【新型コロナ】どんな人が運動不足になっているのか? 身体活動量の社会経済的な格差が拡大
コロナ禍での身体活動の実施状況について調査
運動や身体活動を適切に行うことは、高血圧・脂質異常症・2型糖尿病などの慢性疾患や、精神疾患などのリスクを低下させ、死亡リスクを抑えることにつながる。身体活動の恩恵を、人々が公平に享受できるようにすることが理想とされる。
しかし、身体活動をはじめとする健康行動には、収入や学歴などの社会経済状況による格差(健康格差)があることが、以前から指摘されている。低収入や低学歴の人ほど、不健康である傾向がみられる。
しかし、コロナ禍での身体活動の実施状況について、社会経済格差がどのように変化しているかはよく分かってない。経済格差の拡大が懸念されるなか、経済状態による健康格差の実態を明らかにする必要がある。
そこで、神戸大学などの研究グループは、笹川スポーツ財団が人口割合や地域規模を考慮した精緻な調査法により収集したデータ「スポーツライフデータ」を用いて、2,296人(うち女性は1,103人)の参加者について、コロナ禍での身体活動の格差の実態を調査した。
身体活動や座位行動に所得や学歴による格差が
その結果、仕事・余暇・移動に関する身体活動や座位行動で、所得や学歴による格差がみられた。とくに余暇の身体活動は格差が大きく、低所得/低学歴であるほど少ないことが明らかになった。
所得による余暇の身体活動の格差は、等価所得137.5万円未満の場合は、550万円以上に比べて0.58倍の差がある(1.72倍少ない)ことが明らかになった。
等価所得は、世帯所得をもとに、世帯の構成員の生活水準をあらわすように調整した所得。世帯所得を世帯人員の平方根で割ることで求める。
逆に、仕事の身体活動は低学歴であるほど長いことも分かった。仕事の身体活動が長いことは、心疾患などの危険性の上昇と関連することが知られており、公衆衛生上の課題となっている。
学歴により仕事の身体活動の格差は、学歴が高校卒業以下の場合、大学卒業以上に比べて、1.90倍の差があることが示された。
政府によるWeb調査やスマホアプリの歩数データなどを用いた大規模データによると、コロナ禍での国民の身体活動の実態や運動に対する意識は、コロナ以前に比べ、むしろ良好な方向に遷移していることが報告されている。
しかし、「これらの情報は、調査方法の特質上、社会経済状態が脆弱な人々のデータを反映していない可能性がありました。つまり、支援が必要な人々の実情を捉えられていない可能性があります」と、研究グループでは指摘している。
学歴による仕事の身体活動の格差は、学歴が高校卒業以下の場合、大学卒業以上に比べて、10.9%の差がある。
経済格差の拡大は健康格差に影響 継続的なモニタリングが必要
研究は、神戸大学大学院人間発達環境学研究科の喜屋武享助教、琉球大学医学部の高倉実教授によるもの。研究成果は、「Public Health」にプリプルーフとして掲載された。
格差勾配指標・格差相対指標という、社会経済状態を指す要因(今回の研究では所得と学歴)の、各カテゴリーでの人口割合の違いを考慮した格差指標を用いている点が、この研究の特徴のひとつとしている。
「今回の研究は、コロナ禍での場面別の身体活動実施状況に関する社会経済格差を検討した世界ではじめての研究です。経済格差の拡大が懸念されるなか、経済状態による健康格差の実態を継続的にモニタリングする必要性が顕になりました」と、研究グループでは述べている。
「新型コロナの拡大により、とくに観光業や飲食業などの業種は経済的な打撃を受けました。公衆衛生分野で、コロナ禍での健康格差の拡大が懸念されます。健康に対して中長期的にどのような影響を与えるのか、引き続き観察していく必要があります」としている。
神戸大学大学院人間発達環境学研究科
Socioeconomic inequalities in physical activity among Japanese adults during the COVID-19 pandemic (Public Health 2022年3月18日)