個別の疾患のみの診断ではなく、肥満症に伴う糖尿病は 「肥満症・糖尿病」と診断し、 疾患対策を明確に
一般社団法人 日本肥満症予防協会では、肥満症と関連疾患、予防・改善の最前線をリポートするニュースレター「Obesity Report」を発行しています。
本記事では、2018年に発行した『Obesity Report Vol.6』にて、同協会理事長の松澤佑次先生(一般財団法人 住友病院・名誉院長)に解説いただいた、「肥満症」の概念と診断基準、そして肥満症の基準値となる内臓脂肪を測定して診断する意義をご紹介します。
松澤佑次先生
(一般財団法人 住友病院・名誉院長)
提供:一般社団法人 日本肥満症予防協会
はじめに
飽食と運動不足を背景とした過剰栄養とそれによる肥満がさまざまな生活習慣病疾患の原因の多くを占めることは周知の事実である。
欧米、特に米国に比べ高度肥満が少ないわが国では一見肥満が深刻でないとみられがちであるが、肥満を基盤とした生活習慣病の糖尿病や高血圧の発症頻度は変わらない。
したがって、わが国の生活習慣病の予防対策は、肥満の判定基準を欧米よりも下に広げ、その枠の中で医学的な観点から減量治療の必要な場合を肥満 "症"と診断し、疾患として捉える一方、 肥満であっても医学的に治療を必要としない健康肥満を判別するという考え方に至ったのである。この考え方で基準作りをすることは、医学的な目的でない減量が正当化されてしまわないためにも、きわめて重要である。
内臓脂肪過剰蓄積に関する基準値の考え方
わが国における内臓脂肪の量的判定は、平成11年、12年に厚生労働省科学研究「糖尿病発症高危険群におけるインスリン抵抗性と生活習慣基盤に関する多施設共同追跡調査―介入対象としての内臓肥満の意義の確立」において発表されたCTスキャンのデータをもとに設定されている。また、これらを簡易的に推定する方法としてウエスト長を採用し、内臓脂肪面積が100cm2に相当する値が男性85cm、女性90cmであることも示され、肥満症診断基準で第一スクリーニングとして採用された
内臓脂肪型肥満イコール肥満症と診断できる理由は、内臓脂肪面積100cm2の基準を超えた症例の95%以上に、高血糖、脂質異常、脂肪肝などの肥満症の診断基準に挙げた病態を有しているという知見に基づいている。
肥満症の概念と診断基準
日本肥満学会が2000年に発表した「肥満症診断基準ガイドライン」において、日常診療で肥満の中から肥満症を選別するために、一つは、肥満と判定された中で減量することによって改善するか、または、進行が予防されると考えられる11の病態のいずれかを有する場合、もう一つは内臓脂肪量をCTで測定し、腹腔内の脂肪組織の蓄積が100cm2を超えるか否かでの判断となっている。
内臓脂肪型肥満が多くの病気の発症因子や憎悪因子であることは明確な事実であるが、わが国の肥満対策は個々の肥満を医学的な見地から、減量すべき肥満を切り分け、治療する側、される側で肥満症という疾患として認識することが基本となる。
簡便な内臓脂肪測定計を開発
内臓脂肪面積は、CTスキャンで測定しているが、私たちは、花王株式会社、パナソニック株式会社とともに、CTとの相関が高く簡便に測定する方法である内臓脂肪計を共同開発した。内臓脂肪計は、診療所や健診施設でも使うようになってきた。
何らかの機会に皆さまが内臓脂肪を測定して、内臓脂肪蓄積の基準値100cm2を超えるようであれば、100cm2以下に減らすダイエットと運動療法に勧めていただければ幸いである。
肥満症のカルテ表記
肥満関連の疾患として11の肥満症関連疾患が明確になっているが、個々の患者の疾患の表記に関して、糖尿病や高血圧症などの個別の疾患のみを診断するのではなく、「肥満症・糖尿病」や「肥満症・高血圧症」などと分類し、疾患対策を明確にしていくことが、今後の診療現場の対応として重要なものになっていくことは間違いがない。
たとえば2型糖尿病の場合、肥満特に内臓脂肪の過剰蓄積があれば、肥満症と診断する。そこで、血糖降下を目指す対症療法に優先して、内臓脂肪を減らす治療、つまり原因治療をするという考え方が肥満症を診断する考え方なのである。
欧米よりも高度肥満がはるかに少ないわが国で、内臓脂肪過剰蓄積が脂肪細胞機能異常を介して多くの病態をもたらしていることを基盤として策定された肥満症の概念と診断基準のコンセプトを述べた。肥満症を疾患として捉える基準の重要性を認識していただき、日常の生活習慣病対策の大きなツールにしていただければ幸いである。
発行元
一般社団法人 日本肥満症予防協会
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