心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心房細動の発症リスクを比較した。

 研究では、2005年1月~2020年4月までにJMDC Claims Databaseに登録され、登録4ヵ月以上が経過してから、糖尿病に対してSGLT2阻害薬が処方された、循環器疾患や透析治療歴のない2万5,315症例(年齢中央値52歳、83%が男性、HbA1c中央値7.5%)を解析対象とした。

 6種類のSGLT2阻害薬について、それぞれ、「エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)」5,302症例、「ダパグリフロジン(同フォシーガ)」4,681症例、「カナグリフロジン(同カナグル)」4,411症例、それ以外のSGLT2阻害薬は1万921症例(「イプラグリフロジン(同スーグラ)」5,275症例、「トホグリフロジン(同デベルザ、アプルウェイ)」3,074症例、「ルセオグリフロジン(同ルセフィ)」2,572症例に対して処方されていた。

6種類の薬剤間で心不全・心筋梗塞・狭心症・脳卒中・心房細動の発症リスクはいずれも同等

 平均観察期間814±591日の間に、855例の心不全、143例の心筋梗塞、815例の狭心症、340例の脳卒中、そして139例の心房細動が記録された。

 年齢や性別、併存疾患やその他の糖尿病治療薬で補正し解析した結果、エンパグリフロジン、ダパグリフロジン、カナグリフロジン、その他のSGLT2阻害薬の間で、心不全・心筋梗塞・狭心症・脳卒中・心房細動の発症リスクはいずれも同等であることが明らかになった。

 SGLT2阻害薬の各薬剤間では、効果に差がないことが考察され、その効果はSGLT2阻害薬全般に共通する「クラスエフェクト」であることが示唆された。

SGLT2 阻害薬の薬剤間における循環器疾患の発症リスク
SGLT2阻害薬全般に共通する「クラスエフェクト」がある可能性

出典:東京大学、2022年

SGLT2阻害薬の重要なリアルワールドエビデンスになる可能性

 研究は、東京大学大学院医学系研究科循環器内科学・東京大学医学部附属病院循環器内科の小室一成教授、同大学の金子英弘特任講師、康永秀生教授、岡田啓特任助教、鈴木裕太研究員、佐賀大学の野出孝一教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cardiovascular Diabetology」に掲載された。

 「JMDC Claims Database」は、JMDCが提供する、国内で最大規模の健診・レセプトデータベース。「本研究では、JMDC Claims Databaseの登録症例が、主に中規模以上の企業に勤務するビジネスマンとその家族であることによる選択バイアスの可能性など、今後考慮が必要な項目もあります」と、研究グループでは述べている。

 「一方で、糖尿病や循環器疾患に対する主要な薬剤として、SGLT2阻害薬の注目が高まるなかで、SGLT2阻害薬の各薬剤間での循環器疾患の発症リスクが同等である可能性を、大規模なリアルワールドデータで示したことは、これまでエビデンスの乏しかった臨床の現場に、貴重なエビデンスを提供することになると考えられます」。

 「研究結果が、糖尿病や循環器疾患の予防・治療に役立ち、生活習慣病をもつ患者さんのQOL改善や健康寿命の延伸につながることが期待されます」としている。

東京大学医学部附属病院循環器内科
Comparison of cardiovascular outcomes between SGLT2 inhibitors in diabetes mellitus (Cardiovascular Diabetology 2022年5月18日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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