糖尿病腎症の原因は「尿細管-糸球体連関」 新たな治療法に期待

2013.11.01
 慶応義塾大学の研究チームは、糖尿病腎症(糖尿病による腎障害)の新しい発症メカニズムの解明に成功したと発表した。糖尿病腎症の原因として、「尿細管-糸球体連関」という従来にない新しい考え方を提唱し、より早期に診断することで発症を防ぐ"先制医療"の可能性を示した。

アルブミン尿が出る前から糖尿病腎症は始まっている

 これまで糖尿病腎症の研究は、糸球体の障害のメカニズムを中心に行われており、アンジオテンシン受容体拮抗薬の治療への応用など、一定の成果をあげてきたが、糖尿病腎症を完全になくすまでに至っていない。

 今回、研究グループは、糖尿病が糖分や脂肪分を利用してエネルギーをつくりだす「代謝」の異常であることに着目し、腎臓の細胞でもっとも代謝が活発な尿細管が真っ先に障害を受けていると考えた。

 多くの生命体で、カロリー摂取を制限することで、寿命を延長させることが知られている。これは「長寿遺伝子サーチュイン(Sirt1)」と呼ばれる遺伝子が、カロリー制限することで増加することで説明できる。

 研究チームは、腎臓でもSirt1の発現は増加することや、尿細管での意義に注目し研究を行った。そして、糖尿病では、カロリー制限した場合とは逆にSirt1のレベルが、糸球体障害が生じる前の時点からすでに尿細管で低下していることを発見したほか、Sirt1のレベルの低下が細胞の中でエネルギーの状態を調節する役割を果たす「ニコチン酸」の代謝を障害することを発見した。

 さらに研究を行い、ニコチン酸のうち「ニコチン酸モノヌクレオチド(NMN)」という物質が尿細管から糸球体に放出されることを突き止め、その放出が糖尿病では低下していることを発見した。

 NMNの放出レベルが減ると、糸球体のふるいを構成する「足細胞」という細胞の機能に異常が生じ、足細胞のSirt1の発現が低下する。すると、ふるいを構成するタンパク「クラウディン-1(Claudin-1)」の発現が上昇し、ふるいが障害されタンパク尿が出現するという一連の病気の流れが判明した。この連関について研究チームは、「尿細管-糸球体連関」と名付けた。

 今回の研究によって、アルブミン尿が出る前から、すでに尿細管ではエネルギー代謝の失調を起こし、糸球体障害を招いていることがあきらかになった。尿細管-糸球体連関の破綻が生じたときには、もうすでに糖尿病腎症は発症しているという。

 糖尿病腎症の早期診断としてアルブミン尿(微量タンパク尿)を検出する検査が、糸球体の障害を早期に検出する方法として多くの患者で行われている。尿中のNMNの低下やClaudin-1の上昇レベルを測定すると、糖尿病腎症をより早期に診断できるようになると、研究グループは述べている。

 さらに、この連関の断絶を修復する、例えばカロリー制限や運動をすることで腎臓のSirt1の働きを活発にすることや、NMNを補充するといった新しい治療が有効である可能性が示された。「糖尿病腎症はある程度進むとなかなか進行を止められません。これまでの進行を遅らせる治療から、発症させない"先制医療"が極めて重要です」と、研究チームは説明している。

 同成果は、慶応義塾大学医学部内科学教室(腎臓内分泌代謝内科)の長谷川一宏助教、脇野修専任講師、伊藤裕教授、米マサチューセッツ工科大学のLeonard Guarente教授らによるもの。詳細は、「Nature Medicine」オンライン版に発表された。

慶応義塾大学医学部内科学教室(腎臓内分泌代謝内科)

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