血液数滴でアルツハイマー型認知症を判定 ノーベル賞技術を応用した世界初の検査機を開発 患者負担が小さくコストも安い
血液に含まれるバイオマーカーでアルツハイマー病の進行度を測れる装置は世界初という。数滴の血液で済むため、患者の負担が小さく、コストも安く済む。
2002年にノーベル化学賞を受賞した同社の田中耕一エグゼクティブ・リサーチフェローも研究に参加し、同賞の受賞理由となった技術が応用されている。
微量のアミロイドβに相関するペプチドを検出する技術を開発
の進行度を判定する検査機
島津製作所と国立長寿医療研究センターが共同開発した「アミロイドMS」は、アルツハイマー病をスクリーニングするための新しい血液分析法。数滴の血液(約0.5mL)から、早期のアルツハイマー病の進行度を判定する技術だ。
高齢化の進展とともに、認知症の患者数も増加しており、国内の認知症患者は2020年に約600万人と推計されている。厚生労働省などが認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)を立ち上げるなど、認知症対策は社会課題となっており、早期発見法・治療法・予防法の確立が求められている。
認知症の原因となる主な疾患はさまざまで、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などがあるが、なかでもアルツハイマー型認知症はもっとも多く、患者数は全体の約6割を占める。
アルツハイマー型認知症を発症する20年も前から、神経細胞の外側で「アミロイドβ」と呼ばれるタンパク質が蓄積して老人班を形成し、神経細胞の中では「タウタンパク」が蓄積して、タンパク質が糸くず状に変化したようなもの(神経原繊維変化)がみられるようになる。
「アミロイドβ」や「タウタンパク」の蓄積状態(量、濃度、分布)を調べて、重症度などを診断する検査法として、放射線を用いる「陽電子放射断層撮影(PET)」や、腰から針を刺す「脳脊髄液検査」があるが、患者の負担が大きいことが課題になっている。
そこで、共同研究グループは、同時に多くの種類の物質を測れる質量分析手法を応用し、ごく微量のアミロイドβに相関するペプチドを検出することに成功し、世界ではじめて血液でアミロイド蓄積の予測を可能する技術を開発した。検体は血液数滴、約0.5mLで判定可能だという。
ノーベル賞受賞の分析手法と高性能な質量分析技術を導入
研究グループは実用化に向けた研究を重ねて、検査装置「血中アミロイドペプチド測定システム Amyloid MS CL」(アミロイドMS CL)を完成させ、昨年12月に医療機器の承認を受け、今年6月に販売開始した。
この装置には、2002年にノーベル化学賞を受賞した同社の田中耕一氏が開発した技術が応用されている。
この「MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)」は、試料のタンパク質にコバルトとグリセリンの混合物を混ぜ、そこにレーザーを当ててイオン化させると、高分子のタンパク質も質量分析できるというもの。
従来は、タンパク質などを高温で熱すると分解してしまうので、レーザー光を効率良く吸収する化合物のみにしか適用できなかった。この手法により、このレーザー光を吸収しやすい化合物(マトリックス)の中に微量の他の化合物(試料)を加え、試料の気化が効率良く起こるようになり、質量分析により測定できるようになる。
このMALDIをイオン源とする高性能な質量分析技術により、22種類のアミロイドβ関連ペプチドを分離して、測定することができるようになった。22種類には、これまで血液中で確認されなかった新たな8種類のペプチドも含まれる。
早期のアミロイド陽性者のスクリーニングに有用
アルツハイマー病は、現状では進行を遅らせたり、症状進行にともなう不安などを抑えたりする対症療法が中心で、早期発見して治療をすることが重要と考えられている。
この検出法は、アルツハイマー型認知症の治療薬や予防法の開発に必要な早期のアミロイド陽性者のスクリーニングに有用で、将来的には治療方針の決定のための疾患の鑑別、高齢者検診に役立てることが期待されている。
なお、アミロイド陽性者のスクリーニングは、血中アミロイドβの相対値と、PETや脳脊髄液検出法でとらえた脳内アミロイドβ蓄積状態とのあいだに相関関係があることにもとづいた血液バイオマーカーを利用した評価手段だが、現状ではアルツハイマー病などの認知症の診断目的には使用できないとしている。
アミロイドMS―血液検査によるアルツハイマー病早期検出を目指した分析法―(島津製作所)