1型糖尿病患者さんの就職活動 「インスリンとの歩き方」第3回公開
1型糖尿病患者の遠藤伸司さんによる連載「インスリンとの歩き方」は、第3回「第3回 就活と見えざる何か」を公開しました。
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執筆者の遠藤さんは、中学生の頃に1型糖尿病を発症。以来、約30年間の療養生活の中で、留学や進学、就職、そして転職、プライベートまで幅広い経験を積み、なにかと無理をすることもあったようです。
連載では、そんな遠藤さんの半生を、糖尿病——特にインスリン製剤と上手につきあうためのコツやノウハウを中心に、実体験のエピソードを交えて語っていただきます。1型糖尿病患者さんをはじめ、2型糖尿病患者さん、糖尿病医療に携わる方々は、ぜひご一読ください。
第3回「就活と見えざる何か」(本文より)
三島由紀夫の言葉を借りれば、僕の母校は「見せかけの形式主義が伝統的に巧みな校風」だったように思う。一貫校ということもあり、大学は入試もせずにそのまま入学した。カタツムリの殻もいよいよ厚くなって、ドクターとの診察ももはや形式的な儀式のようになっていた。発症後、約10年が経過していた。月一回の診察は、必要最低限のやりとりで済ませた。HbA1cの結果と合併症の有無を聞かれるくらいだった。血糖の結果を記載した血糖自己管理ノートはほとんど持参しなかった。
「血糖測定ノートはどうされましたか?」とドクターに問われれば、
「あっ、すいません。忘れてしまいました......」と、脂汗を拭くふりをしながら神妙に答えた。ホンネでは、「血糖値なんて、感覚でわかるから、測らなくても大丈夫なんだ」と思っていたが、そんなことは覚られないよう振る舞った。
月一の診察をそんなふうにやり過ごしながら、大学生活は終盤にさしかかっていた。いよいよ就職活動の時期が始まろうとしていた。《1型糖尿病患者でも就業に問題はありません》、そんな証明書のようなものをドクターに書いてもらい、僕の就活は始まった。