心のそこにあるモチベーション 連載「インスリンとの歩き方」
1型糖尿病患者の遠藤伸司さんによる連載「インスリンとの歩き方」では、第27回「心のそこにあるモチベーション」を公開しました。連載「インスリンとの歩き方」へ ▶
執筆者の遠藤さんは、中学生の頃に1型糖尿病を発症。以来、約30年間の療養生活の中で、留学や進学、就職、そして転職、プライベートまで幅広い経験を積み、なにかと無理をすることもあったようです。
連載では、そんな遠藤さんの半生を、糖尿病と上手につきあうためのコツやノウハウを中心に、実体験のエピソードを交えて語っていただきます。1型糖尿病患者さんをはじめ、2型糖尿病患者さん、糖尿病医療に携わる方々は、ぜひご一読ください。
第27回 心のそこにあるモチベーション(本文より)
入社6年目の9月、僕は夢にまで見た優秀社員のバッチを、ついに手に入れることができた。2002と書かれた金のバッチと社員証をスーツのフラワーホールに通すと、バッチは輝き、誰からも注目されているという自負心を満たしてくれた。
しかし、ゆっくりと勝利を噛みしめている時間はなかった。僕には更なる試練が待ち構えていた。もっと難しい、もう一つの目標があった。それは僕が販売しているドイツの自動車メーカーの賞であり、その年の1月から12月までの販売台数を競うものだった。
僕は、心の底では、ずっーと、こういった賞にこだわっていた気がする。
もちろん自動車の営業をしていれば、誰もが憧れる優秀社員賞であり、世界的に有名な自動車メーカーの賞ではある。メーカーの賞を取れば、FIFAワールドカップに匹敵するほどの素晴らしいトロフィーが授与され、車を生産しているドイツへの招待旅行もある。インセンティブと呼ばれる報奨金もかなりの額にのぼる。しかし、そのようなお金や報奨旅行が目当てで賞が欲しいのか・・・。
僕は、ひとり、自問自答する。
お金がもらえるのは有難い。
ドイツに行って自分が売っている車の生産工場も見てみたい。
けれど、それは、ほんの少しモチベーションを上げてくれるだけだ。
僕はそんなことのために、賞を取りたいわけではないのだ。
まるで運動会で、なぜ一着を取りたいかを、分析するかのように、僕は煩悶を続ける。
では一体、何のために、この試練に耐えるのだ?
決して、トロフィーや旅行やお金のためなんかじゃない。
この賞をくれるというなら、只働きでもいいくらいだった。