かかりつけ医の日常診療での心房細動スクリーニングの有用性を検討 日本脳卒中協会などが「TASK-AFプロジェクト」を実施
2021.03.10
日本脳卒中協会とバイエル薬品は、かかりつけ医の日常診療における心房細動のスクリーニングの有用性を検討した日本ではじめての研究を発表した。
かかりつけ医による積極的なキャンペーンが有用であり、心房細動による脳卒中の予防や地域医療連携の重要性が求められているとしている。
かかりつけ医による積極的なキャンペーンが有用であり、心房細動による脳卒中の予防や地域医療連携の重要性が求められているとしている。
心房細動スクリーニングとして聴診や触診による脈のチェックを実施
心房細動は、症状や脳梗塞予防の必要性について十分に知られておらず、症状があっても心房細動を疑わなかったり、自覚症状のない場合や心房細動が発作性である場合は発見が困難だったりするため、早期発見は容易ではない。 そこで日本脳卒中協会は、日本不整脈心電学会とともに、毎年3月9日を「脈の日」、3月9~15日を「心房細動週間」と定め、心房細動からの脳梗塞を予防するための啓発活動を展開している。 日本脳卒中協会とバイエル薬品はこのほど、かかりつけ医の日常診療における心房細動のスクリーニングの有用性を検討した日本ではじめての研究「Akita study」に関する論文が公表されたと発表した。この研究は、協同事業「心房細動による脳卒中を予防するプロジェクト(TASK-AFプロジェクト)」の一環として実施したもの。 TASK-AFプロジェクトは、日本における心房細動患者の脳卒中予防に関する現状および課題を明らかにし、行政・保険者・医療提供者などによる一体的な取り組みを促進することで、患者とその家族、および社会的・経済的な負担を軽減することを目的としたプロジェクト。2020年3月をもって終了した。心房細動による脳卒中の予防や地域医療連携の重要性が求められている
海外では、心房細動の早期発見に日常診療での脈のチェックによる心房細動のスクリーニングが効果的との論文報告があるが、日本ではまだその有用性が明らかになっていない。また、秋田県は、超高齢社会の先行地域であり、かつ脳梗塞による死亡率が全国でも上位だ。 そこで研究グループは、同県内12診療所の参加のもと、「Akita study」を実施した。同研究では、かかりつけ医を受診した65歳以上のすべての高齢者(受診目的は問わない)に対し、外来を受診する度に心房細動スクリーニングとして聴診や触診による脈のチェックを実施し、疑いがあった患者には確定診断のため心電図検査を行い、新たに心房細動と診断された率(新規心房細動診断率)を検討した。 さらに、適切な抗凝固療法の導入を目的に、かかりつけ医と循環器専門医による医療連携の推進キャンペーンの効果も評価した。 対象患者1万583名をスクリーニングした結果、新規心房細動診断率はキャンペーン期間前とキャンペーン期間中でいずれも0.9%と同程度だったが、各期間における新規外来患者に限定すると、同診断率がキャンペーン実施により1.6%から1.9%に上昇した。 また、新規外来患者のうち、65~74歳の集団では同診断率が0.9%から1.5%に、85歳以上の集団では同診断率が2.9%から3.3%に上昇した。 このように、心房細動スクリーニングは新規外来患者で、より効果的である可能性が示唆された。 脳卒中・循環器病対策基本法にもとづき、厚生労働省より循環器病対策推進基本計画が公表され、心房細動による脳卒中の予防や地域医療連携の重要性がさらに求められるなか、研究成果は心房細動の早期発見や、適切な抗凝固療法につなげる医療連携の新たなエビデンスとなるとしている。地域医療連携の新たなエビデンスを構築 かかりつけ医による積極的なキャンペーンが有用
Akita studyでは、適切な抗凝固療法の導入を目的とした医療連携キャンペーンの効果について検討した結果が別途、論文公表されている。キャンペーン前後で、医療連携(紹介+逆紹介)を受けた患者の割合は3.5%から14.5%へ、また、脳卒中リスク評価にもとづいた抗凝固療法の実施割合は55.8%から71.8%への増加が認められた。 この結果より、かかりつけ医による積極的なキャンペーンが日本の実臨床下で、医療連携や適切な抗凝固療法の推進に有用であることが示された。 日本脳卒中協会の峰松一夫理事長はAkita studyについて次のように述べている。「心房細動は脳梗塞を起こす重要な危険因子であり、心房細動による脳梗塞は重症であることも知られています。日本脳卒中協会の調査では、心房細動が脳梗塞の原因になると知っている方は残念ながら約3割しかいませんでした。また、心房細動は抗凝固薬で脳梗塞の発症を大きく減らすことができますが、心房細動があり脳梗塞を起こされた方のうち、約7割の方は抗凝固薬を服用されていなかったことが報告されています。まず自分の指で手首の脈を触れたり、不規則脈波検出機能付き家庭用血圧計や家庭用心電計を用いて不整脈の有無を調べたりすることが大切です。さらに今回のAkita studyにより、『かかりつけ医が心房細動発見に積極的に取り組む』ことが、脳梗塞予防のために重要であることがわかりました。Akita studyの結果によって日本全国で心房細動のスクリーニングがより盛んとなり、心房細動による重症脳梗塞の減少につながることを期待しています」。 日本脳卒中協会 バイエル薬品 Acceleration of opportunistic atrial fibrillation screening for elderly patients in routine primary care(PLOS ONE 2020年12月30日)
Impact of care coordination on oral anticoagulant therapy among patients with atrial fibrillation in routine clinical practice in Japan: a prospective, observational study(BMC Cardiovascular Disorders 2019年10月24日)
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]