インフルエンザ入院患者の30%が糖尿病 10人中9人に基礎疾患 ワクチン接種率を高めるナッジ戦略とは? ADA・ACC

2023.03.10
 米国疾病管理予防センター(CDC)の調査で、米国でインフルエンザにより入院した患者の10人に9人が、1つ以上の基礎疾患をもっていたことが示された。さらに、インフルエンザ入院患者の約30%は糖尿病に罹患していた。

 「シックデイ対策をするとともに、糖尿病患者は心臓病や腎臓病などの合併症をもっていることが多いことにも注意が必要となる」と、米国心臓学会(ADA)の研究者は指摘している。

 とくに基礎疾患のある患者の、ワクチン接種のインセンティブを高めるのに効果的なのは、「ワクチン接種が心臓発作や心不全などの心血管疾患からの保護の点でも効果的であることを強調することだ」という調査結果も、米国心臓病学会(ACC)で発表された。

糖尿病患者はインフルエンザや新型コロナに対しとくに注意が必要

 米国では今シーズン、インフルエンザ関連の死亡者数が前シーズンの3倍以上に増加した。米国疾病管理予防センター(CDC)の調査では、米国でインフルエンザにより入院した患者の10人に9人が、1つ以上の基礎疾患をもっていることが示されている。

 これを受けて、米国心臓学会(ADA)、米国心臓学会(AHA)、米国肺学会(ALA)は共同で、「インフルエンザの予防接種を受けることで、インフルエンザ感染に対して脆弱な糖尿病などの患者を守れる」とした声明を発表した。

 インフルエンザを重症化するリスクのある慢性疾患として、心臓病、脳卒中の既往、1型・2型糖尿病、肥満、喘息、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの肺疾患があるとしている。

 「CDCの報告では、インフルエンザにより入院した患者の約30%が、糖尿病に罹患していることが示されている。インフルエンザなどの急性疾患により、血糖管理は困難になる。感染症により血糖値が上昇しやすくなり、また食欲の減退により低血糖のリスクも高まる」と、ADAの最高科学・医療責任者であるRobert Gabbay氏は言う。

 「糖尿病患者は心臓病や腎臓病などの合併症をもっていることも多く、新型コロナやインフルエンザなどの感染症に対し、とくに注意が必要となる」としている。

 また、「心血管疾患をもつ成人患者は、インフルエンザに感染した場合、合併症の重大なリスクに直面することになる。心疾患があり、インフルエンザの予防接種を受けていない場合、感染から1週間以内に心臓発作を起こす可能性は6倍高くなる」と、AHAの予防担当最高責任者であるEduardo Sanchez氏は述べている。

 「インフルエンザのワクチン接種を受けることで、インフルエンザとその合併症から二重に保護することが可能になる。シーズンの早い時期に接種を受けるのが理想的だが、シーズン中であっても効果がある」としている。

 「軽度のウイルス性呼吸器感染症であっても、肺疾患のある患者にとっては重篤化のリスクとなる。インフルエンザでは、とくに特に注意が必要になる。慢性疾患のある患者は、インフルエンザの予防接種を受けるだけでなく、家族や友人、同僚などにも接種を受けることを奨励するべきだ」と、ALAのAlbert Rizzo氏は述べている。

ワクチン接種率を高める最高のナッジ戦略とは?

ワクチン接種が心血管イベントなどを予防するのに効果的であることを患者に伝える

 とくに基礎疾患のある人の、ワクチン接種のインセンティブを高めるのに効果的なのは、ワクチン接種が心血管イベントなどを予防するのに効果的であることを強調することだという調査結果が、米国心臓病学会(ACC)年次学術集会などで発表された。

 「インフルエンザワクチンは、インフルエンザ感染に対する保護に加えて、心臓発作や心不全などの心血管疾患からの保護の点でも効果的です」といったメッセージを伝えると、患者の行動変容を引き出しやすくなるという。

 季節性インフルエンザにより例年、世界で50万人以上が死亡しており、高齢者、糖尿病、心臓病などの慢性疾患のある患者などが、リスクの高いグループとして特定されている。

 多くの国の医療機関はワクチン接種を受けることを推奨しており、世界保健機関(WHO)も人口の75%以上のワクチン接種を目標に掲げているが、米国を含む多くの国で、とくに若い世代で接種率は望ましい水準に達していない。

 インフルエンザワクチンの接種を広く推奨しているにもかかわらず、実際にワクチン接種を受けた米国成人は49%に過ぎないという報告がある。

 そこで、特定の集団でのインフルエンザワクチンの接種を増やすためのナッジ戦略が考案されている。これは、健康に関する前向きな行動を教育し、後押しするように誘導し、自身にとって良い選択を自発的に取れるように手助けするというもの。

心血管疾患への転帰の抑制などの利点を患者に伝えることが戦略に

 NUDGE-FLU試験では、69万1,820世帯のデンマーク人96万4,870人を無作為に割り付け、次のインフルエンザシーズンとワクチン接種の必要性に関するメッセージを特徴とする9種類の電子メールのいずれかを送信した。

 その結果、ワクチン接種率は対照群に比べ、ワクチンの心血管疾患に対する潜在的な利点を強調したメールを受け取った群(81% 対 80.12%)と、ワクチン接種の一般的な重要性について繰り返し手紙を受け取った群で有意に高かった(80.85% 対 80.12%)。

 なお、ナッジ戦略にもとづく電子メールは、▼保健当局からの予防接種に関する推奨事項、▼大多数の人が予防接種を受けていることを示したもの、▼インフルエンザの蔓延を防ぐために国民の過半数が接種を受ける必要があることを示したもの、▼ワクチン接種が家族や親しい人を感染から守るのに効果的であることを示したもの、▼単に予防接種を受ける計画をたて、指定された機関に予約をとることを促したもの、▼ワクチン接種について説明した個別化されていない事務的なメッセージなどがあった。

 「インフルエンザワクチンの接種を大幅に上昇させた唯一のナッジ戦略は、ワクチンの潜在的な心血管系への利点を説明し、強調したものでした」と、デンマークのコペンハーゲン大学病院心臓病学のBiering-Sørensen氏は言う。

 「心臓病専門医として、心血管疾患への転帰などの他の下流の問題も防ぐことができると人々に伝えることが、すべてのナッジ戦略のなかでもっとも効果的で優れていることが示されたのは興味深い」としている。

Most People Hospitalized With the Flu Have a Chronic Illness (米国糖尿病学会 2023年2月6日)
A Chronic Health Condition Can Increase Your Risk (米国疾病管理予防センター 2023年1月25日)
Flu & People with Diabetes (米国疾病管理予防センター 2022年9月12日)
Linking flu vaccination to potential cardiovascular benefits gets more people to roll up their sleeves (米国心臓病学会 2023年3月5日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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