眼底画像から血圧や血糖値を推定するAIを開発 無償公開を開始 日本眼科学会など

眼底画像から血圧・血糖値・腹囲・BMIなどの代謝関連指標を推定
大量の画像を深層学習(DL)した人工知能(AI)を医療に利用する動きは学術研究から社会実装の段階を迎えている。DLでは、学習条件を変えることで、同じ学習データであっても異なる性能をAIにもたせることができる。
こうした医療AIは、診断の示唆を与えるのみならず、従来は検出できなかった画像上の未知の特徴を認識する能力もある。未知の特徴には画像が撮影された個人の状態も含まれ、眼内の光を感じる部分である網膜を撮影した眼底写真からは、すでに年齢や性別を推定することも可能だ。
国立情報学研究所(NII)は、2017年に医療ビッグデータ研究センター(RCMB)を設置し、医療画像ビッグデータのデータベースとDLの計算資源をあわせもった統合クラウド環境(クラウド基盤)を整備運用してきた。
また、日本眼科学会は、眼底画像を含む眼科データを全国の眼科関連施設から収集し、医療補助AIの研究開発を支援・促進する目的で、一般社団法人Japan Ocular Imaging Registry(JOIR)を2019年に設立した。このJOIRのデータベースに収集した眼科画像を匿名化してRCMBのクラウド基盤へ送り、クラウド基盤上の計算資源を利用して医療支援AIを研究開発している。
両者は共同で、眼底画像をもとに、その人の年齢を推定するAIを開発し、そのAIモデル(推定手法)を広く研究者が自由に利用できるよう2023年1月に無償公開した。さらに、眼底画像から性別を推定するAIを開発し、2023年12月にAIモデルを無償公開した。
17~94歳の眼底写真約13万枚を学習データにして深層学習を用いて推定
今回は、眼底画像から2型糖尿病やメタボリックシンドロームなどとの関連の深い血圧や血糖値、腹囲、BMIの値を推定するAIモデルを、名古屋大学と共同で研究開発し、そのモデルの無償公開を開始した。
開発したAIモデルは、血圧(収縮期と拡張期)、血糖値、腹囲、BMIの真値が付与された17~94歳の眼底写真約13万枚を学習データとし、眼底画像から深層学習を用いて値の推定を行うもの。
これまで実施した眼底画像からの性別推定AIモデル開発では、深層学習モデルとしてEfficientNet-B7がもっとも高い精度であったことから、今回も採用した。
その結果、検証データの眼底画像からAIモデルが推定した値と真値の間の平均絶対誤差は、収縮期血圧 10.34mmHg、拡張期血圧 7.09mmHg、血糖値 8.71mg/dl、腹囲 7.18cm、BMI 2.53だった。

これまでに、160万枚以上の大規模画像データセットを用いて開発されたAIモデルが提案されていたが、今回開発したAIモデルは学習用画像数が10分の1以下にも関わらず、既報のAIモデルに匹敵する性能となった。開発した眼底画像からの血圧(収縮期と拡張期)、血糖値、腹囲、BMIの推定AIモデルを公開している。
「開発したAIモデルは、眼底画像から血圧・血糖値・腹囲・BMIといった代謝関連指標を一定の精度で推定できることを示しており、研究者にとって新たな視点でメタボリックシンドロームのリスク評価を行う手段として活用されることが期待される」と、研究者は述べている。
「これにより、生活習慣病の予防医学の分野での基礎研究や疫学研究の進展が促されるとともに、動脈硬化などの疾患予測に関する知見が深まる可能性がある。将来的には、こうしたAI技術が健診や遠隔医療の現場に導入され、非侵襲的かつ簡便な方法で個人の健康リスクを可視化することができる可能性がある」としている。
研究は、日本医療研究開発機構(AMED)臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究事業「次世代眼科医療を目指す、ICT/人工知能を活用した画像等データベースの基盤構築」および「医療ビッグデータ利活用を促進するクラウド基盤・AI画像解析に関する研究」の支援を受けて行われた。モデルは森健策(NII RCMBセンター長・名古屋大学大学院情報学研究科教授)と小田昌宏(名古屋大学情報基盤センター准教授)が開発した。
公益財団法人 日本眼科学会
一般社団法人 Japan Ocular Imaging Registry