SGLT2阻害薬「ジャディアンス」が慢性腎臓病の進行/心血管死の発現率を28%低下 Kidney Week 2022で発表

2022.11.17
 慢性腎臓病を対象とした「EMPA-KIDNEY」試験で、SGLT2阻害薬「ジャディアンス」(一般名:エンパグリフロジン)は、慢性腎臓病の進行または心血管死の発現率をプラセボと比較して28%低下させたことが、米国腎臓学会(ASN)のKidney Week 2022で発表された。

 この第3相試験では、すべての入院で統計的に有意な減少(14%)も示された。患者の安心や、保険医療システムの負担軽減につながることが期待されるとしている。試験結果は、「New England Journal of Medicine」にも掲載された。

慢性腎臓病の進行または心血管死の発現率を28%低下 すべての入院も14%減少

 SGLT2阻害薬「ジャディアンス」(一般名:エンパグリフロジン)について、「EMPA-KIDNEY」第3相臨床試験で、成人慢性腎臓病患者の腎臓および心血管イベントに対する有効性が示され、主要評価項目が達成されたことが、11月にオーランドで開催された米国腎臓学会(ASN)のKidney Week 2022で発表された。

 ジャディアンスの投与により、慢性腎臓病の進行または心血管死のリスクはプラセボ投与群に比べ28%低下し、有意差が認められた(HR 0.72、95% CI 0.64~0.82、P<0.000001)。

 同試験は、オックスフォード大学医療研究協議会ポピュレーションヘルス研究ユニット(MRC PHRU)が、ベーリンガーインゲルハイムとイーライリリー・アンド・カンパニーと共同で計画・実施と分析を行った試験。詳細は、MRC PHRUによってKidney Week 2022で発表されたのに加え、「New England Journal of Medicine」に掲載された。

 同試験は、慢性腎臓病を対象としたSGLT2阻害薬の臨床試験としてははじめて、試験計画書で事前規定された主な検証的副次評価項目のひとつであるすべての入院を有意に減少(14%)させた試験となった(HR 0.86、95% CI 0.78~0.95、p=0.0025 )。全般的な安全性データは、過去の報告とおおむね一致した。

 慢性腎臓病は、患者の入院リスクが倍増する世界の死因の上位にある疾患。米国の慢性腎臓病の患者にかかる総医療費の35%~55%は、入院費用が占める。

 EMPA-KIDNEY試験の共同試験責任医師で、オックスフォード大学公衆衛生学のクリニカルサイエンティストで名誉顧問腎臓専門医であるWilliam Herrington准教授は次のように述べている。
 「慢性腎臓病の進行を抑制し、透析や移植などが必要となる時期を遅らせる効果のある新たな治療薬の登場が期待されています。発表された結果では、エンパグリフロジンは、糖尿病の有無にかかわらず、あらゆる重症度の慢性腎臓病の成人患者に有益である可能性が示されました」。

 共同試験責任医師であるRichard Haynes教授は、次のように述べている。
 「エンパグリフロジンは、慢性腎臓病の進行や心血管死のリスクを抑制することで、世界中の保健医療システムに良い影響を及ぼす可能性があります。EMPA-KIDNEY試験の実施にあたっては試験計画を策定し、従来の試験対象の枠を超える幅広い患者層を対象としました。SGLT2阻害薬の臨床試験は従来、糖尿病のある患者さんや、尿タンパクが多い患者など、特定のグループを対象として行われてきました。今回の肯定的な試験結果は、慢性腎臓病をもつ幅広い患者層で認められたものであり、この疾患の治療を改善し、透析導入を防ぐことができることを示しています」。

 なお、日本でのジャディアンス錠の効能・効果は2型糖尿病、慢性心不全であり、心血管イベントおよび腎臓病のリスク減少に関連する効能・効果は取得されていない。また、日本で慢性心不全に対する治療薬として承認されているのは、ジャディアンス錠10mgであり、効能・効果は、慢性心不全(ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る)となっている。

あらゆる重症度の慢性腎臓病の成人患者に有益である可能性

 EMPA-KIDNEY試験は、国際無作為化二重盲検プラセボ対照臨床試験で、慢性腎臓病の進展と心血管死のリスクに対するジャディアンスの影響を評価する試験として設計された。

 同試験は、いままで行われたSGLT2阻害薬の臨床試験としては最大規模で、幅広い患者層を含んでいるとしている。同試験は、心血管疾患、腎疾患、代謝疾患などのさまざまな合併症を有し、幅広い背景疾患をもつ世界各地の6,609人の患者を対象とした。同試験では、さまざまな重症度の慢性腎臓病の患者での腎臓と心血管のアウトカムを評価した。

 上記以外の主な副次評価項目である、心不全による入院または心血管死、全死亡の減少は、統計的に有意な減少はみられなかったが、それは観察されたイベントの数によって制限されたことが原因としている。これらの評価項目でのリスク低下は、同項目の有意なリスク低減を明確に示した他の臨床試験で得られているエビデンスと同様の傾向を示しているという。

 同試験では、腎臓病の進展は、末期腎臓病(維持透析の開始または腎移植を含む)、eGFRが10 mL/min/1.73m²未満で持続、腎死、またはeGFRの無作為化時点からの低下率が40%以上で持続と定義された、また、末期腎臓病は、維持透析の開始、または腎移植を受けることを含んでいる。

 「本日発表したEMPA-KIDNEY試験の結果は、慢性腎臓病の患者さんや医学界に歓迎いただけることでしょう。私たちも、試験開始からわずか2年で入院リスクの低下がみられ、その低下度は先に行われたジャディアンスの心血管アウトカム試験でみられた有意な減少と並ぶ結果であったことに励まされる思いでいます。両社は今後、世界各地での慢性腎臓病の適応追加申請の計画を協議してまいります」と、イーライリリー・アンド・カンパニーでは述べている。

Empagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease (New England Journal of Medicine 2022年11月4日)

EMPA-KIDNEY (The Study of Heart and Kidney Protection With Empagliflozin)
EMPA-KIDNEY (ClinicalTrials.gov)

ジャディアンス錠10mg ジャディアンス錠25mg 添付文書 (医薬品医療機器総合機構)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

脂質異常症の食事療法のエビデンスと指導 高TG血症に対する治療介入を実践 見逃してはいけない家族性高コレステロール血症
SGLT2阻害薬を高齢者でどう使う 週1回インスリン製剤がもたらす変革 高齢1型糖尿病の治療 糖尿病治療と認知症予防 高齢者糖尿病のオンライン診療 高齢者糖尿病の支援サービス
GLP-1受容体作動薬の種類と使い分け インスリンの種類と使い方 糖尿病の経口薬で最低限注意するポイント 血糖推移をみる際のポイント~薬剤選択にどう生かすか~ 糖尿病関連デジタルデバイスの使い方 1型糖尿病の治療選択肢(インスリンポンプ・CGMなど) 二次性高血圧 低ナトリウム血症 妊娠中の甲状腺疾患 ステロイド薬の使い分け 下垂体機能検査
NAFLD/NASH 糖尿病と歯周病 肥満の外科治療-減量・代謝改善手術- 骨粗鬆症治療薬 脂質異常症の治療-コレステロール低下薬 がんと糖尿病 クッシング症候群 甲状腺結節 原発性アルドステロン症 FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症 褐色細胞腫

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料