体重をわずか3%減らすだけで肥満症を改善 肥満解消のための実践的取組み 【日本肥満症予防協会セミナー・レポート】

2019.10.24
 一般社団法人 日本肥満症予防協会(理事長:松澤佑次)は10月2日に東京で特別セミナー「肥満解消のためのコメディカル教育セミナー」を開催した。

一般社団法人 日本肥満症予防協会 特別セミナー
「肥満解消のためのコメディカル教育セミナー」
[日程] 2019年10月2日(水) [会場] ベルサール九段(東京)
[主催] 一般社団法人 日本肥満症予防協会
[特別協賛] 大正製薬 株式会社

 日本肥満症予防協会は、肥満症の認知および解消方法を社会に普及させることを目的に、2015年1月に設立された。肥満症予防の啓蒙に関する事業や、医師やコメディカルなどの医療従事者や一般生活者に向け、肥満症の予防と治療に関する情報を提供するなど、活発に活動している。

 2008年に特定健診・特定保健指導制度が始まって10年以上が経過した。特別セミナーでは第一線で活躍する専門家が登壇し、肥満症についての最新の知識と、肥満症における実践的な治療と栄養管理について講演した。

● 基調講演「"肥満症"のリスクとその対策」
演者:宮崎 滋 先生(一般社団法人 日本肥満症予防協会 副理事長 公益財団法人 結核予防会 総合健診推進センター 所長)

 「肥満症」は、肥満と判定され(BMIが25以上)、かつ肥満による健康への悪影響があらわれている状態で、多くで「内臓脂肪型肥満」がみられる。
注:BMI 体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で計算される体格指数で、日本人では25以上を「肥満」と判定する。

 腹筋の内側で腸などの周りにつくのが内臓脂肪。内臓脂肪が多くたまる内臓脂肪型肥満になると、お腹(へそ周り)がぽっこりと出た体型になる。内臓脂肪はさまざまな病気につながりやすい。

 肥満による健康への悪影響とは、2型糖尿病やその予備群、脂質異常症、高尿酸血症と痛風、狭心症・心筋梗塞、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、脳梗塞、月経異常・不妊、慢性腎臓病(CKD)、睡眠時無呼吸症候群、ひざ・股関節・背骨・手指などの関節の障害などだ。

 医療機関で肥満症と診断されると、減量指導や肥満にともなう病気の治療が行われる。肥満症は多くの疾患を合併するが、減量すると内臓脂肪が減り、合併する疾患が一斉に改善することが多い。

肥満症についての詳しい解説は日本肥満症予防協会ホームページをご覧ください

まずは3%の減量を
肥満に関連する検査値が一斉に改善

 健康的に減量するためにすすめられるのが、まずは3~6ヵ月かけて現在の体重を3%減らす「3%ダイエット」だ。たとえば体重80kgの人では、体重の3%は約2.4kg。わずかな減量で達成可能な目標であり、その効果は大きい。

 「肥満症」と判定され特定保健指導(積極的支援)をうけた約3,500人を対象とした研究では、対象者を体重減少率により1%ごとに分類し、血圧、脂質、血糖といった検査値の変化をみた。

 その結果、体重減少率が大きくなればなるほど明らかな改善がみられ、3%以上減量した人で11の検査項目(収縮期血圧、拡張期血圧、中性脂肪、悪玉のHDLコレステロール、善玉のLDLコレステロール、空腹時血糖値、HbA1c、尿酸値、AST、ALT、γ-GTP)で改善がみられた。

 これらの値は内臓脂肪がたまると上がりやすいが、内臓脂肪は「たまりやすいが、減りやすい」ため、少しの減量でも内臓脂肪が減って数値が改善すると考えられている。

 体重が少し減らしただけで、血圧や血糖、コレステロール、中性脂肪などの数値が改善することが多い。実際に数値が改善していれば、それが励みになり食事療法を続けやすくなる。

● 教育講演I「肥満解消に向けての実践的取組」
演者:伊藤 薫 先生(千葉大学医学部附属病院 臨床栄養部 管理栄養士(糖尿病・脂質異常症・肥満症・循環器疾患分野))

 千葉大学医学部附属病院臨床栄養部では、患者の生活スタイルに合わせた食事療法の提案を行っている。糖尿病・高血圧・脂質異常症・肥満・心疾患などの治療を継続しながら、健康的な食事を継続できるよう、実践的な支援をしている。

 肥満解消に向けての取組みの基本は食事だが、しかし仕事などの付き合いがあり、外食や中食の利用が避けられないとった人は多い。また職種によって、あるいは精神疾患がある場合などに、食事改善の継続は、生活リズムの乱れにより容易ではない。

 また、間食の摂り方もポイントとなる。間食の習慣をなくすのは難しく、好きなものを好きなだけ食べたり飲んだりして、必要なエネルギーをオーバーし、体重の増加につながる人は多い。

 食事指導では、個々の病態の違いや年齢を考慮しながら、生活習慣や食の嗜好性に応じた柔軟な対応をすることが必要。患者の理解度を評価しつつ、患者の意向を受け入れ、実効性の高い柔軟な対応をすることが望まれる。

 そのために「現在の達成状況について聞き、良い部分を褒める」「目標を達成できなかった理由をしっかりと聞く」「相手を否定しない」とったことが重要となる。

 職業や年齢に合わせた言葉使いを心がけ、食事改善を継続してもらえるよう、指導者に対し親しみをもってもらうことも大切。栄養指導をしていて、患者の抱える悩みにより目標を達成できない場合など、状況を聞きとる過程で人生相談のようになってしまうこともあるという。

