抗菌薬・抗生物質が効かない「薬剤耐性菌(AMR)」 年間8,000人超が死亡 対策は進んでいる
2019.12.25
抗菌薬・抗生物質が効かない「薬剤耐性菌(AMR)」によって国内で年間8,000人以上が死亡しているとの推計結果を、国立国際医療研究センターAMR臨床リファレンスセンターが発表した。
抗菌薬の適正使用が呼びかけられているが、抗菌薬の不要なことが多い風邪などの患者に抗菌薬を処方するケースはまだ多いという。「市民向けの教育啓発が必要」と専門家は指摘している。
抗菌薬の適正使用が呼びかけられているが、抗菌薬の不要なことが多い風邪などの患者に抗菌薬を処方するケースはまだ多いという。「市民向けの教育啓発が必要」と専門家は指摘している。
AMR対策は待ったなし 社会全体に大きな影響が
細菌が変化して抗菌薬・抗生物質が効かなくなる「薬剤耐性(AMR)」は世界的な課題となっている。 抗菌薬の投与は細菌による感染症の治療で基本となるが、細菌が遺伝子を変えるなどして、薬に耐える耐性菌となるおそれがある。抗菌薬を使えば使うほど耐性菌は増える。この問題にどう取り組むかは世界の医療・保健分野での重要課題になっている。 国連は2019年に、薬剤耐性菌が世界的に増加し危機的状況にあるとして、各国に抗菌薬の適正使用などの対策を求めている。日本が議長国となった同年のG20首脳会合や保健大臣会合でも、AMRが主要議題として取り上げられた。 AMRに関連し、米国で年間3.5万人以上、欧州で年間3.3万人がそれぞれ死亡していると推定されている。世界全体では、2050年にはAMRの関連死は年間1,000万人に達する可能性があるとされている。耐性菌が原因で日本では年間に8,100人超が死亡
耐性菌は免疫力が落ちている人や高齢者が感染すると重症化しやすい。日本でも全国の医療現場で院内感染を含めて耐性菌による死亡が増加するなど深刻な影響が出ているが、日本における死亡数はこれまで明らかになっていなかった。 そこで国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンターなどの研究グループは、代表的な耐性菌であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)とフルオロキノロン耐性大腸菌(FQREC)の2種を対象に調査した。 菌血症は耐性菌による死亡の主要原因と考えられている。研究グループは、全国の協力医療機関から情報が集まる「厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)」のデータから、全国の菌血症症例数を算出し、過去の研究にもとづいた死亡率と合わせて菌血症による死亡数を推定した。 その結果、MRSAが原因とみられる2017年の推定死者数は4,224人(95%信頼区間:2,769-5,994)で、2011年から減少傾向がみられた。その一方でFQRECは3,915人(95%信頼区間:3,629-4,189)で右肩上がりに増えていた。 2種の合計は8,100人を超えており、日本でもAMRが大きな被害を及ぼしていることが明らかとなった。この2種以外の耐性菌による死亡も含めると死亡者数はさらに増える見込みだ。 「今回の研究結果で示されたように、AMRによってすでに大きな影響が生じています。その対策は待ったなしの状況です。現状を正しく認識し、社会全体で取り組んでいく必要があります」と、同センターでは強調している。抗菌薬・抗生物質の適正使用がAMR対策の大きな柱
抗菌薬(抗生物質)は、細菌を壊したり、増えるのを抑えたりする薬だが、風邪(感冒)の原因となるウイルスは、大きさや仕組みが細菌と異なるので、抗菌薬は効かない。 しかし、風邪で医療機関を受診して、抗菌薬を要求する患者はいまだに多く、処方してしまう医者も少なくない現状がある。 抗菌薬・抗生物質の適正使用はAMR対策の大きな柱となる。しかし、2009年に発表された報告によると、抗菌薬の不要なことが多い「急性気道感染症」(感冒、急性咽頭炎、急性副鼻腔炎、急性気管支炎など)で外来を受診した患者の約6割に抗菌薬が処方されていた。 急性気道感染症は、一般に風邪症状とされる咳嗽(がいそう)、鼻汁、咽頭痛などをきたす疾患で、一部の細菌性あるいは重症例を除いて、抗菌薬を使用する必要はないとされている。抗菌薬処方は減少しているが不要な処方がまだ多い
その後の変化を調べAMR対策につなげるため、同センターは2012年4月~2017年6月に外来受診した急性気道感染症受診例(約1,720万件)の抗菌薬処方状況を解析した。 その結果、急性気道感染症に対して抗菌薬が処方されていたのは100受診あたり31.65件であることが明らかになった。抗菌薬処方は減少してきているが、まだ受診例の30%を超える抗菌薬の処方があり、そのうちの相当数は抗菌薬が不要なものと考えられる。 処方された抗菌薬は、第3世代セファロスポリン系(40.1%)、マクロライド系(34.1%)、フルオロキノロン系(14.4%)と広域抗菌薬が多くを占めており、これは政府が策定した「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2016-2020」で使用量を50%減らすことを目標しているものだ。 年齢層別にみると、高齢者よりも青壮年で抗菌薬の処方される割合が高くなっていた(13~18歳 41.19件、19~29歳 43.26件、30~39歳 42.47件、40~49歳 40.43件、60歳以上 31.11件)。 「引き続き抗菌薬の適正使用の取り組みを進めていく必要があります。なかでも10歳代から40歳代への処方割合が高く、成人を診察する医師への啓発強化や、この世代を意識した一般市民向けの教育啓発が必要です」と、研究グループは述べている。AMR臨床リファレンスセンター(国立国際医療研究センター)
National trend of blood-stream infection attributable deaths caused by Staphylococcus aureus and Escherichia coli in Japan(Journal of Infection and Chemotherapy 2019年12月1日)
Longitudinal trends of and factors associated with inappropriate antibiotic prescribing for non-bacterial acute respiratory tract infection in Japan: A retrospective claims database study, 2012-2017(PLoS One 2019年10月16日)
薬剤耐性ワンヘルス動向調査検討会(厚生労働省)
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]