新型コロナウイルスに対する中和抗体を迅速に検査する自動測定装置用キットの開発に成功 慶應大

2021.08.19
 慶應義塾大学は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する中和抗体を自動測定装置で測定するキットの開発に成功した。

 同キットで測定された検体中の中和抗体価は、実際の新型コロナウイルスを用いた感染中和試験と高い相関が認められた。

 新型コロナウイルス感染後の免疫状態の把握や、ワクチン効果の研究の促進につながる成果だ。

ワクチンの普及にともなう多検体の中和抗体測定の需要に対応

 一般的にウイルスに感染すると、生体内で抗体と呼ばれる防御因子が作られるようになる。抗体はウイルスのさまざまな部位を特異的に認識して結合するが、感染防御の能力は抗体によって異なる。

 ウイルスの活性に重要な部位に結合してその機能を阻害し、ウイルスを不活化する能力を有する抗体は「中和抗体」と呼ばれる。

 2020年末に、慶應義塾大学医学部、国立感染症研究所、JSR、医学生物学研究所は、産学連携の成果として、通常の実験室で使用可能な新型コロナウイルスに対する中和抗体測定キットを開発した。しかし、このキットは手動で測定する方法のため、多検体の処理能力に課題があった。

 そこで研究グループは、ワクチンの普及にともなう多検体の中和抗体測定の需要に応えるため、自動臨床検査装置に搭載可能な新型コロナウイルスに対する中和抗体の測定キットの開発に着手し成功した。

 このキットはLSIメディエンス社が製造する国産の自動臨床検査装置STACIAに搭載可能。1時間あたり最大270テストを実現し、血清のサンプリングから結果が得られるまで19分以内と迅速に検査を実施することができる。研究用試薬としての実用化に向けて現在、医学生物学研究所が準備を進めている。

 研究は、慶應義塾大学医学部臨床検査医学教室の村田満教授、涌井昌俊准教授、リウマチ・膠原病内科学教室の竹内勤名誉教授、竹下勝助教、先端医科学研究所遺伝子制御研究部門の佐谷秀行教授らの研究グループが、医学生物学研究所と共同で行ったもの。

新型コロナウイルスの中和抗体の検査の迅速化と多検体の処理が課題に

新型コロナウイルスの侵入経路

出典:慶應義塾大学医学部、2021年

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、ウイルス表面にあるSpikeタンパク質がヒトの細胞膜上のACE2タンパク質と結合することをきっかけに、細胞への侵入を開始することが明らかになっている。

 この結合を阻害することができれば、ウイルスの侵入を防ぐことができると考えられ、そのような作用のある物質は、治療薬候補として世界中で探索されている。

 一般的に、ウイルスに感染した患者は体内の免疫機構が働き、抗体と呼ばれる防御因子が作られるようになる。抗体はウイルスのさまざまな場所に結合することで、病原体の活動を阻害し、排除する方向に働く。

 SARS-CoV-2に感染した後も、患者の体内で抗体が作られる。通常そのような抗体を測定するためには、ウイルスの一部を作製し、そこに患者の血液(血清)を反応させることで、血清中にウイルスに結合できる抗体があるかを判定する。

 ただし、抗体はウイルスのさまざまな部分に対して作られるので、ウイルスのどの部分に結合できる抗体なのかによって作用が異なる。SARS-CoV-2のSpikeタンパク質に結合し、ヒトのACE2との結合を阻害する作用をもつ抗体は中和抗体と呼ばれ、一般的な抗体とは異なる。

 中和抗体は感染防御に直接的に関わり、この量が多いと感染防御能が高いとみなされる。中和抗体の検査は、ウイルスそのものの有無を検出するPCR検査や抗原検査とは異なるものだ。

1時間あたり最大270テストを実現 19分以内の迅速測定が可能

 研究グループが開発した測定試薬は、CLEIA(Chemiluminescence Enzyme Immunoassay)を原理としている。

 SARS-CoV-2が細胞に侵入する際に用いるSpikeタンパク質のうち、とくに重要な受容体結合部位(RBD)を作製して磁性粒子に結合させ、それに対して患者の血清と酵素標識したACE2を順に反応させる。続いて発光基質を添加し、酵素の発光基質の分解で生じる発光の量を自動測定する。

CLEIA法による中和抗体の測定原理

出典:慶應義塾大学医学部、2021年

 中和抗体が存在すると、その量に応じてRBDとACE2の結合が阻害され、発光量が少なくなる。そのため、同試薬によって患者の血清中に存在する中和抗体がRBDとACE2の結合をどの程度阻害するのか数値化することが可能となった。

 このキットはLSIメディエンス社製の国産自動臨床検査装置STACIAに搭載可能であり、1時間あたり最大270テストを実現し、サンプリングから結果が得られるまで19分以内と迅速に測定を実施することができる。

 この検査方法はウイルスを含まないため、BSL1レベルの通常の実験室で使用可能あり、安全性が非常に高い方法だ。

 さらに研究グループは、国立感染症研究所で確立したプロトコールに従い、SARS-CoV-2感染者の血清の中和抗体価を測定した試料を用いて、同キットとの結果を比較した。

 その結果、実際のウイルスを用いた感染中和試験結果と同キットの測定結果は強く相関しており、同キットで中和抗体が測定可能であることが示された。

同キットとウイルス感染中和試験との相関解析

出典:慶應義塾大学医学部、2021年

 同キットを用いることで、SARS-CoV-2に対する感染防御能を反映した中和抗体をSTACIAで、高速かつ多検体測定することができるようになった。

 日本でもワクチン接種が進んでいるが、接種後の抗体価は時間とともに少しずつ減少する。また、ワクチン接種後に感染した人の抗体価は感染しなかった人の抗体価より低いといった報告も出てきている。

 同キットでは少数検体から多数検体まで幅広く測定が可能であり、個々の患者の中和抗体の評価、ワクチン後の抗体価の推移、最適なワクチン接種間隔を調べる研究等、幅広い有用性が考えられる。

慶應義塾大学医学部 リウマチ・膠原病内科
医学生物学研究所

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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