糖尿病専門医レベルの方針決定ができる人工知能(AI)システムを開発 糖尿病データマネジメント研究会のビッグデータを活用 AIと非専門医を比較検証

2021.03.02
 新潟大学は、専門医が過去に行った治療内容の大規模データを機械学習させ、命に関わる特定の診療場面において、一般医(非専門医)を超えた専門医レベルの方針決定が可能な人工知能(AI)システムを開発したと発表した。
 糖尿病データマネジメント研究会(JDDM)がもつ日本全国の糖尿病専門医の診療記録ビッグデータを活用し、糖尿病専門医が初期治療にインスリン療法を選択した患者の病状をAIに機械学習させ、初期治療にインスリン療法が必要かの判断能力について、非専門医の判断能力との比較を含めて検証した。

糖尿病専門医のインスリン判断をAIに学習させ、非専門医の判断と比較

 研究は、新潟大学大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科学分野の藤原和哉特任准教授、曽根博仁教授らの研究グループが、NTTコムウェアとの共同で行ったもの。研究成果は、「JMIR Medical Informatics」に掲載された。

 2型糖尿病では、最初の薬物療法として内服薬が用いられることが多いが、ある程度以上重症の場合などの状況によっては、初診時からインスリン療法が必要となる。判断を誤ると血糖値が極めて高くなり、昏睡など命に関わる重大な結果をまねくこともある。糖尿病専門医は知識と経験に基づき、最初からインスリン注射が必要な患者を的確に判断しているが、非専門医にとってはときに難しい判断となる。

 そこで研究グループは、糖尿病データマネジメント研究会(JDDM)がもつ日本全国の糖尿病専門医の診療記録ビッグデータを活用し、糖尿病専門医が初期治療にインスリン療法を選択した患者の病状をAIに機械学習させ、初期治療にインスリン療法が必要かの判断能力について、非専門医の判断能力との比較も含めて検証した。

 今回、研究の対象としたのは、JDDMに登録され、糖尿病罹患期間、肥満度、血圧、血液検査(HbA1c、腎機能)などのデータを有し、2009~2015年に糖尿病専門医が実際に薬剤選択を行った20歳以上の4,860人(インスリン293人、インスリン以外4,567人)。

 このうち一部症例について、9人の糖尿病専門医と22人の非専門医にデータを示し、インスリン治療を選択すべきかについて判断させた。AIの予測能は5分割交差検証法(テストデータを除くデータを用い、インスリンとインスリン以外の比率を維持し、ランダムに抽出し作成した5個のグループに対して訓練・検証のデータを入れ替えながらモデルの学習と検証を行う手法)で評価した。さらに、専門医9人中8人がインスリン療法を要すると判断した症例の治療選択について、一般医とAIの判断の正解率を比較した。

 その結果、一般医の正解率43%に対し、機械学習の正解率は86%と約2倍高い結果を示した。機械学習されたAIは、初期治療にインスリン療法が必要かの判断について、専⾨医と同等レベルの判断ができることが⽰され、その正解率は⾮専⾨医を⼤幅に上回ることが明らかになった。

 今回の検討は、AIがインスリン選択が必要である症例を判別できることを示し、命に関わる特定の診療場面で、非専門医が単独で方針決定せざるを得ない際の診療サポートとして、AIが役立つ可能性をはじめて示したものだ。

 「糖尿病をはじめとした⽣活習慣病は増加の⼀途をたどり、専⾨医が全ての患者を診療することは困難であることから、命に関わる場⾯以外の⽇常診療の判断におけるAIの有⽤性についても検討していく予定です」と、研究グループは述べている。

新潟大学大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科学分野
Machine Learning Approach to Decision Making for Insulin Initiation in Japanese Patients With Type 2 Diabetes (JDDM 58): Model Development and Validation Study(JMIR Medical Informatics 2021年1⽉27⽇)

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