糖尿病による心臓病の発症原因を解明 アミノ酸の代謝異常が心肥大を引き起こす 神戸大学など

心臓での分岐鎖アミノ酸代謝の変化と心不全発症の関連を解明
近年の研究により、心不全患者では心筋での「分岐鎖アミノ酸」代謝が障害され、それが異常に蓄積することが示唆されている。
分岐鎖アミノ酸は、バリン、ロイシン、イソロイシンの3種類のアミノ酸の総称であり、筋肉のエネルギー源となったり、タンパク質合成を促進する重要な栄養素。代謝障害が起こると体内に蓄積し、代謝異常、心機能低下、心肥大への悪影響を引き起こすことが注目されている。
糖尿病性心筋症での心臓の分岐鎖アミノ酸代謝異常の実態や、それが病態にどう関与するかについて、これまでよく分かっていなかった。研究グループは今回、脂肪細胞のインスリンシグナル異常により自然に糖尿病性心筋症様の変化を起こす新たなマウスモデルを用いて、心臓での分岐鎖アミノ酸代謝の変化と心不全発症メカニズムを解明することを目指した。
その結果、脂肪組織でインスリンが作用せず高血糖を示すマウスでは、自然に心肥大が発症し、心臓での分岐鎖アミノ酸代謝が障害されていることを明らかにした。
心臓に蓄積した分岐鎖アミノ酸の一種であるロイシンが、mTORC1と呼ばれるタンパク質複合体のシグナル経路を活性化させ、心肥大を引き起こすという新たな病態メカニズムを解明した。
分岐鎖アミノ酸の代謝を活性化する薬剤の効果検証により、分岐鎖アミノ酸やmTORC1シグナル経路が、糖尿病にともなう心不全に対する新たな治療標的となる可能性がある。
研究は、神戸大学大学院医学研究科立証検査医学分野の長尾学特命准教授、篠原正和教授(分子疫学分野併任)、静岡県立大学大学院薬食生命科学総合学府栄養生理学研究室の細岡哲也准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cardiovascular Diabetology」に掲載された。

糖尿病性心筋症の新たな発症メカニズム
「分岐鎖アミノ酸代謝障害-mTORC1活性化-心肥大」を解明
研究グループは今回、インスリンの働きを伝えるタンパク質PDK1を脂肪細胞で欠失させることにより脂肪組織でインスリンが作用しないマウスを用いて解析を行った。このマウスでは、高血糖に加えて、特別な食餌や外的心臓負荷を与えなくても自然に心肥大が発症し、心臓でのインスリン抵抗性と分岐鎖アミノ酸代謝の障害が確認された。
とくに、分岐鎖アミノ酸の一種であるロイシンが心筋内に蓄積し、細胞成長を制御するmTORC1シグナル経路を異常に活性化させることで、心肥大を引き起こすことが明らかになった。さらに、分岐鎖アミノ酸の代謝を促進する薬剤を投与したところ、心臓組織のロイシン濃度が低下し、mTORC1活性と心肥大がともに改善することが確認された。
これらの結果により、糖尿病性心筋症での新たな発症メカニズムとして「分岐鎖アミノ酸代謝障害-mTORC1活性化-心肥大」という一連の流れが実証された。
「本研究により、糖尿病性心筋症での心不全発症メカニズムに、分岐鎖アミノ酸代謝異常という新たな視点が加わった。今後は、分岐鎖アミノ酸代謝やmTORC1シグナル経路を標的とした治療法の開発が期待される。とくに、既存の糖尿病治療薬とは異なる作用機序をもつ新たな心不全治療薬の創出につながる可能性がある」と、研究者は述べている。
「また、PDK1を脂肪細胞で欠失させたマウスは、糖尿病にともなう心臓病の病態解析や創薬研究での有用な前臨床モデルとして活用されることが期待される。これにより、糖尿病患者の生命予後や生活の質の向上に貢献することが期待される」としている。
神戸大学大学院医学研究科 循環器内科学分野
神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科学分野
Impaired cardiac branched-chain amino acid metabolism in a novel model of diabetic cardiomyopathy (Cardiovascular Diabetology 2025年4月16日)