有効なインスリンを細胞内で正確に作るタンパク質群誘導の新たな機構を解明 糖尿病創薬へ期待

2018.03.26
 奈良先端科学技術大学院の研究グループは、インスリンを体内で合成する際に、分子の正しい立体構造を効率よく整える新たな仕組みを明らかにした。

S−S結合形成がインスリン形成に必須

 研究は、奈良先端科学技術大学院大学研究推進機構河野特任プロジェクトの河野憲二特任教授と土屋雄一研究員、京都薬科大学の斉藤美知子准教授らの研究グループによるもので、科学誌「Journal of Cell Biology」に発表された。

 インスリンは、血糖値を下げる作用を持つ唯一のホルモンであり、膵臓のランゲルハンス島(膵島)にあるβ細胞でのみ合成される。その分泌量や作用の低下は高血糖をもたらし糖尿病を引き起こす。

 インスリンは声明に必須のホルモンであり、合成や分泌の機構に関してはこれまで精力的に解析されてきているが、インスリンを折りたたむ過程に必要な条件については未解明な点が多かった。

 インスリンは膵島β細胞の「小胞体」で、86個のアミノ酸がつらなったインスリンの前駆体であるプロインスリンとして合成され、正確に折りたたまれ正しい立体構造をもつ。

 この立体構造形成にはシステインと呼ばれるアミノ酸間の結合形成(S-S結合)が重要な働きをし、その反応は「PDI」(プロテインジスルフィドイソメラーゼ)と呼ばれる酵素ファミリーに属する分子により形成される。

 プロインスリンは分子内に3つのS−S結合をもつことが知られており、正しいS−S結合形成が最終的なインスリン形成のために必須だ。

PDIファミリー分子が不足するとインスリン産生量が激減

 今回、研究グループはインスリンの産生と分泌を担う膵島β細胞で、分泌タンパク質の品質管理をになう"親方"の役目をしているIRE1α(アイアールイーワンアルファ)という小胞体タンパク質が、生理的条件下で恒常的に活性化していることを発見した。

 IRE1αはインスリンの前駆体を折りたたむステップに大きく貢献しているという。

 通常この"親方"は、細胞に緊急事態(小胞体ストレス)が生じない限りは働くことはない。研究グループがIRE1α制御下の因子を調べたところ、5人の"職人達"(PDIファミリー分子)が特定された。

 その5つのPDIファミリー分子とは、PDI、PDIR、P5、ERp44、ERp46。IRE1αが働かないと、これら5つの分子が不足しプロインスリンのS-S結合形成が正常に進まず、結果としてインスリン産生量が激減する。

 これらを常に誘導発現することで、プロインスリンの正しい立体構造形成能力を維持している。この経路に欠陥が生じるとインスリン分泌が低下し糖尿病を発症することを明らかにした。

糖尿病創薬へ期待

 研究グループは、膵島β細胞では非常に高いレベルでIRE1αが恒常的に活性化していることを発見した。ヒトの糖尿病でもIRE1経路(ストレス応答経路のひとつ)の活性低下が報告されている。

 研究グループは、マウスを哺乳動物のモデル生物として用い、膵島β細胞特異的にIRE1α遺伝子を欠損させた際に示す表現型を解析した。次にそのマウスから膵臓β細胞のモデル細胞株を作製し、さらに詳しい解析を行った。

 この生理的意義を明らかにするために、膵島β細胞特異的にIRE1αを欠損する遺伝子ノックアウトマウスを作製したところ、この遺伝子欠損マウスは、生後4週齢あたりからインスリンの生産及び分泌量の低下が原因で糖尿病を発症することが判明した。

 インスリン生産低下の原因を詳しく調べたところ、プロインスリン(インスリン前駆体)の合成ではなく、折りたたみのステップ効率が顕著に落ちていることが分かった。

 逆に、これら5つの酵素を膵島β細胞に過剰発現すると、インスリン産生が上がることも確認した。

 以上のことから、膵島β細胞ではIRE1α経路の恒常的な活性化が重要であり、これによりプロインスリンの折りたたみが正常に進み、成熟したインスリンが正常に産生されることが明らかになった。

 「IRE1α経路の活性化を自由に制御できる低分子の開発は、糖尿病治療薬の開発につながる可能性がある」と、研究グループは述べている。

奈良先端科学技術大学院大学 研究推進機構 河野特任プロジェクト研究室
IRE1-XBP1 pathway regulates oxidative proinsulin folding in pancreatic β cells(Journal of Cell Biology 2018年3月5日)

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