糖尿病で足を切断しないために 足の動脈硬化「閉塞性動脈硬化症」
2014.02.25
日本フットケア学会、日本下肢救済・足病学会などは、2月10日の「フットケアの日」に合わせて、東京でプレスセミナーを開催した。福岡山王病院循環器センター長の横井宏佳先生に、足の動脈硬化によって引き起こされる「閉塞性動脈硬化症」について、お話を伺った。
糖尿病の人では閉塞性動脈硬化症が起こりやすい
動脈硬化による病気は、脳や心臓などの動脈に動脈硬化が起きる脳梗塞や心筋梗塞がよく知られているが、それ以外の首や足の動脈にも動脈硬化は起こる。足の動脈に動脈硬化が起こり、その結果、血管がつまってしまうと、しびれや冷感、だるさや痛みなどの症状が足に現れ、「閉塞性動脈硬化症」(ASOやPAD)という病気に進展する。 閉塞性動脈硬化症は、一般的に症状がゆっくり進行することが多く、「年のせい」と思い治療をしていない人は少なくない。典型的な例として、1年前より歩くと足が重くだるくなり、徐々に歩かなくなった70歳台の糖尿病の男性の場合、運動不足から血糖コントロールが悪化し、そこではじめてかかりつけの医師に足の症状を話した。 すると、閉塞性動脈硬化症と診断され、治療を開始した。治療後、諦めていた足の痛みはなくなり、歩けるようになった。運動療法を積極的に行うようになった結果、血糖コントロールも改善した。「年のせい」ではなかったのだ。 閉塞性動脈硬化症では、血管が動脈硬化によって狭くなったり、つまってしまうことで血流が悪くなり、さまざまな症状が起こる。まず最初に手足の冷たい感じやしびれを感じるという程度の症状が出る。やがて、筋肉が血行障害で痛むようになる。 血流が悪化すると歩行中に足が痛くなり、歩けなくなることもある。立ち止まって休むと血行障害が改善され痛みが治まり歩けるようになるが、しばらく歩くと、また痛みだす。これが「間欠性跛行」の症状だ。この症状が起こると、歩くのがつらくなり、歩行距離が短くなる。 糖尿病の人が血糖コントロールが悪い状態が続くと、血管の老化が健康な人より早く進み、閉塞性動脈硬化症が起こりやすい。その場合、足に潰瘍や壊疽が起こることがある。糖尿病神経障害が起きている場合は、傷をつくっても気づかなかったり、痛みに鈍感になっているため感染症が広がりやすいという問題も起こりやすい。閉塞性動脈硬化症の治療は進歩している
診察以外に、簡単に閉塞性動脈硬化症かどうか分かる検査としてABI検査がある。足首と、上腕の血圧を同時に測定する検査で、通常は下肢(足関節)の血圧は上肢(腕)の血圧と同じか少し高いが、この比が0.9以下のときは、下肢の動脈に狭窄または閉塞が疑われる。 ABIの測定は、足の症状や、脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化疾患をもった人に勧められる。糖尿病や高血圧症、脂質異常症のいずれかひとつをもっている人には積極的な測定が勧められる。また、ABIが低く、異常であるため積極的に問診をしたところ、足のしびれや、冷感などの症状が、実は以前からあったという方も非常に多いという。 閉塞性動脈硬化症の治療には、まず患部(動脈の詰まった箇所)を正確に特定する必要があり、一般的には血管エコー、CT、MRI(磁気共鳴画像装置)による脚部血管の画像診断が有効だ。 足のしびれや、冷感など症状はあるが、軽度であれば薬物療法で症状が良くなることも多いが、薬で効果を得られない場合や、動脈硬化が進行して症状が悪くなっている場合は、物理的に血行をよくするインターベンション治療が検討される。 インターベンション治療とは、血管に通したカテーテル(管)を使って、狭くなりつまりかけた血管の状態を改善し血液の流れを良くする治療法。血管に細い管(カテーテル)を入れ、カテーテルの先端に取り付けた風船をふくらませ、ステントと呼ばれる金属製の小さな筒を血管内に埋め込み、つまっている血管を拡げる治療法だ。 インターベンション治療は急速に進歩している。特にカテーテル治療の発展はめざましく、最近では血管が細くて以前は治療できなかった膝から下の血管に対しても、足先の症状が重度の場合に、治療を行えるようになってきた。足の血管病の前兆を見逃さず治療することが重要
糖尿病合併症として知られている「壊疽」。糖尿病が原因で身体の末端の血行や神経に障害が生じ、小さな傷が治らずに潰瘍化してしまうことが原因だ。 「小さな傷が治らず、壊疽に至るのは、糖尿病が血管の動脈硬化を進行させてしまい、血管が詰まって血液の循環が悪くなっているから。血管が詰まって、そこから先に新鮮な血液が末端に届けられないために傷が治らず、傷が感染を起こし、潰瘍化してしまうのです」と、福岡山王病院循環器センター長の横井宏佳先生は話す。 足に壊疽が起きてしまうと、これまでは切断手術による対処療法しかなかった。ところが、壊疽の原因となっているつまった足の血管をインターベンション治療によって拡張する治療法により、足の切断を回避できるケースが増えている。 重症虚血性肢疾患にインターベンション治療を行う施設では、「足切断しか手がない」という診断が出ていても、まず血流診断を行う。インターベンション治療の適応があれば、足の付け根からカテーテルを通しつまった血管を拡げる。膝下の重症虚血性肢疾患で積極的なインターベンション治療を行うことで、血流が回復、血行が改善して潰瘍や壊疽が治ったと報告されている。 「大切なのは、足の血管病の前兆を見逃さず、きちんと治療すること。閉塞性動脈硬化症は、治らない病気ではありませんが、早期の診断が大事です。足の血管病で現れる症状は、足が冷たい、足がしびれる、足が痛いなど。進行すると足の傷が治りにくくなります。足に異常を感じたら、医師に相談してABI検査を受け、下肢虚血の客観的診断を受けて欲しい」と、福岡山王病院循環器センター長の横井宏佳先生は話す。集学的・横断的治療で下肢救済
閉塞性動脈硬化症は、全身の血管が重度の動脈硬化を起こしていることがほとんどだ。脳梗塞や心筋梗塞になる確率が通常の人に比べ非常に高く、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの治療を厳格に行う必要がある。これらの治療をかかりつけ医と相談しながら治療していく必要がある。 福岡山王病院では、糖尿病内科と壊死した組織の周辺に血が行くように血流を改善する循環器内科、血管外科、壊死した部分を処置する形成外科などが連携し、フットケア外来を立ちあげ、脚の救済に取り組んでいる。重症であっても脚を切断しなければならない患者は減少した。 地域の糖尿病や腎臓専門の医師やかかりつけ医と密接な連携をとり、ABIの早期施行や血管専門技師による精査、そして必要な患者には循環器科・血管外科で血行再建を行い、創傷患者は形成外科で創傷管理を行い、この全過程に看護師がフットケアとして関わる診療体制を確立した。していきたい。 「閉塞性動脈硬化症は足切断に至る場合もある深刻な病気であり、自覚症状もはっきりしているのに、実際の医療現場では、血管がつまっていることが見過ごされる場合が少なくありません。大事なのは早期に発見することです。悩んでいる患者さんは、気軽に循環器専門医を受診してください」と、横井先生は述べている。 福岡山王病院(一社)日本フットケア学会
日本下肢救済・足病学会
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]