骨粗鬆治療薬「クロドロン酸」が非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に対する新たな治療薬に ドラッグリポジショニングにより発見
「クロドロン酸」が、NASHにおける肝脂肪蓄積と炎症、線維化という複数の側面を同時に抑制することを突き止めた。
メタボの増加にともない急増しているNAFLD 有効な治療薬が望まれている
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、いわゆる脂肪肝は、メタボリックシンドロームの中心的病態で、その有病率は世界の人口の約25%にのぼる。
NAFLDを放置すると、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、肝硬変へと進行し、一部は肝細胞がん発症につながる。NAFLDを原因とした肝細胞がんの発生は増加傾向にあり、世界のさまざまな地域で2030年までに約2倍になるとみられている。しかし、現在その有効な治療薬はない。
久留米大学の研究グループは、ドラッグリポジショニングにより、第一世代ビスホスホネート製剤である「クロドロン酸」が、NAFLD、NASHに対する有効な治療薬となりうることを見出した。「クロドロン酸」は、NASHにおける肝脂肪蓄積と炎症、線維化という複数の側面を同時に抑制することを突き止めた。
NASHの発症にはさまざまな要因が関与しているが、なかでも細胞の外に分泌されたアデノシン3リン酸(ATP)は、炎症や線維化の重要な原因となることが明らかになっている。
「クロドロン酸」は、ATPの細胞外への分泌を制御する小胞性ヌクレオチドトランスポーター(VNUT)を強力に阻害する。VNUTは、ATPを分泌小胞内に輸送するトランスポーターであり、細胞外ATPによるさまざまなシグナルの伝達を制御している。これまでに、肝細胞、神経内分泌細胞、炎症細胞、腸管上皮、ケラチノサイトなど多くの組織と細胞で発現と機能が報告されている。
「クロドロン酸」は、これまで知られていた骨粗鬆症抑制作用に加えて、神経細胞や炎症細胞のVNUTを阻害することで、強い抗炎症効果、鎮痛効果をもつことが明らかになってきた。今回の研究で新たに、肝臓における炎症と脂肪の蓄積を抑制することが示された。
「クロドロン酸」は、オーストラリアやカナダでは骨粗鬆症治療薬として承認されており、すでに人への投与の安全性が確かめられている。ドラックリポジショニングによるNASHの新たな治療薬開発が期待されるとしている。
ドラッグリポジショニング(既存薬再開発)は、ヒトでの安全性や体内動態が確認されている既承認薬について、新たな薬効を見出し、別の疾患に対する治療薬として開発する手法。安全性評価などのいくつかの試験をスキップでき、薬剤の製造方法が確立しているため、開発期間の短縮・研究開発コストの軽減が期待できる。
研究は、久留米大学医学部内科学講座内分泌代謝内科部門の蓮澤奈央助教・森山芳則客員教授・野村政壽教授を中心とする研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載された。
久留米大学医学部内科学講座内分泌代謝内科部門
Clodronate, an inhibitor of the vesicular nucleotide transporter, ameliorates steatohepatitis and acute liver injury(Scientific Reports 2021年3月4日)