高血糖時のTRPC6発現増加が心不全発症リスク軽減 糖尿病性心不全の予防・治療に期待
2017.08.24
生理学研究所は、心筋細胞膜で高血糖時に発現増加するCa2+透過型カチオンチャネル(TRPC:transient receptor potential canonical)6チャネルが、心筋細胞での活性酸素の生成を抑制することで心不全発症リスクを軽減することをマウスを用いて明らかにしたと発表した。
TRPC6チャネルが活性酸素の生成を抑制し心臓を保護
研究は、生理学研究所心循環シグナル研究部門の西田基宏教授(九州大学教授兼務)、総合研究大学院大学・大学院生の小田紗矢香の研究グループと、味の素製薬(現EAファーマ)、筑波大学、米国国立環境健康科学研究所(NIEHS)との共同研究によるもので、同研究成果はオンライン科学誌である「Scientific Reports」に掲載された。 糖尿病によって直接心筋が障害を起こすだけでなく、心臓へ栄養を供給する血管である冠動脈が異常をきたす冠動脈狭窄など、他の危険因子も合併していると考えられている。その原因として高血糖が引き起こす酸化ストレスの関与が報告されているが、詳しいメカニズムは不明だった。 研究グループは今回の研究で、インスリンの分泌を阻害する薬剤によって高血糖状態にした「TRPC6チャネルを欠損させたマウス」では、野生型マウス(WT)やTRPC3欠損マウスと比べて突然死する個体が増加したり、全身へ血液を送る左心室の筋力が衰え、顕著な収縮力の低下をきたすことを突き止めた。 また、マウス心臓を高血糖状態にすることでTRPC6チャネルの発現量が増加する一方、活性酸素生成酵素(Nox2)の発現量は低下することも明らかになった。TRPC6チャネルを欠損したマウスで酸化ストレスが顕著に増加
2016年、西田教授の研究グループは、心筋細胞膜上に存在するTRPC3チャネルがNADPHオキシダーゼ2(Nox2:酸化ストレスの原因となる活性酸素を生成する酵素)と相互作用することで、Nox2タンパク質自体が分解されるのを抑制するとともに、Nox2自体の安定化にも寄与していることを報告した。 さらにTRPC3チャネルは、心筋細胞の物理的伸展刺激によって活性化することから、Nox2からの活性酸素生成を促し、心臓の線維化(硬化)を誘導される、という心筋梗塞のメカニズムの一端を明らかにした。高血糖状態でTRPC6チャネルが増加すると酸化ストレスが軽減し心臓を保護
さらにTRPC3チャネル、TRPC6チャネル、Nox2のそれぞれを過剰に発現させた細胞を用いた実験の結果、TRPC6チャネルはTRPC3チャネルと複合体を形成することでTRPC3とNox2が複合体を形成するのを抑制し、結果的にNox2の発現量を低下させていることが明らかになった。 つまり高血糖状態の心筋でTRPC6チャネルが増加することは、結果として心筋の酸化ストレスを軽減し、心臓を保護する役割につながっていることを示唆している。[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]