【新型コロナ】COVID-19の院内感染にどう対策するか 日本感染症学会が調査を実施 予防のための対策を提案

2021.04.06
 日本感染症学会COVID-19院内感染対策ワーキンググループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)施設内感染アンケート調査を実施し、その結果を発表した。病院内感染についてこれまで分かっていることをまとめ、これを防ぐための対策を提案している。

COVID-19の医療施設内の感染 対策を提案

 COVID-19によるクラスターとして、飲食店、高齢者施設などに加えて、病院内感染も多く経験されている。ひとたび病院内感染が発生すると、医療資源の低下から地域医療のひっ迫につながり、国民の健康福祉に大きな影響を与える。

 日本感染症学会が実施したアンケート調査は263施設を対象としており、うち施設内伝播を経験したのは42施設だった。

 主な結果は次の通り――。

・ 500床以上の施設が40.5%を占め、COVID-19の⼊院管理を⾏っている施設が78.6%と、中〜⼤規模の地域の中核病院が⼤半であり、COVID-19に対する基本的な院内感染対策のマニュアルの整備や教育などはほぼ全ての施設で実施されていた。

・ 院内伝播事例の発端者は、患者、職員の順であり、院内伝播に関連した罹患者は、看護師、患者、医師の3者が⼤半を占めた。

・ 発端者の覚知から、感染対策を⾏った時期は、1⽇が45.2%、3⽇以内が76.2%だが、7⽇以上経過してから開始した施設も16.7%みられた。

・ 発端者の確認から最終発症者までの⽇数は、85%の施設で2週間以内に収まっていたが、⼀部4週間以上続いている施設もある。

・ 施設内伝播の推定された要因については、患者-職員間、職員間、患者間が上位を占めた。

・ 濃厚接触者からの発症のみでなく、それ以外からの発症者もみられた。

・ 施設内伝播時の感染対策としては、患者および職員など接触者へのPCR検査が約90%の施設で実施され、職員の感染対策の徹底(マスク、⼿指衛⽣、⾷事など)も80%以上の施設で実施されていた。また患者の感染対策(マスク、⼿指衛⽣)、環境整備の徹底(⾼頻度接触⾯の消毒)は半数以上の施設で実施された。新規⼊院や外来診療の制限は半数程度であった。

 なお、同学会は288施設を対象に、追加アンケート調査も実施しており、下記のことが明らかになっている。

・ 通常の外来診療で、42.7%の施設でゴーグル、アイシールドの装着が⾏われていた。⼊院診療では34.4%の施設で実施されていた。

・ COVID-19クラスター発⽣時の対応マニュアルは60%の施設で整備されていた。

 以上から、同学会はCOVID-19施設内感染アンケート結果から考察されることとして、下記を提案している。

⚫ 施設内伝播を経験している施設は、COVID-19患者の⼊院管理を⾏い、感染対策マニュアルをすでに整備している施設が多いことから、マニュアル内容の⾒直し(クラスター発⽣時の対応が含まれているかなど)、マニュアルが形骸化していないか、遵守されているか定期的なチェックが必要。

⚫ 施設内伝播事例での罹患者は医師、看護師、患者が⼤半であり、⽇頃からの症状サーベイランスが重要。

⚫ 感染経路の⼤半は職員間、患者間、職員-患者間であり、濃厚接触者でなくとも感染伝播事例があることから、接触者でも濃厚接触者と同等の対応が必要。また誰が発症しても濃厚接触者とならないような対策が必要。

⚫ 発端者を覚知後、即⽇に感染対策を⾏えている施設は半数にも満たない。COVID-19の特性から発端者を覚知した段階ですでに感染が広がっている可能性があるため、事前に初動をシミュレーションしておくとともに、施設内で発端者を覚知した時点で迅速な対応が必要となる。

⚫ 施設内伝播覚知後の新型コロナウイルス感染症検査は、無症状の接触者(職員・患者とも)に実施している施設が⼤半であり、無症状感染者がいることや潜伏期間を考慮すると濃厚接触者に限らず広く接触者を対象とし、施設および施設規模に応じて適切なタイミングで新型コロナウイルス感染症検査(PCR検査や抗原定量検査)を行うことが有⽤と考えられる。

 同学会は、COVID-19施設内クラスター発⽣時の対応についても推奨されることを公開している。

COVID-19施設内クラスター発⽣時の対応として⾏うことが推奨されること

【事前準備】
・ どの患者・職員から感染者が出たとしても濃厚接触者とならないように、職員・患者ともに⼿指衛⽣やサージカルマスク着⽤を徹底する。職員は⾷事時間の個⾷を徹底し、⾷器やリネンなどの共有を避ける。
・ 施設内のCOVID-19感染対策マニュアルを策定する。
・ COVID-19感染対策マニュアルが遵守できているか確認する。
・ ⼊院患者または職員が発症した場合の初動体制(隔離、ゾーニング、診療体制)の構築とシミュレーションを⾏う(個⼈⽤防護具の着脱訓練など)。
・ 保健所との連携の構築しておく。
・ 院内感染状況把握のための新型コロナウイルス感染症検査(可能な限り抗原定量検査やPCR検査)の整備を⾏う。
・ アルコール⼿指消毒剤や個⼈⽤防護具の確保のため、使⽤状況や在庫の定期的なモニタリングを⾏う。
・ 疑い患者または職員の早期発⾒のための症状サーベイランスを実施する。
・ 地域流⾏期にハイリスク患者(新⼊院肺炎患者、全⾝⿇酔患者など)のスクリーニング検査を実施する。

【クラスターが発⽣した場合の対応】
・ 平⽇・休⽇・夜間に関わらず事例覚知後、直ちに疫学調査を⾏い、対応策を検討する。
・ 施設内対策本部の設置、感染防⽌策の再確認ならびに強化、院内での情報共有、保健所と密に連携を取りつつ⽇々の⽅針を決定する。
・ 外来診療や⼊院の制限を検討する。
・ 感染者、疑似症患者、濃厚接触者、⾮接触者のゾーニングとスタッフの区分けを⾏う。
・ 新型コロナウイルス感染症検査(PCR検査や抗原定量検査)は濃厚接触者に限定せず、(感染者が発症する少なくとも2⽇前から)接触した職員・患者に対して広く積極的に実施する。
・ 接触者は初回新型コロナウイルス感染症検査(PCR検査や抗原定量検査)後、有症状時だけでなく施設および施設規模に応じて適切なタイミングや範囲で新型コロナウイルス感染症検査(PCR検査や抗原定量検査)を実施する。
・ 感染者の出た病棟に関して、患者の部屋移動・病棟移動・転院を制限する。
・ 感染者の出た病棟の患者が検査などで病棟外へ出ることについて慎重に検討する。
・ 濃厚接触となる職員は休務とし、他部署からの⽀援を検討する。また⽀援する職員はクラスター収束まで元の部署に戻らない。
・ 最終発症者(職員・患者とも)が出た⽇をday0とし、そこから少なくとも14⽇間は発症者が出ていないことを確認してからクラスターの収束の検討を⾏う。また収束までに少なくとも2回は全接触者に新型コロナウイルス感染症検査(PCR検査や抗原定量検査)が⾏われていることが望ましい。
・ クラスター発症要因の解析と再発防⽌対策を実施する。

一般社団法人 日本感染症学会

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