肝臓のインスリン感受性を制御する脂質を発見 肝臓のインスリン作用にセラミドの脂肪酸鎖長が関与
2019.10.18
筑波大学は、肝臓のインスリン感受性の制御に、Elovl6を介したセラミドの脂肪酸鎖長の制御が関与していることを発見し、肝臓でElovl6を阻害することで、インスリン作用を阻害する脂質の蓄積を抑制し、脂肪肝においてインスリン感受性が増し、インスリン抵抗性になりにくくすることを明らかにした。
インスリン感受性を減弱させる脂質を解明
炭水化物の過剰摂取や脂肪肝では肝臓における脂肪酸の合成系が活性化し、インスリン作用が阻害されることが知られているが、インスリン感受性を減弱させる脂質やその脂質が有する脂肪酸の種類や組成の意義は十分に解明されていない。 研究グループは、パルミチン酸(炭素数16)からステアリン酸(炭素数18)への伸長を触媒する酵素Elovl6の肝臓における役割に着目し、肝臓で特異的にElovl6を欠損させたマウスでは、ステアリン酸を有するセラミドが減少し、インスリン感受性が亢進することを明らかにした。 肝臓におけるElovl6の阻害やセラミドの脂肪酸の質の管理が、脂肪肝や糖尿病に対する治療の標的として有用だと考えられる。 研究は、同大医学医療系の島野仁教授、松坂賢教授、高橋智教授、滋賀医科大学動物生命科学研究センターの依馬正次教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Hepatology」にAccepted Article versionとして公開された。肝臓での「Elovl6」の活性が脂肪肝にともなうインスリン感受性の制御に重要
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、メタボリックシンドロームの肝の表現型として知られている。NAFLDがあるとインスリン抵抗性や2型糖尿病のリスクが高まるが、その発症メカニズムは完全には解明されていない。 研究グループはこれまで、Elovl6を欠損させたマウスでは脂肪酸の組成が変化し、肥満や脂肪肝のままでもインスリン抵抗性が発症しにくいことを示してきたが、Elovl6を介して作られインスリン抵抗性を惹起する脂質の解明はできていなかった。 今回の研究ではまず、Elovl6を肝臓で特異的に欠損させたマウス(肝臓特異的Elovl6欠損マウス)を作製。このマウスに高炭水化物を摂食させたり、肥満や脂肪肝を発症するモデルマウス(ob/obマウス)と交配させたりすると、インスリン感受性が亢進すると判明した。 肝臓特異的Elovl6欠損マウスで、網羅的に肝臓の遺伝子発現を解析すると、このインスリン感受性の亢進には、脂肪滴膜上に局在する中性脂肪の加水分解酵素「Pnpla3」の発現低下も寄与していることが分かった。 次に、Pnpla3の量を変化させた肝臓特異的Elovl6欠損マウスで、網羅的に肝臓の脂質を分析すると、脂質は減少しており、インスリン感受性と負の相関を示す脂質分子種として、炭素数18のステアリン酸(C18:0)を有するセラミド(C18:0-セラミド)が特定された。 セラミドはプロテインホスファターゼ2A(PP2A)と呼ばれる、脱リン酸化酵素を活性化してインスリン作用を阻害することが知られていたが、ヒト肝がん由来の細胞株を用いた解析から、C18:0-セラミドが「I2PP2A」(Inhibitor 2 of PP2A)と呼ばれる内因性のPP2A阻害因子に結合し、I2PP2AをPP2Aから解離させることで、PP2Aを活性化させ、インスリン感受性を低下させるメカニズムが明らかとなった。 今回の研究により、肝臓でのElovl6の発現や活性の変化が、過栄養や脂肪肝にともなうインスリン感受性の制御に重要であることが示唆された。今後、肝臓でのElovl6の阻害やセラミドの脂肪酸の質の管理による、脂肪肝や糖尿病の新しい予防法・治療法の開発が期待される。 筑波大学医学医療系滋賀医科大学動物生命科学研究センター
Hepatocyte Elovl6 determines ceramide acyl-chain length and hepatic insulin sensitivity in mice(Hepatology 2019年9月17日)
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]