● 教育講演II「事例で紐解く"効果を引き出す減量対策"!」
演者:佐野喜子 先生(神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部 栄養学科 教授)

 栄養指導で対象者を行動改善に導くために、まず「なぜ食事改善をしなくてならないのか」を理解してもらい、納得してもらうことが重要。そのためにエビデンスを示しながら、対象者にきちんとリスクを提示することが大切だ。

 内臓脂肪が過剰に蓄積され、健康障害のリスクが増加している状態の「肥満症」であるとはっきり伝え、減量と医学的な治療が求められることを理解してもらう必要がある。ここが解決されていない段階では、目標の設定や行動改善を促すのは難しくなる。

 人の行動変容には「無関心期」「関心期」「準備期」「実行期」「維持期」のステージがある。必要は感じているが行動に反映できない「関心期」の人や、行動変容を成果に結びつけられるかを不安に感じている「準備期」の人には、具体的に頑張っているところや、良いところを見つけて、本人に伝えてあげることが必要となる。

 たとえば、毎日のように残業しており、夕方は菓子パンを食べて、夕食でドカ食いをする習慣がある人では、その人の個性や生活状況はもちろん、ステージがどこにあるかで、説明の仕方や行動変容へ導くアプローチ方法は変わってくる。

 これまでに増加した体重を実感してもらうために、身近なものに置き換えて説明することも効果的。たとえば、10㎏増量した人には「コピー用紙1箱(A4/500枚5冊)」、20kg増量した人なら「350mL缶ビールを2ケース」というように、イメージしやすいものを例示する。

 たとえば、お酒を飲み過ぎた翌日に「いつもよりビールを減らす」と言う患者に対しては、減らす量が十分でないといった場合にも、「減らす」という行動を認めて声がけをする。その上で次のステップで効果を出すことを目指す。「ステージの見極めは重要です」と、佐野氏は言う。

 また、管理栄養士はアルコール量を"純アルコール量(g)"で考えがちだが、一般の人は"容量(mL、合、杯)"をイメージする。アルコールの摂取量とエネルギー量を把握し、アルコールを含めた食事全体で調整することが必要となる。

「ダイエットサポートツール」を活用

 摂取エネルギー調整を無理なく継続してもらうために、「ダイエットサポートツール」を活用するのも効果的だ。たとえば、夕食までに食べ過ぎを抑え空腹感をまぎらわせるために、夕方17時に「コバラサポート」を活用する方法がある。

 「コバラサポート」は、食物繊維のペクチンが空腹時に胃液と反応して、胃の中でゼリー状になる炭酸飲料。炭酸の泡を含んだゼリーがおなかの中でふくらみ空腹感を軽減する。

 「コバラサポートを飲み、職場からの帰りに、夕食に何を食べようかという考えから逃れることができました。こうしたダイエットサポートツールについても、栄養指導で生活に即した活用法を指導時に提案することで、対象者の改善行動を継続する自信が高まります」。

質疑応答
「夜食症候群」と「睡眠時無呼吸症候群」

 質疑応答では宮崎先生が「夜食症候群」と「睡眠時無呼吸症候群」について解説。

 「夜食症候群」は、夕食後も食べたい欲求が収まらない摂食障害と考えられている。1日の摂取エネルギーの25~50%以上を夜間に摂ってしまう病気で、放っておくと肥満や2型糖尿病などにつながりかねない状態だ。夜遅く食べてはいけないことは当人も分かっていて後悔するが、それが病気だと気付かないことも多い。

 睡眠状態のまま動き回り、冷蔵庫の中にある食品を食べても、後になって憶えていない「睡眠時遊行症」の場合もある。こうした症状に気付いたら、精神科や診療内科の受診を勧め、治療が必要な病気であることを説明する。

 また、「睡眠時無呼吸症候群」は、夜間の睡眠中に無呼吸と低呼吸を繰り返す病気。空気の通り道である上気道が狭くなることが原因だ。深い眠りが得られず、夜中に何度も目が覚める、熟眠感がない、昼間の眠気や頭痛、倦怠感、集中力の低下などの症状がみられる。

 「睡眠時無呼吸症候群」を放置していると、肥満や2型糖尿病、高血圧、脳卒中、心筋梗塞などを引き起こす危険性が上昇する。肥満者では減量することで無呼吸の程度が軽減することも多い。

 「夜食症候群」や「睡眠時無呼吸症候群」を放置しないで、医師による適切な治療を受けることが重要だ。

内臓脂肪測定会も開催

 同日、希望者を対象に無料の「内臓脂肪測定会」も開催された。

 パナソニックの「内臓脂肪計」は、腹部にベルトを巻き、手軽に内臓脂肪面積を測定できるデバイス。立位で素早く測定でき、要する時間は脱衣から着衣まで1人2~5分程度だ。腹部生体インピーダンス法による測定で、CTで計測した内臓脂肪面積と高い相関を示している。

 内臓脂肪面積を実際に数値で見せることで、保健指導の効果の向上を期待できる。

一般社団法人 日本肥満症予防協会
肥満症の予防・改善や、内臓脂肪を減らすることで健康増進をはかるために、広く実践活動を展開しています。
http://himan.jp/

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