糖尿病とサルコペニアを併発した患者は死亡リスクが2倍に上昇 糖尿病患者の筋力低下を防ぐ予防戦略が必要 韓国調査

2024.01.24
 糖尿病とサルコペニアは独立して死亡リスクを高め、両方を併発すると高齢者集団で心血管死亡率と全死因死亡率が相加的に上昇することが、韓国の高麗大学校医科大学が1万7,920人を対象とした研究で明らかになった。

 糖尿病とサルコペニアを併発すると、心血管死および全死因による死亡のリスクがほぼ2倍に上昇することが示された。

 「糖尿病患者の筋力低下を防ぐなどの予防医療戦略を実施すると、両方の疾患にともなう併発リスクや高い死亡リスクを減少できる可能性がある」と、研究者は述べている。

糖尿病とサルコペニアを併発した高齢患者は死亡リスクが2倍に上昇

 糖尿病とサルコペニアは独立して死亡リスクを高め、両方を併発すると高齢者集団で心血管死亡率と全死因死亡率が相加的に上昇することが、韓国の高麗大学校医科大学が1万7,920人を対象とした研究で明らかになった。

 研究グループは、2008年~2011年に実施された韓国国民健康栄養調査などのデータを分析。2020年12月までの死亡率データは国家死亡登録から取得した。

 糖尿病とサルコペニアは、とくに高齢者の公衆衛生で大きな課題となっており、2つは共通する病態生理学的メカニズムを有しており、双方向に関連し、それぞれが他の状態のリスク増加に寄与している。

 過去の研究で、糖尿病とサルコペニアの両方が、致死性の心血管疾患などの重篤な合併症と個別に関連していることが示されているが、とくに高齢者などの脆弱な集団での、糖尿病とサルコペニアの複合的な健康への影響を調べた研究は少ない。

 そこで研究グループは、糖尿病とサルコペニアの複合的影響を評価する縦断研究を実施し、全死因死および心血管死に対する糖尿病とサルコペニアの複合的影響を評価した。

 1万7,920人の参加者のうち、82.2%は糖尿病もサルコペニアもみられず[DM-/SP-]、7.5%は糖尿病のみを有し[DM+/SP-]、8.0%はサルコペニアのみを有し[DM-/ SP+]、2.3%は糖尿病とサルコペニアの両方を有していた(DM+/SP+]。

 その結果、糖尿病とサルコペニアを併発すると、心血管死および全死因による死亡のリスクがほぼ2倍に上昇することが明らかになった。注目すべきことに、心血管死亡率は、糖尿病とサルコペニアの両方を示すグループでは有意に上昇したが、いずれかの状態を示すグループでは上昇しなかった。

 主な結果は次の通り――。

糖尿病なし/サルコペニアなし[DM-/SP-]と比較した調整後ハザード比(HR)

全死因死亡率
糖尿病あり/サルコペニアなし[DM+/SP-] HR 1.29 95% CI:0.97~1.74
糖尿病なし/サルコペニアあり[DM-/ SP+] HR 1.47 95% CI:1.14~1.89
糖尿病あり/サルコペニアあり(DM+/SP+] HR 1.85 95% CI:1.28~2.69

心血管死亡率
糖尿病あり/サルコペニアなし[DM+/SP-] HR 1.35 95% CI:0.79~2.30
糖尿病なし/サルコペニアあり[DM-/ SP+] HR 1.42 95% CI:0.84~2.43
糖尿病あり/サルコペニアあり(DM+/SP+] HR 2.10 95% CI:1.11~4.00

糖尿病とサルコペニアを併発した高齢者集団で
心血管死亡率と全死因死亡率が相加的に上昇

出典:高麗大学校医科大学、2024年

糖尿病患者の筋力低下を防ぐ予防戦略が必要 糖尿病とサルコペニアの両方に対策

 研究は、高麗大学校医科大学内分泌代謝科のEyun Song教授やKyung Mook Choi教授らによるもの。研究成果は、「Metabolism」に掲載された。

 「糖尿病とサルコペニアが共存すると、全死因死亡と心血管死亡が相加的に増加することが示された。高リスク集団に対する慎重なスクリーニングと予防戦略の重要性が強調される」と、Choi教授は述べている。

 「韓国人の約22~24%が糖尿病とサルコペニアの両方を患っており、人口のかなりの部分で死亡リスクが2倍に上昇しているとみられる」。

 糖尿病患者の筋力低下を防ぐなどの予防医療戦略を実施すると、両方の疾患にともなう併発リスクや高い死亡リスクを減少できる可能性がある。

 高リスクのカテゴリーに属する患者は、筋肉損失の可能性を減らすために、ライフスタイルの改善、運動の習慣化、バランスのとれた食事を取り入れ、良好な血糖管理を維持することが推奨される。高齢の糖尿病患者は、サルコペニアのスクリーニング検査を受け、これらの症状が複合的に及ぼす脅威に対処するための治療を速やかに受けることが勧められるとしている。

 「糖尿病とサルコペニアの両方の患者を対象とした、患者特有の健康上の課題とリスクを考慮した新しい診療ガイドラインを策定する必要がある」と、Song教授は述べている。

 「将来的には、糖尿病患者は受診時に、筋肉量、筋力、身体能力を把握するための健康診断を受けることが義務付けられるかもしれない。サルコペニア患者に対しては、血液検査を実施することが義務付けられる可能性もある」。

 「医療システムは、サルコペニアと糖尿病の予防策に投資することで、心血管系の緊急の事態に関連する医療コストを削減でき、医療全体の負担を軽減できる可能性がある」としている。

 「糖尿病とサルコペニアを結び付ける複雑なメカニズムを理解し、健康状態を向上させるための標的療法を開発するために、さらなる研究が必要とされている」と、Choi教授は述べている。

高麗大学校医科大学
Research from the Korea University College of Medicine explores the combined health impact of diabetes and sarcopenia in the elderly (高麗大学校医科大学 2024年1月23日)
Additive impact of diabetes and sarcopenia on all-cause and cardiovascular mortality: A longitudinal nationwide population-based study (Metabolism 2023年8月21日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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