糖尿病を止めよう(Stop Diabetes) 先進的な5件の研究プログラムに資金助成 ADA2016

2016.06.20
 米国糖尿病学会(ADA)は「Stop Diabetes」(糖尿病を止めよう)キャンペーンを展開しており、5件の先進的な研究プログラムに資金助成を行うことを発表した。5~7年の研究助成として約1.7億円(162.5万ドル)の資金が提供される。この研究助成は、米国の財団や企業、個人からの寄付によってサポートされている。

嗅覚が2型糖尿病や肥満の発症に影響

 Celine Emmanuelle Riera氏(カリフォルニア大学バークレー校)は、嗅覚が代謝に変化をもたらし2型糖尿病や肥満の発症に影響するという研究を行っている。Riera氏らは、ジフテリア毒素の受容体介在細胞死により嗅覚に障害のある実験マウスを作成。嗅覚が減少することで鼠径部の褐色細胞の発生熱が増加し、食事が原因の肥満に対し耐性が起こることが判明した。

 Riera氏は、肥満が始まった後の急速な嗅覚の減少が、さらなる体重増加を遅らせ肥満と脂肪量を減らすることを突き止めた。「嗅覚の感覚系統から中枢神経系にアクティブな連絡経路があり、栄養の感覚性シグナルにおいてエネルギーの恒常性を調整する働きをしていると考えられる」と述べている。

2型糖尿病の遺伝因子はエピジェネティクスによって決まる

 Stephen C.J. Parker氏(ミシガン大学医学大学院)は、ヒトの骨格筋に2型糖尿病の遺伝性かつエピジェネティックの調節系サインがあることを報告した。Parker氏らは、糖尿病の発症に影響する遺伝変異の標的となる遺伝子を識別して、その相違がどのように遺伝子の機能や発現への影響を決定しているかを解明する研究を行っている。

 「2型糖尿病の遺伝因子について、ゲノムの小さな差異はほとんどが遺伝子内部で生じるものではなく、エピジェネティクスによって生じる。糖尿病をどのように発症するかを決める遺伝的変異は遺伝子の外部からもたらされる点がとても興味深い。このことは、糖尿病の診断と診断予後の治療により、糖尿病の病状を効果的に改善できることを示している」と、Parker氏は述べている。

遺伝情報をもとに妊娠糖尿病を予測 効果的な治療を

 Marie-France Hivert氏(ハーバード大学医学大学院)は、妊娠糖尿病のコホート研究から血糖値に与える影響が妊娠によるものかをそうでないかを識別する方法を探り出している。Hivert氏らは遺伝的リスクスコアを作成し、そのスコアにもとづき妊娠中期の妊婦に空腹時血糖について調べ、妊娠以外の既知の遺伝的変異を空腹時血糖と結び付けられるかを調査した。

 「空腹時インスリン検査を行ったところ、妊娠以外の遺伝的変異が存在することに気が付いた。遺伝子が構造的に空腹時インスリン分泌にもらたす影響は妊娠によるものとそうでないものがあり、多くの生理的因子が遺伝的因子に優先していると考えられる」と述べている。

 「将来的には、遺伝情報をもとに妊娠糖尿病リスクの高い女性をターゲットに集中的な治療を行うことで、合併症を予防できるようにしたい。妊娠後の2型糖尿病の発症リスクの高い女性に対しても効果的な介入ができるようになるだろう」と、Hivert氏は述べている。

糖尿病網膜症の原因になる蛋白質を解明

 Michael D. Dennis氏(ペンシルベニア州立大学医学大学院)は、糖尿病網膜症によって引き起こされる神経血管性合併症の発達におけるストレス反応蛋白質「REDD1」の役割を調査している。糖尿病マウスによる実験では、糖尿病網膜症で発現するREDD1には、高血糖が引き起こす遺伝子発現の初期の変化が関わっていることが示された。

 Dennis氏らは、REDD1遺伝子をノックアウトしたマウスでは、対照群に比べて糖尿病を発症しても視力を維持できることを突き止めた。「血糖コントロールにより糖尿病網膜症の発症と進行を減少できるが、血中のグルコースが網膜に与える影響には不明の点も多い。REDD1の反応をターゲットとなる分子ツールを開発することで、糖尿病患者のアウトカムを改善し失明を防げる可能性がある」と述べている。

1型糖尿病の発症メカニズムを解明 β細胞の破壊を止める

 Thomas Delong氏(コロラド大学)は、1型糖尿病の発症原因となる自己免疫によるβ細胞の破壊のポテンシャルな導引となる蛋白質について研究している。「1型糖尿病を発症したマウスの膵島では、自己免疫を引き起こすT細胞の標的になるのを逃れたβ細胞が見られる。我々はT細胞の標的となる新たな坑原蛋白を識別するのに成功した」と、Delong氏は言う。

 「この坑原蛋白はβ細胞で見られるインスリンの断片が他のペプチドに結合するときに現れる。このハイブリッドのインスリンペプチドのアミノ酸配列順序は個人のDNAでコード化されない。自己免疫寛容がどのように起こり、1型糖尿病の進行に影響しているかを解明する手かがりになる。1型糖尿病の発症メカニズムを解明できれは、発症の防止や病状の進行を止めることができ、治すこともできるようになると考えている」と述べている。
ADAの優秀賞を受賞したThomas Delong氏のインタビュー
第76回米国糖尿病学会(ADA2016)

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