腎疾患における糸球体障害の形態変化の過程を明らかに 糸球体疾患の病理診断に「FIB/SEM」は有用

2019.01.31
 順天堂大学の研究グループは、複雑な突起構造をもつ「糸球体足細胞(ポドサイト)」が腎疾患の際に突起構造を消失させる現象「突起消失」の全過程を明らかにした。
 糸球体足細胞の高精細な立体再構築像の作製に成功し、突起消失の過程に2つの形態変化の様式があることを発見。突起消失はざまざまな糸球体疾患に共通してみられ、糸球体疾患の診断指標として利用されている。

糸球体疾患の病理診断における「FIB/SEM」の有用性を実証

 研究は、順天堂大学大学院医学研究科解剖学・生体構造科学の市村浩一郎准教授、坂井建雄教授らの研究グループによるもので、詳細は米国腎臓学会(ASN)の学術誌「Journal of the American Society of Nephrology (JASN)」に掲載された。

 研究グループは今回の研究で、「FIB/SEM」で撮影した糸球体足細胞の連続断面像から、高精細な3D解析を行った。従来見えなかった裏面からの観察を可能にした。

 「FIB/SEM」は、標本の切削と撮影を自動で行い、細胞の断面像を連続して得ることができる集束イオンビーム(FIB)走査型電子顕微鏡(SEM)。連続断面像から特定の構造を抽出して立体的な再構築像を作製できる。

 腎臓の糸球体にある糸球体足細胞は複雑な突起構造をもつが、腎疾患になるとこれが失われ、扁平な形状に変化する。この足細胞の突起消失は糸球体疾患の診断指標として利用されているが、突起がどのように消失するのかは分かっていなかった。

 一方で、「FIB/SEM」で撮影した連続断面像を重ね合わせることで、高精細な立体構築像を任意に再現することができるようになってきた。そこで研究グループは、足細胞の突起消失過程を明らかにするために、ヒトの微小変化型ネフローゼ症候群のモデル動物であるピューロマイシン腎症ラットの足細胞をFIB/SEMで解析した。
 次に、FIB/SEMと立体再構築技術を用いて、ピューロマイシン腎症ラットにおいて、足細胞の再構築像をうら面から観察したところ、突起の消失過程には少なくとも2つの様式があることが判明した。

 1型過程は突起の太さが不均一になりつつ短くなっていく様式で、足細胞の全体に広く認められる。一方、2型過程は突起が全長にわたって均一に細くなりつつ短縮していく。このことは、突起の芯を形成するアクチン細胞骨格の変性過程に2つの様式があることを示している。

 さらに、突起消失にともない、足細胞にこれまで知られていなかった現象(自己細胞間結合や断片化)が生じることが分かった。足細胞は通常、隣の細胞と結合しているが、病態時に自己の突起同士で結合を生じることがある。疾患の際に一端形成された自己細胞間結合が疾患からの回復時に足細胞の正常構造への回復を妨げている可能性があるという。
 今回の研究では、「FIB/SEM」を活用することで、従来の電子顕微鏡では分からなかった足細胞の突起消失過程を詳細に明らかにした。このアプローチはヒトの糸球体疾患の病理診断にも有用だという。ヒトの糸球体疾患においても病理解析にFIB/SEMと立体再構築法を応用することで、従来よりも詳細な病態の評価を行うことが可能になる。

 研究グループは今後、足細胞のアクチン細胞骨格の変性に関与すると予想されるいくつかのアクチン結合タンパク質の動態を検討し、突起消失の分子メカニズムを明らかにしたいとしている。

順天堂大学大学院医学研究科解剖学・生体構造科学
Morphological processes of foot process effacement in puromycin aminonucleoside nephrosis revealed by FIB/SEM tomography(Journal of the American Society of Nephrology 2019年1月)

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