動脈硬化における炎症の新しいメカニズムを解明 血管内皮細胞の炎症性遺伝子のエピジェネティックな抑制機構が破綻
2020.03.13
東京医科歯科大学や東京大学などの研究グループが、動脈硬化におけるエピジェネティックな転写抑制機構の破綻と、それに続く炎症性遺伝子活性化のメカニズムを明らかにした。
動脈硬化での血管内皮細胞の炎症反応の誘導は、遺伝子不活化に関連する抑制系ヒストン修飾の脱メチル化というメカニズムを介して起こることが示された。
動脈硬化の新しい治療法の開発や、心血管疾患の予後改善につながる成果だ。
動脈硬化での血管内皮細胞の炎症反応の誘導は、遺伝子不活化に関連する抑制系ヒストン修飾の脱メチル化というメカニズムを介して起こることが示された。
動脈硬化の新しい治療法の開発や、心血管疾患の予後改善につながる成果だ。
血管炎症をターゲットとした新しい治療法の開発へ
研究は、東京医科歯科大学難治疾患研究所の東島佳毅研究員、東京大学アイソトープ総合センターの神吉康晴助教らが、東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科、カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームらと共同で行ったもの。研究成果は、「The EMBO Journal」オンライン版に掲載された。 日本人の死因の2位の心疾患と4位の脳血管疾患を合わせた心血管疾患は、1位のがんに匹敵する。また国民医療費でも、心血管疾患を含む循環器疾患は1位を占め、要介護認定の原疾患の2位を占める。心血管疾患は医療経済的で重要な分野となっている。 心血管疾患の原因として、高血圧や脂質異常症、糖尿病に起因する血管内皮細胞の慢性炎症および動脈硬化が重要だ。これまで心血管疾患の治療は、血圧および脂質値効果、血糖降下に焦点を当てて行われており、とくに脳血管疾患では降圧剤による血圧コントロールの徹底により顕著な死亡率の低下を得られる。 一方で、近年は高血圧の治療率の向上にもかかわらず、一貫して心疾患による死亡率が増加している。最近の大規模臨床研究において、血管炎症の抑制が、血圧および高脂血症の改善とは独立したメカニズムで、心血管疾患を抑制することが報告されている。血管炎症をターゲットとした新しい予防および治療法の確立が期待されている。エピジェネティックな抑制機構の破綻が炎症性遺伝子の活性化に関与
ヒストン修飾などのDNA塩基配列の変化をともなわずに遺伝子の機能および発現を調節する機構「エピジェネティクス」の異常が、さまざまな疾患において発症や進展に重要であることが分かってきた。 動脈硬化の発症で重要な炎症性遺伝子は、正常な血管内皮細胞ではほぼ完全に発現が抑制されている。そこで研究グループは、動脈硬化においてエピジェネティックな抑制機構の破綻が、血管内皮細胞における炎症性遺伝子の活性化に関与していると考え検討を行った。 まず、ヒト血管内皮細胞に炎症性サイトカインを作用させ、ヒストン修飾状態をクロマチン免疫沈降および次世代シーケンサー(ChIP-seq)により網羅的に解析したところ、動脈硬化に重要な多数の炎症性遺伝子座において、抑制系ヒストン修飾であるH3K9me2およびH3K27me3が刺激後に速やかに脱メチル化されることが明らかとなった。 遺伝子スクリーニングにより、これら抑制系ヒストン修飾の脱メチル化にLysine demethylase 7A(KDM7A)および6A(UTX)がそれぞれ関与することが判明した。 より詳しく検討したところ、KDM7AおよびUTXが結合するゲノム領域は、「スーパーエンハンサー」と呼ばれる強いエンハンサーと相関していることが明らかになった。 エンハンサーは、遺伝子の転写量を増加させる作用を有するDNA領域のことで、これが強く広範に濃縮した領域であるスーパーエンハンサーは、細胞の運命決定に重要な役割を果たす可能性が示唆されている。 さらに、染色体構造解析によって、こうしたスーパーエンハンサーの相互作用が炎症性遺伝子の転写活性化に重要であることが明らかになった。 加えて、マウスモデルでKDM7AおよびUTXの阻害剤投与が動脈硬化初期病巣で頻繁に認められる血管内皮細胞への白血球接着を抑制することが確かめられた。血管炎症はがんやアルツハイマー病などにも関与する
これらより、血管内皮細胞における炎症性遺伝子の発現誘導にKDM7AおよびUTXによる抑制系ヒストンの脱メチル化が重要である可能性が示された。 今回の研究により、動脈硬化発症の新しいメカニズムとして、血管内皮細胞における炎症性遺伝子のエピジェネティックな抑制機構の破綻が明らかになった。 このメカニズムを標的とした動脈硬化の新しい治療法を開発できる可能性がある。血管炎症は心血管疾患だけでなく、がんやアルツハイマー病などさまざまな生活習慣病の発症進展に関与しており、「今後は血管内皮細胞におけるエピジェネティックな制御機構の破綻の他の病態モデルにおける関与を探索し、さら経路をターゲットとした治療法の開発に取り組む」と、研究グループは述べている。 東京医科歯科大学難治疾患研究所東京大学アイソトープ総合センター
Coordinated demethylation of H3K9 and H3K27 is required for rapid inflammatory responses of endothelial cells(The EMBO Journal 2020年3月3日)
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]