糖尿病患者の治療と就労の両立 実態が明らかに 第56回日本糖尿病学会年次学術集会
2011年の国民健康・栄養調査によると、「糖尿病が疑われる人」と「糖尿病が否定できない人」を合わせて27%、国民の4人に1人以上が糖尿病あるいはその予備群であると推計されている。しかし一方で、糖尿病患者の4割が未治療・治療中断という実態がある。日本糖尿病学会の調査では、定期的な通院を自己中断した主な理由として「仕事が多忙である」との理由が多くを占め(51%)、中断率は男性・若年・サラリーマンや専門職で高かった。
糖尿病患者さんの3人に1人が
"2~3時間待って診察は10分程度"
今回発表されたのは、労働者健康福祉機構の平成24年度病院機能向上研究(研究責任者:関東労災病院糖尿病内分泌内科・浜野久美子)で実施された、就労と糖尿病治療両立に関する実態調査の報告。本調査を通して、患者はどのような環境の中で治療を行っているか、また仕事との両立にどのような困難があるのかをあぶり出し、医療を提供する側として患者の現実的なニーズを探ることを目的としたもの。
調査は、全国の労災病院で受診中の糖尿病患者および糖尿病ネットワークの患者向けメルマガ会員で現在就労中の人を対象に、昨年9月から11月に実施された。有効回答数は528名で、1型糖尿病患者(以下、1型)は221名、2型糖尿病患者(以下、2型)は272名だった。回答者の年齢構成をみると、1型は30代から50代、2型は40代から60代を中心とする働き世代。治療は、1型はインスリン療法が98%、2型は飲み薬が2型の7割、インスリン療法が4割と、インスリン療法の人が多いこともあってか、通院間隔は1カ月ごとが6割を占め、2カ月間隔が25%だった。
通院の時間帯では、「平日午前」が51%と最も多く、「平日午後」が25%、次に「週末午前」が18%。そして、病院での滞在時間(病院に入ってから出るまで)は、「2~3時間」が32%、「1~1.5時間」が21%、「2時間以上」が20%だったが、実診療時間は、「10~14分」が39%、「15~29分」が30%、「5~9分」が21%と、待ち時間の長さを改めて印象づける実態が明らかになった。罹病歴が長く、血糖コントロールが安定した患者さんでは病院へは処方箋をもらいにいくだけという声もよく聞くが、簡単な問診と決まった薬剤や消耗品を受け取るだけの短時間診療も多い。10分程度の診察のために数時間待たされるのが当たり前という状況は糖尿病診療に限らないが、長期間の定期通院が必要となる糖尿病の治療継続では、1つの大きな障害になっていることが予測される。
Q. 病院滞在時間 (n=528)
Q. 実診察時間(n=528)
鈴木 淳ら:第56回日本糖尿病学会年次学術集会発表データより
4割の患者、通院は「有給」で
仕事と治療の両立は半数が「難しい」
次に、通院のために、どのように時間を作るかという問いでは、「1日有給をとる」、「週末などの休日利用」という人が最も多く各24%、「半日有給」が16%と、4割の患者が有給をとって通院している実態が明らかになった。また、「勤務中に時間をもらう」が14%、「1日欠勤」9%、「勤務中の昼食/休憩時間」3%など、欠勤や早退扱いになったり、わずかな休憩時間で通院している人も多い。さらに、仕事を休む際、「通院のため」と会社に伝えているか?という問いでは、「上司/総務/同僚に伝えている」が45%であったが、29%が「伝えていない」と答えた。
Q. 通院のための時間のつくり方(n=528/複数回答可)
鈴木 淳ら:第56回日本糖尿病学会年次学術集会発表データより
こういった治療環境のなか、仕事と治療の両立を「とくに問題なし」と回答したのは47%、「難しい」が39%、「とても難しい」が11%と、回答者の半数は両立が「難しい」と実感している。両立の障害として、「医療費負担が重い」が60%、「人前で注射やSMBGが行いにくい」が42%、「職場の飲み会などの付き合いを断りにくい」、「病院での待ち時間が長い」が各34%、「治療を理由に休みが取りにくい」が29%と続き、医療費負担や社会的環境面での障害もあるが、職場環境や医療機関側の問題も多い。
実際、両立環境改善の要望として、「糖尿病について、もっと理解が広まって欲しい」の45%に続き、「夜間などの診療」、「病院の待ち時間短縮」が各42%、「勤務中に対処しやすい方法を検討してほしい」、「薬剤や消耗品を受け取れる場所を増やしてほしい」が各2割と、医療機関側に求める声は根強かった。
Q. 仕事と糖尿病治療両立の障害(n=528/複数回答可)
鈴木 淳ら:第56回日本糖尿病学会年次学術集会発表データより
未治療・治療中断が増えれば
国の経済損失にも
サラリーマンは収入源を失うわけにはいかないので、糖尿病があるとはいえ仕事を優先せざるをえないのが現実だ。個人の努力で対処できる範囲には限界があり、治療環境に恵まれない人は治療中断に追い込まれ、仕事が多忙で病院なんか通えないと、はなから未治療という道を選ぶ人もいる。このような人が、前述の未治療・治療中断療患者4割の中に多くいるとみられる。長期間放置すれば、病状悪化は必至。この状況に危機感を持っている医療者は多いが、これも一個人、一医療機関で解決するのは困難である。
浜野久美子氏は、「厚生労働省では、産業界との連携による職場環境整備の一層の推進を図ることを提言し、『就労と治療の両立・職場復帰支援に対するガイドライン』の作成に向けて調査・研究が行われています。一方、本調査で医療機関側の問題があぶり出され、病診連携の推進をはじめとした受診システムへの解決策も求められていることが明らかになりました。本研究ではこの問題に関して、ICT(Information and Communication Technology)がその支援体制構築の1つのツールになり得ると考え、現在調査・開発準備中です」と述べている。
仕事と治療を両立・支援するための社会システムの構築は、まさに緊縛の課題だ。未治療・中断患者が増えるほど、将来的に国が負担する医療費は増加する。能力がうまく活かせない従業員が増えれば企業の営業利益に影響を与え、元気な労働者が減るほど国としても経済損失は大きくなる。糖尿病をもつ人が、仕事をしながら安心して治療を継続していくために、医療、産業界を含めた社会全体での仕組みづくりが求められている。
治療と職業生活の両立等の支援に関する検討会報告書
就労と治療の両立・職場復帰支援(糖尿病)研究中間報告(平成23年度)
調査報告「 糖尿病医療や療養生活での不便や不満、ストレス」「糖尿病治療の中断」 糖尿病ネットワークアンケート・コーナー
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