SGLT2阻害薬とアルドステロン拮抗薬の併用によりアルブミン尿が大幅に減少 高カリウム血症のリスクも低下 腎臓の保護を高める効果

2024.02.01
 SGLT2阻害薬と、開発中のアルドステロンの生成を阻害するアルドステロン拮抗薬を併用すると、慢性腎臓病(CKD)患者のアルブミン尿が大幅に減少することが、米ワシントン大学によるランダム化比較第2相試験で明らかになった。

 アルドステロン拮抗薬は、ナトリウムの調整を行うアルドステロンの働きを阻害し、血圧を下げる作用があるが、高カリウム血症の副作用が課題になっている。

 SGLT2阻害薬の併用により、アルドステロン拮抗薬の副作用を軽減しながら、腎臓の保護を高める効果を得られることが示された。

 「透析治療を受けている患者の75%は、糖尿病あるいは高血圧性腎疾患がみられる。これらの薬剤による治療により、透析導入を抑制できる可能性がある」と、研究者は述べている。

SGLT2阻害薬とアルドステロン拮抗薬の併用によりCKD患者70%でアルブミン尿が大幅減少

 SGLT2阻害薬と、開発中のアルドステロンの生成を阻害するアルドステロン拮抗薬を併用すると、慢性腎臓病(CKD)患者のアルブミン尿が大幅に減少することが、米ワシントン大学によるランダム化比較第2相試験で明らかになった。

 レニン–アンジオテンシン系の薬剤による標準治療を受けているCKD患者714人を対象に、アルドステロン拮抗薬を投与すると、50%でアルブミン尿が大幅に減少し、さらにSGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンの併用により、高カリウム血症を抑制しながら、70%でアルブミン尿の大幅な減少が示された。

 研究は、ワシントン大学医科大学院腎臓学部の臨床教授であり、プロビデンス医学研究センターの研究担当ディレクターであるKatherine Tuttle氏らによるもの。研究成果は、「Lancet」に掲載された。

 新規の薬剤候補であるBI 690517はアルドステロン拮抗薬で、ナトリウムとカリウムのレベルのバランスを調整するホルモンであるアルドステロンの働きを阻害し、血圧調節に寄与するように設計されている。

 現在、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬とアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の2種類の投与が腎疾患の標準治療となっているが、これらの薬剤を長期にわたり投与すると、アルドステロンのレベルが上昇する傾向があり、これが腎臓病の進行を早めているという課題があった。

 開発しているアルドステロン拮抗薬は、臓器の炎症を軽減し、腎臓病から腎不全への進行を防ぐ作用をあらわすことが示されている。その一方で、血中カリウムが危険なレベルに上昇し、高カリウム血症に進展する可能性があるという、好ましくない副作用があることが課題になっている。

 「数十年前から、アルドステロンが腎臓や心臓の炎症や線維症の主な原因であることは知られていたが、それを治療の標的にするのは非常に困難だった」と、Tuttle氏は指摘している。

 「腎臓病の治療はこの30年間で大きく進歩したが、高カリウム血症のリスクを軽減することも課題になっている。SGLT2阻害薬の併用は、アルドステロン拮抗薬の使用が制限されている患者で、高カリウム血症のリスクも低下を軽減するのに有用である可能性がある」としている。

 研究グループは今回、最大耐用量のACEあるいはARBによる標準治療を4週間以上受けているCKD患者を対象に、アルドステロン拮抗薬であるBI 690517を投与し、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンを追加する試験を行った。SGLT2阻害薬は、血糖降下薬として開発されたが、強力な腎臓保護作用があることが報告されている。

 今回の多国籍ランダム化比較第2相試験は、2022年2月~2023年7月に実施され、対象となったのは腎疾患の診断を受けた18歳以上の患者714人で、推算糸球体濾過量(eGFR)は30~90mL/min/1.73m²未満、尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)は200~5,000mg/g未満、全員がACE阻害薬あるいはARBを服用し、血清カリウム値は864mg/dL以下だった。

 研究グループは、対象者を最初の8週間にエンパグリフロジン群あるいはプラセボ群にランダムに割り付け、その後の14週間はBI 690517を1日に3mg、10mg、20mgを投与する群と、プラセボを投与する群にランダムに割り付けた。主要評価項目はアルブミン尿の減少とした。

 その結果、BI 690517のみを投与するために無作為に割り付けられた参加者の半数で、アルブミン尿レベルの臨床的に意味のある減少(30%以上)が確認された。

 UACRの中央値は426mg/gで、ベースラインから14週目の治療終了までのUACRの変化率は、プラセボ群で-3%[95% CI -19~17]、BI 690517 3mg群で-22%[95% CI -36~-7)、10mg群で-39%[95% CI -50~-26]、20mg群で-37%[95% CI -49~-22)だった。

 さらに、BI 609517 とエンパグリフロジンの両方を投与された患者の70%で、臨床的に意味のあるアルブミン尿の減少が達成された。

 高カリウム血症は、BI 690517 3mg群で10%、10mg群で15%、20mg群で18%に発生し、エンパグリフロジンの有無にかかわらず、プラセボ群の6%よりも有意に高かったが、ほとんどの症例(86%)では医療介入は必要なかったとしている。

 「SGLT2阻害薬の併用により、アルドステロン拮抗薬の副作用を軽減しながら、腎臓の保護を高める効果を得られることが示された。SGLT2阻害薬の高カリウム血症を抑制する効果については、5万人近くの参加者を含む最近報告されたメタ解析とも一致している」と、Tuttle氏は指摘している。

 「透析治療を受けている患者の75%は、糖尿病あるいは高血圧性腎疾患がみられる。これらの薬剤により治療できるようになると、透析導入を抑制できる可能性がある」。

 今回の研究で得られた知見は、BI 690517の製造元であり研究スポンサーであるベーリンガーインゲルハイムにアドバイスされるとともに、英国のOxford Population Healthが主導し、世界中で1万1,000人の患者が参加している第3相臨床試験にも提供されるとしている。

この発見は、英国のオックスフォード・ポピュレーション・ヘルスが主導する第3相臨床試験に情報を提供し、世界中で1万1000人の患者参加者を対象にこの薬剤候補をテストすることになるとタトル氏は述べた。

Outsize benefit seen in trial of drug for kidney disease (ワシントン大学 2023年12月19日)

Efficacy and safety of aldosterone synthase inhibition with and without empagliflozin for chronic kidney disease: a randomised, controlled, phase 2 trial (Lancet 2023年12月15日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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