糖尿病性腎臓病の進展に関わる新たなメカニズムを明らかに 内因性のフルクトースの過剰な代謝を抑制

2018.05.02
 名古屋大学は、日本における透析導入原因で第1位の原疾患である糖尿病性腎臓病の進展における新しいメカニズムを解明した。糖尿病には多くの治療薬があるが、腎障害の進行を完全に抑えることは難しく、糖尿病性腎臓病の病態の解明、新たな治療薬の開発が望まれている。

フルクトース代謝と糖尿病性腎臓病には相関関係がある

 この研究は、名古屋大学大学院医学系研究科腎臓内科学の道家智仁客員研究員、同大学医学部附属病院腎臓内科の石本卓嗣助教、同大学医学系研究科分子生物学の門松健治教授、腎臓内科学の丸山彰一教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Metabolism」に掲載された。

 20世紀以降、先進国を中心に砂糖の摂取量が増加し、果糖ブドウ糖液が開発されて以降、清涼飲料水・加工食品に広く使用されるようになった。それらに多量に含まれる果糖(フルクトース)の摂取量も飛躍的に増加している。フルクトースの摂取と、肥満・糖尿病・高血圧・脂肪肝などの代謝性疾患の発症には、相関関係があることが知られている。

 また、フルクトースは食事由来(外因性)のみならず、糖尿病においてはポリオール経路を介して体内にて(内因性に)産生される。研究グループはこれまでに、外因性および内因性のフルクトースの過剰な代謝を抑制することで、メタボリックシンドロームや糖尿病性腎臓病が改善することを報告してきた。

過剰なフルクトース代謝がATPの枯渇、炎症、酸化ストレスを引き起こす

 フルクトースは主にフルクトース代謝酵素であるケトヘキソキナーゼ(KHK)で代謝され、KHKには「KHK-C」と「KHK-A」の2種類があり、ともに腎臓では近位尿細管のみにある。

 KHK-Cは腎臓・肝臓・小腸などの限られた臓器にのみにあり、フルクトースの代謝能力が高い一方で、KHK-Aは腎臓を含め幅広い臓器に分布し、フルクトースの代謝能力が低い。

 研究グループはこれまでに、過剰なフルクトース代謝が重要なエネルギーの単位であるATPの枯渇、核酸分解、尿酸産生、炎症、酸化ストレスを引き起こし、フルクトースを代謝することができないマウス(KHK-A/C 両欠損マウス)では肥満・脂肪肝・高インスリン血症および糖尿病性腎臓病が改善することを報告してきた。

 一方で、野生型マウスと比較してKHK-A単独が欠損したマウスでは、フルクトース摂取により、誘導される肥満・脂肪肝がより悪化することを報告しており、KHK-AおよびKHK-Cが異なった役割を担っていることが示唆されていた。

糖尿病性腎臓病ではKHK-CとKHK-Aが相反する役割をしている

 研究グループは今回の研究で、糖尿病性腎臓病におけるKHK-AおよびKHK-Cそれぞれの役割を解析。その結果、KHK-Cによるフルクトース代謝は、酸化ストレス・核酸分解を介して尿細管障害を引き起こすことが分かり、KHK-Cによるフルクトース代謝が糖尿病性腎臓病の増悪の一因であることが判明した。

 一方で、KHK-Aの欠損は腎臓でのさらなるフルクトース代謝の亢進・炎症の増悪・低酸素を誘導し、より重度の尿細管障害・腎機能障害を引き起こすことから、糖尿病性腎臓病においてKHK-Aは保護的な役割を持つことが新たに解明された。また、これらはKHK-Aがフルクトース代謝酵素以外の機能を持つことに由来することも判明した。

 ケトヘキソキナーゼ(KHK)によるフルクトース代謝は肥満・高血圧・脂肪肝・インスリン抵抗性などのメタボリックシンドロームや糖尿病性腎臓病の進展に関わっている。今回の研究により、肥満・脂肪肝・インスリン抵抗性に加え、糖尿病性腎臓病においてKHK-Cによるフルクトース代謝が増悪因子として考えられ、KHK-Aには保護的な役割があることが明らかになった。

 今後の研究で、選択的なKHK-C阻害薬を開発すれば、糖尿病性腎臓病の進展抑制を期待できるのに加え、メタボリックシンドロームの新規治療法に結びつくことが期待されると、研究グループは述べている。
名古屋大学大学院医学系研究科腎臓内科学
Lacking Ketohexokinase-A Exacerbates Renal Injury in Streptozotocin-induced Diabetic Mice(Metabolism. 2018年3月28日)

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