【新型コロナ】ワクチンの利益とリスク 正しく評価し、接種の判断を 日本感染症学会が提言「ゼロリスクはありえない」
2021.01.13
日本感染症学会「COVID-19ワクチンに関する提言(第1版)」
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンの接種が、日本でも2021年四半期内に開始されることが期待されている。
日本感染症学会は、「COVID-19ワクチンに関する提言(第1版)」の公開を開始した。
「国民1人ひとりがその利益とリスクを正しく評価して、接種するかどうかを自分で判断することが必要です」と指摘している。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンの接種が、日本でも2021年四半期内に開始されることが期待されている。
日本感染症学会は、「COVID-19ワクチンに関する提言(第1版)」の公開を開始した。
「国民1人ひとりがその利益とリスクを正しく評価して、接種するかどうかを自分で判断することが必要です」と指摘している。
国民1人ひとりが接種について判断すべき
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンの接種が、日本でも2021年四半期内に開始されることが期待されている。欧米では高い有効性が伝えられている一方、従来にない手法を用いて極めて短期間に開発されたこともあり、接種にともなうリスクの可能性も指摘されている。 日本感染症学会ワクチン委員会では、学会会員および国民に対し、現在海外で接種が開始されているCOVID-19ワクチンの有効性と安全性に関する科学的な情報を提供し、それぞれが接種の必要性を判断する際の参考にしてもらうべく、「COVID-19ワクチンに関する提言(第1版)」の公開を開始した。今後、COVID-19ワクチンの国内外における状況の変化にともない、内容を随時更新する予定という。 同学会は「ワクチンも他の薬剤と同様にゼロリスクはありえません。病気を予防するという利益と副反応のリスクを比較して、利益がリスクを大きく上回る場合に接種が推奨されます」としたうえで、「国が奨めるから接種するというのではなく、国民1人ひとりがその利益とリスクを正しく評価して、接種するかどうかを自分で判断することが必要です」と提言している。新型ワクチンは迅速に実用化できる利点が
ファイザーは2020年12月18日、COVID-19に対するmRNAワクチンの申請を行った。日本は米ファイザー、米モデルナ、英アストラゼネカとワクチンの供給を受ける契約または基本合意を締結しているが、日本国内でも独自のワクチン開発が進められている。 現在開発中のCOVID-19ワクチンには、不活化ワクチンまたはウイルスベクターワクチンが多くみられるが、生ワクチンの開発も行われている。これまでの不活化ワクチンに用いられた病原体の成分は、タンパク質や多糖体が主体だったが、COVID-19ワクチンでは、mRNA(メッセンジャーRNA)、DNA などの核酸が用いられている。核酸ワクチンやウイルスベクターワクチンは迅速に実用化できる利点があり、緊急性が求められるパンデミックワクチンの方法として有用だ。海外で開発されている新型コロナウイルスのワクチン
ファイザー |
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mRNAワクチン |
2020年7月から米などで第3相試験を実施。12月から英米などで接種開始。 日本でも治験を2020年10月から実施。同年12月に承認申請。 |
アストラゼネカ、オックスフォード大学 |
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ウイルスベクターワクチン |
2020年5月から英で第2/3相試験を実施。8月から米で第3相試験を実施。2021年1月から英で接種開始。 日本でも治験を2020年8月下旬から実施中。 |
モデルナ |
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mRNAワクチン |
2020年7月から米で第3相試験を実施。12月から米で接種開始。 日本でも治験の実施を準備中。 |
ジョンソン&ジョンソン(ヤンセン) |
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ウイルスベクターワクチン |
2020年9月から米などで第3相試験を実施。11月から英などで第3相試験を実施。 日本でも治験を2020年9月から実施中。 |
サノフィ |
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組換えタンパクワクチン、mRNAワクチン |
組換えタンパクワクチンは、2020年9月から米で第1/2相試験を実施。mRNAワクチンは、2021年第1四半期に第1/2相試験開始を目指す。 |
ノババックス |
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組換えタンパクワクチン |
2020年9月から英で第3相試験を実施。 日本でも治験の実施を準備中。 |
日本で開発されている新型コロナウイルスのワクチン
塩野義製薬、国立感染症研究所、UMNファーマ |
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組換えタンパクワクチン |
2020年12月から第1/2相試験を実施。 |
第一三共、東京大学医科学研究所 |
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mRNAワクチン |
最短で2021年3月から臨床試験を開始。 |
アンジェス、大阪大学、タカラバイオ |
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DNAワクチン |
