1型糖尿病患者さんの連載「インスリンとの歩き方」第4回を公開
1型糖尿病患者の遠藤伸司さんによる連載「インスリンとの歩き方」は、第4回「消えたインスリン」を公開しました。楽しいはずの卒業旅行で起こったアクシデントとは? 連載「インスリンとの歩き方」へ ▶
執筆者の遠藤さんは、中学生の頃に1型糖尿病を発症。以来、約30年間の療養生活の中で、留学や進学、就職、そして転職、プライベートまで幅広い経験を積み、なにかと無理をすることもあったようです。
連載では、そんな遠藤さんの半生を、糖尿病——特にインスリン製剤と上手につきあうためのコツやノウハウを中心に、実体験のエピソードを交えて語っていただきます。1型糖尿病患者さんをはじめ、2型糖尿病患者さん、糖尿病医療に携わる方々は、ぜひご一読ください。
第4回 消えたインスリン(本文より)
友人たちの就職もほとんど決まり、肩を落とすものなど一人もいない、まだ右肩上がりの経済成長が信じられていた頃の、大学4年の夏だった。ただ、僕一人は、忽然と正体を現した魔物を抱えていた。
「健康な人より、あなたの人生の残り時間はきっと少ない」
振り払っても払っても、この魔物は耳元で囁くのをやめなかった。まともにこんな魔物に勝負を挑めば、冷静さを失い、奈落の底まで落ちてしまいそうだった。
アメリカに卒業旅行に行こうという友人の誘いに乗った。頭から魔物を振り払うためには絶好の機会に思えた。ロサンゼルスを起点に、ネバダ、カリフォルニアを2週間、レンタカーで周るプランだった。
英語でいろいろ聞かれたらどうしよう、大量のシリンジ注射器に疑いをかけられたらどうしよう、手荷物検査やボディチェックの度に、日本糖尿病協会が発行するカード「I HAVE DIABETES」を水戸黄門の葵の御紋のように握りしめていたが、何事もなくロサンゼルス空港の外に出た。