【新シリーズ】「"血糖トレンド"をどう活用するか」を公開
そして、医療者には、患者さん一人一人で異なる血糖トレンドを適切に評価し、そこから「何」を読み取り、治療や指導に「どのように」活かしていくかが、求められています。
しかし、連続測定により得られるデータの「量」は、たとえ一人の患者さんのデータであっても膨大なものとなり、日内変動、日差変動の背景にある病態、薬剤など、その解釈は容易ではありません。
本シリーズでは、医師、看護師、薬剤師等、異なる立場で糖尿病領域において活躍するスペシャリストに、臨床現場における"血糖トレンド"の意義や有用性、実際の活用方法を紹介していただきます(不定期更新の予定です)。
"血糖トレンド"をどう活用するか ▶
"血糖トレンド"をどう活用するか
「糖尿病治療における、血糖トレンドの有用性と活用性」(本文より)
南 昌江 先生
医療法人 南昌江内科クリニック 院長
糖尿病は慢性的な高血糖で定義される疾患です。慢性の高血糖により細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)や大血管症(脳心血管障害)という合併症を来し、そのことがQOL低下や寿命の短縮を招きます。よって、糖尿病を治療する目的は、糖尿病でありながらも糖尿病でない人と同じQOLと寿命を達成することにあります。その治療、ことに細小血管症の抑制において、血糖の管理が極めて重要であることは論をまちません。
現在のところ、血管合併症を抑制するための標準的な血糖管理指標はHbA1cです。一般的にはHbA1cを7%未満とし、高齢者の場合はこれをやや高めに設定することが推奨されています。確かにHbA1cは測定時点から過去1~2カ月の平均血糖値を反映する代替マーカーですから、慢性疾患である糖尿病の管理状況を把握するのに適した指標と言えます。HbA1c以外にも、より短期間の血糖マーカーとしてグリコアルブミンや1,5-AGといった指標があり、状況に応じて用いられています。
ただ、これらのマーカーはすべて測定時点から過去にさかのぼって一定期間の平均的な血糖レベルを、たった一つの数値で表すものですから、当然ながら血糖の日内変動や日差変動は把握できません。よってHbA1cを下げようとするとき、どの日の、どの時間帯にターゲットを絞って介入を強化すべかは、経験側に頼るしかなく、一筋縄に行きません。
また、例えば、既にHbA1cが6.9%と目標を達成している二人の患者さんがいたとします。しかし、その二人の血糖値は表1に示すように大きく異なる可能性があります。その違いを、これらのマーカーでは全く把握することはできません。
著者について
南 昌江(みなみ まさえ) 先生
医療法人 南昌江内科クリニック 院長
1988年、福岡大学医学部卒業後、東京女子医科大学付属病院内科入局/同糖尿病センターにて研修。1991年、九州大学第2内科 糖尿病研究室所属。1992年、九州厚生年金病院内科勤務。1993年、福岡赤十字病院内科勤務の後、1998年、南昌江内科クリニック開業。
14歳の夏、糖尿病を発症。以来40年以上、インスリン注射と共に糖尿病のある人生を送る。自身の経験と知識を生かし、糖尿病専門医として、多くの糖尿病の患者たちと接している。
著書に『わたし糖尿病なの』(医歯薬出版/1988年・共著)、『アイデアいっぱい 糖尿病ごはん』(書肆侃侃房/2011年)がある。
日本内科学会内科認定医、日本糖尿病学会専門医。