第1/2相試験を開始、第2/3相試験を開始、大規模第3相試験を2021年内に開始。 |
KMバイオロジクス、東京大学医科学研究所、国立感染症研究所、医薬基盤研究所 |
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不活化ワクチン |
最短で2021年1月から臨床試験を開始。 |
IDファーマ、国立感染症研究所 |
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ウイルスベクターワクチン |
最短で2021年3月から臨床試験を開始。 |
ワクチンの「有効率90%以上」はどういう意味か
有効性について、ファイザーとモデルナのワクチンは、臨床試験で90%以上の有効率がみられた。インフルエンザワクチンの65歳未満の成人での有効率が52.9%(2015/16シーズン)であることを考えると、「予想以上の結果」としている。アストラゼネカ社のワクチンは、1回目低用量、2回目標準用量では90%、1、2回目とも標準用量の試験では62%だった。 「有効率90%」の意味について、提言は次のように分かりやすく解説している。
ワクチンの有効率90%というのは「90%の人には有効で、10%の人には効かない」もしくは「接種した人の90%は罹らないが、10%の人は罹る」という意味ではありません。接種群と非接種群(対照群)の発症率を比較して、「非接種群の発症率よりも接種群の発症率のほうが90%少なかった」という意味です。発症リスクが、0.1倍つまり10分の1になるとも言えます。
提言はまた、いずれの試験でも重症者数が限られているため、重症化予防効果の評価は今後の課題であること、75歳以上への効果は対象者が少なく評価できないこと、試験期間が100~150日と短いため、免疫がどれくらい持続できるかの評価がまだできないことなどの、注意を促している。
ワクチンの有害事象の可能性は
同学会は、臨床試験における1回目および2回目における接種後の有害事象の頻度を年齢別に表にまとめている。 ファイザーのmRNAワクチンは、局所反応として日常生活に支障が出る中等度以上の疼痛が報告されており、アストラゼネカのウイルスベクターワクチンでも若年者層(18~55歳)で疼痛の頻度が高かった。 全身症状についてもmRNAワクチンでは高頻度にみられたが、対照群においても倦怠感、頭痛、寒気、嘔気・嘔吐、筋肉痛がある程度みられたことに注意が必要だという。 重篤な有害事象は0.6~1%にあったが、対照群との差はみられなかった。また、臨床試験の対象は白色人種がほとんどでアジア系の割合が少ないことから、国内での臨床試験での安全性の確認が欠かせないとしている。また、超高齢者や基礎疾患をもつ人への試験も十分ではなく、基礎疾患ごとの安全性を検討する必要があるとしている。出典:「COVID-19ワクチンに関する提言(第1版)」(日本感染症学会ワクチン委員会)、2020年
どんな人がワクチン接種が優先されるか
厚生労働省は2020年10月に、COVID-19ワクチンの優先接種対象者として、医療関係者、高齢者、基礎疾患を有する者に決定した。その後、高齢者などが入所・居住する社会福祉施設で利用者に直接接する職員も含める方向で協議されている。 基礎疾患については、慢性呼吸器疾患、慢性心疾患、慢性腎疾患、慢性肝疾患、神経疾患・神経筋疾患、血液疾患、糖尿病、疾患や治療にともなう免疫抑制状態(悪性腫瘍、関節リウマチ・膠原病、肥満を含む内分泌疾患、消化器疾患、HIV 感染症など)などが検討されている。 優先接種対象となる高齢者の年齢基準として、同学会は65歳が国民にとって分かりやすいとの認識を示した。ただし、今後の解析で60歳代前半の致命率が60歳代後半と同等であると確認した場合は、基準を60歳とすることもありうるとしている。 また同じ高齢者でも介護福祉施設の入所者、精神科病棟の入院患者は集団感染のリスクが高く、優先順位を上げることが望ましいと指摘した。 また、BMI(体格指数)30以上の肥満は、COVID-19 重症化のリスク因子であり、とくに60歳未満では重症化との関連性が高いという報告があるため、接種が奨められるとしている。どのような体制で接種が行われるか
接種体制について、前述の臨床試験での有害事象発生率をふまえると、所属する医療機関で行うとみられる医療関係者へのワクチン接種は、接種後数日間出勤できない職員が一定の割合でみられるため、同学会は「接種人数を限定して段階的に実施するなど配慮が必要」との見方を示した。 高齢者や基礎疾患のある人の接種は、市町村からの文書(接種クーポン券)などによる通知が計画されており、それにもとづいて医療機関や市町村設置会場で接種が行われる。市町村設置会場での集団接種は最近では実施されていないので、「実施体制をあらためて確認し、特にアナフィラキシーへの緊急対応ができる薬剤の準備など、医療体制整備が欠かせない」としている。 なお、すでに報道されているように、mRNAはRNA分解酵素で壊れやすいことから、ファイザーのmRNAワクチンの保管には-60~80℃を保てる冷凍庫が必要で、輸送にもドライアイスを用いる。モデルナのmRNAワクチンは長期保管に-15~25℃の冷凍庫が必要となる。一方、アストラゼネカのウイルスベクターワクチンは、既存のワクチンと同様に冷蔵で保管する。 新しく導入されるワクチンは、数百万人規模に接種された後に新たな副反応が判明することも考えられることから、数年にわたる長期的な有害事象の観察が重要だ。 接種を受けた人が発症した場合に、症状がより重くなるワクチン関連疾患増悪(VAED)や、ワクチンによってできた抗体によって感染が増強する抗体依存性増強(ADE)にも、将来的に注意深い観察が必要だとしている。 一般社団法人日本感染症学会[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]