【新型コロナ】糖尿病患者はなぜ重症化しやすいのか 血管内皮機能の異常・障害が関与 日独で新型コロナの病態を比較
重症化の原因は糖尿病などの基礎疾患により起こる血管内皮の異常か?
研究は、順天堂大学大学院医学研究科ゲノム・再生医療センターの服部浩一特任先任准教授、バイオリソースバンク活用研究支援講座のベアーテ ハイジッヒ特任准教授、東京大学医科学研究所などの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「Biomedicines」にオンライン掲載された。
順天堂大学大学などは、新型コロナの日本人とドイツ人の患者データを比較し、病態の違いと要因について考察した結果、新型コロナの重症化に関与するサイトカインストームの発生が、血管内皮に由来する一部の血液凝固・線維素溶解系(線溶系)因子を含むアンジオクライン因子の活性を通じて制御されていること、アンジオクライン因子の発現は人種によって異なる内皮性状を反映しており、その相違が、病態、重症度に影響している可能性を明らかにした。
新型コロナウイルス感染の第1波〜2波(2020年2月~2020年8月頃)にかけて、欧米では血液における凝固・線溶系の亢進やサイトカインストームを基礎とするさまざまな症例報告がされるとともに、アジア諸国と比較して重症度、死亡率が高いことが問題となっていた。
日本国内でも、第5波(2021年7月頃)以降、自宅や療養施設で軽症・中等症と診断された人の急変、死亡例が急増し、断続的に医療逼迫の状況をまねいた。最近は、小児のクラスターと家庭内感染が問題化しており、公衆衛生危機管理上も新型コロナ病態の詳細解明と重症化の予見は、喫緊の重要課題となっている。
新型コロナでは、肥満や糖尿病、高血圧などの基礎疾患を持つ人や、喫煙者が重症化されやすいということが知られており、基礎疾患への罹患や喫煙などの生活習慣により、生体の各臓器を構成する血管内皮細胞の性状が変化したり、機能異常が起こることが関連しているのではないかと考えられている。
そこで研究グループは、新型コロナ患者の遺伝学的背景にともなう先天的要因と、基礎疾患への罹患や生活習慣によって引き起こされる血管内皮障害・機能異常が、新型コロナの重症化および病態とどのように関連するのかを明らかにし、重症化の早期診断や治療法開発の基盤を形成することを目的に今回の研究を実施した。
血管内皮のアンジオクライン因子が関与 日独の新型コロナ患者を比較
研究グループは、2020年3月~2021年2月に、日本国内の新型コロナ患者174人、ドイツ内の6,059人の患者情報および血液サンプルを収集し、炎症反応、炎症性サイトカイン、凝固・線溶系を含むアンジオクライン因子の活性と血中濃度の解析を行った。期間からみて、すべてオミクロン株出現前の検体で、人種的背景として、日本の患者の90%以上がアジア人で、ドイツ側の約80%がコーカソイドだった。
その結果、100万人あたりの新型コロナ患者数・重症度・死亡率は、いずれも有意に日本をドイツが上回った。また、軽症・中等症レベルに属する患者の割合は日本側85.29%に対して、ドイツでは65.29%となり、日本人が重症者の割合が低い結果になった。
また、高血圧や心臓病などの心血管系の合併症は、日独双方で有意な重症化因子となった。日独間の人種的背景の相違が顕著に認められたのは、心血管系の合併症のないグループだった。
このグループでは、軽症・中等症レベルに属する日本人の患者では、CRPや白血球数などによって確認される炎症反応や、IL-6をはじめとする炎症性サイトカイン、凝固・線溶系の活性が抑制されていたのに比べ、ドイツ人の患者では、これらがいずれも有意に高値となった。
また、日本人の患者では凝固・線溶亢進を示すフィブリノーゲン、D-dimerの双方が、重症度と有意に相関していたのに対し、ドイツ人では血小板減少が重症度と有意に相関していた。さらにドイツ人では、凝固亢進が優位に進む傾向にあることもわかった。
これらの凝固・線溶系の制御因子やIL-6は、血管内皮に由来する生理活性物質を総称する「アンジオクライン因子」に属している。これまでの研究で、アンジオクライン因子は、サイトカインストーム症候群でサイトカインストームの発生を誘導することが分かっている。
したがって、研究の解析結果は、こうした血管内皮に発現、そして産生・分泌されるアンジオクライン因子の血中濃度、あるいは活性に日独間で有意差が認められたことから、血管内皮機能異常、内皮障害の存在が、新型コロナの重症化、サイトカインストームの発生に深く関与していることを示唆している。
新型コロナの重症化に血管内皮障害・機能異常が関連
今回の研究により、新型コロナの重症化メカニズムに、複数の炎症性サイトカインの産生増加、サイトカインストームの発生と、これにともなう血管内皮障害・機能異常が関連することが示唆された。
「これにともない検出される血中の凝固・線溶系を含むアンジオクライン因子は、新型コロナの重症化の予見や早期診断で有用であるだけでなく、新しい治療標的としての可能性を有しています」と、研究グループでは述べている。
研究グループはこれまで、神戸学院大学との共同研究で、複数のサイトカインストーム症候群の疾患モデル動物に対して、新規の抗線溶剤の投与が予後を有意に改善することを報告している。現在、ワシントン大学セントルイス校で、新型コロナの疾患モデルに対する同治療法の有効性を検証中だという。
「こうした炎症性疾患に対する新しい分子標的療法、また早期診断法の開発基盤の形成は、新型コロナの重症化抑制とともに、多くのサイトカインストーム症候群、慢性炎症性疾患にとっても多大な寄与をもたらすことが期待されます」としている。
順天堂大学大学院医学研究科ゲノム・再生医療センター
COVID-19 severity and thrombo-inflammatory response linked to ethnicity (Biomedicines 2022年10月26日)