肌に貼り付けるだけでインスリンを自動投与 「インスリン パッチ」を開発

2015.06.25
 適量のインスリンを自動的に投与する「スマート インスリン パッチ」の開発に成功したと、米国のノースカロライナ大学などが発表した。まだ動物実験の段階だが、インスリン注射に代わる新たな治療法になる可能性がある。

痛みを伴わず自動的に適量のインスリンを投与

 米国のノースカロライナ大学とノースカロライナ州立大学の研究チームが開発を進めている「スマート インスリン パッチ」は、肌に貼り付けておくだけで、血糖値の上昇を感知し、自動的に適量のインスリンを投与する世界初のデバイスだ。

 「米国では数百万もの糖尿病患者がインスリン注射を毎日行っている。このスマート パッチを実用化できれば、痛みを伴うインスリン注射から解放される」と、開発を主導しているノースカロライナ大学のツェーン グー教授(生体医用工学)は話す。

 スマート パッチは、1セント硬貨ほどの大きさの正方形で、髪の毛の100分の1の精度のナノテクノロジーを応用して設計されており、100本以上のマイクロ針が埋め込まれている。

 パッチは痛みを伴わず、体のどの部位にも貼り付けることができ、高血糖を感知し、インスリンが自動的に投与される仕組みになっている。

 マイクロ針の内部には、「ブドウ糖反応性ベシクル」と呼ばれる小さいパケット(小包)が仕込まれている。パケットは、疎水性(水をはじく性質)の部位と親水性(水となじむ性質)の部位からなり、内部にインスリンが収められている。

 ブドウ糖濃度が高くなると、血糖値を感知する酵素が反応し、ベシクルが収縮し破裂し、内部に収められたインスリンを放出する。インスリンは皮下組織を通じて毛細血管に取り込まれ、血糖値を下げる仕組みだ。

 マイクロ針の材料は、化粧品などに使われている天然成分であるヒアルロン酸と、検査などで酵素として使われている2-ニトロイミダゾールだ。

30分以内に血糖値を下げ、効果は9時間持続

 このスマート パッチによる血糖コントロールは、血糖値の変動を追跡して適量のインスリンを投与し続ける「クローズド ループ システム」になっており、膵臓のβ細胞からのインスリン分泌に近い自然なインスリン治療を可能にするという。

 米科学アカデミー紀要(PNAS)に発表された研究報告によると、1型糖尿病のマウスを用いた実験では良好な結果を得られた。

 スマート パッチをマウスに貼付すると30分以内に血糖値が抑えられ、その効果は最大で9時間持続し、副作用はみられなかった。一方、マウスにインスリンを注射器で注入した場合は、血糖値は正常にコントロールできるが、次の注入が必要となるまでの時間がパッチを貼付したマウスに比べて短かった。

 ヒトを対象とした臨床試験が行えるようになるまでに多くの課題があるが、実現すればより良好な安定効力を得られる可能性がある。また、マイクロ針に含まれる酵素の量を変えればインスリン投与量を変えられ、患者の個別の治療にも対応できるという。

 「糖尿病の治療の難しい点は、頻回のインスリン注射と血糖測定を毎日行い、食事や運動を管理し、治療を生涯を通じて続けなければならないことだ。開発中のスマート インスリン パッチが実用化できれば、糖尿病治療に大きな変革をもたらすだろう」と、ノースカロライナ大学糖尿病ケアセンターのジョン ブッゼ氏は述べている。

 この研究は、米国糖尿病学会(ADA)が設立した「Pathway to Stop diabetes(糖尿病阻止への道)」による資金提供や国立保健研究機構の支援を受け行われている。

Smart insulin patch could replace painful injections for diabetes(ノースカロライナ大学 2015年6月23日)
Microneedle-array patches loaded with hypoxia-sensitive vesicles provide fast glucose-responsive insulin delivery(米科学アカデミー紀要 2015年6月22日)

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