【新型コロナ】2型糖尿病患者がコロナ禍で受診を控え血糖コントロールが悪化 J-DOMEの症例データを分析 日本医師会
これは、⽇本医師会総合政策研究機構(⽇医総研)が公表したもので、対象とした907症例の分析結果より、感染症蔓延のなかでも、効果的な治療のために、かかりつけ医への受診継続が重要であることが示唆された。また、とくに女性の受診控えに対する対応も必要であることが判明した。
日本医師会かかりつけ医データベース研究事業(J-DOME)の症例データを分析
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延により、患者が感染リスクを恐れ、医療機関への受診を控え、生活習慣病を含む持病や急性疾患の症状が悪化することが危惧されている。
受診控えがもたらす患者への悪影響を実感する現場の医療者は多いが、実際の患者の病態変化を把握するには長期の観察を要することから、必ずしも十分なエビデンスが示されていない。
そこで各地のかかりつけ医が参加協力している日本医師会かかりつけ医データベース研究事業(J-DOME)の症例データを用いて、糖尿病患者の受診控えの影響を分析した。
具体的には、かかりつけ医に定期通院している2型糖尿病患者の2年分のデータから、対面の通院回数の減少が血糖コントロール(HbA1c値)に与えた影響を把握した。J-DOMEの糖尿病症例のうち、2019年4月~12月の間と2020年4月~9月の間の両方に登録がある症例を分析対象とした。
2020年の症例登録票には、コロナ禍のなかであることから、「新型コロナ感染症の発生後の通院の変化」に関する項目を新規に追加しており、同項目に回答のある症例のみを対象とした。
その結果、対象となる症例数は907となった。それらの症例を対象に通院回数が「大きく減少」「やや減少」「変わらない」症例についてHbA1c値などの検査結果値の変化を調べた。
通院が大きく減少した症例のHbA1cは平均7.20%から平均7.75%に悪化
その結果、新型コロナ感染症が蔓延する2020年4月~9月の間に通院が「大きく減少した」症例は4.9%(n=44)を占めた。「やや減少した」が13.1%(n=119)、「変わらない」が82.0%(n=744)を占めた。
通院が大きく減少した症例のHbA1cは2019年に平均7.20%であったが、2020年に0.55%増加し7.75%に悪化した。通院がやや減少した症例では-0.04%変化、通院が変わらない症例は-0.07%変化し、HbA1cの悪化がみられなかった。これら3群のHbA1cの変化量には有意差がみられた。
男性、女性それぞれについても、また、糖尿病専門医の症例と糖尿病非専門医の症例それぞれについても、同様の関係が示された。
通院回数が大きく減少した群では女性が50%を占め、他群に比べて高い傾向がみられた。大きく減少した群の平均年齢は60.7歳、やや減少した群は63.7歳、変わらない群は67.2歳で、通院の減少は年齢の若い糖尿病患者に多いことが示唆された。
また収縮期血圧、拡張期血圧の1年後の変化量も、通院回数の変化による差がみられ、通院が大きく減少した群ではより悪化の傾向がみられた。BMIの平均については3群の差がみられなかった。
かかりつけ医との継続的なコミュニケーションが重要
⽇医総研では「コロナ禍にあっても患者の継続的な受診が効果的な治療には重要であることが示唆された。通院が大きく減少した群の悪化理由は、処方や指導が行われず治療薬の継続性が失われた可能性や、直近の血液検査値がわからず治療への意識が下がったことなどが推測される」と考察している。
「また、女性患者の受診回数の減少が顕著にみられたのは、既存調査でも示されているように、女性のほうがコロナ禍で医療機関受診を控える傾向が強いことも影響していると考えられる」。
「医師患者の間での情報共有を行うためにもかかりつけ医との継続的なコミュニケーションが重要であることが示唆された」としている。
今後、2020年の症例登録数が増加した段階で症例対象数を増やし、あらためて解析を実施し、糖尿病のみならず、高血圧についても検討する。また、受診控えを行った群の特性を把握し、感染症蔓延のなかで受診控えの可能性の高い患者像を明らかにしていくとしている。
日本医師会かかりつけ医データベース研究事業(J-DOME)は、かかりつけ医の症例レジストリで、開始時は糖尿病のみ、2020年7月より糖尿病と高血圧を対象疾患としている。年1回の症例登録で、約160施設が参加、症例数は約1万2,000で現在2020年度症例の登録中。